第85話 バレンタインデーの前日に


 今日は二月十三日日曜日。いつもの様に加奈子さんと会っている。


彼女は四月から東京の大学に通う為、学校の近くのセキュリティの厳しい女性専用マンションに入居するらしい。セキュリティは隣の部屋を借りる。もちろん女性だ。


 彼女と同じ大学に通う学生だ。俺には理解出来ないけど。それにお手伝いさんも別の部屋に入居するらしい。まああの家柄では当然なんだろうな。

 でも彼女料理出来たはずなんだけど。



「達也、それでね私毎週日曜日は実家に帰るからあなたに会う為に。だから日曜日は必ず開けておいてね」

「でもそれって大変じゃないですか。交代で行き来すれば良いじゃないですか」

「ふふっ、ありがとう。でも私の住むマンションは女性専用なの。だから達也は入れない。本当は普通のマンションに住みたかったけど。仕方ないわ」

「でも外で会えば…」

「そんなの駄目に決まっているでしょ」

 全くこの人俺と会う時だけ頭の中お花畑の様な。


「達也、何考えているの。達也は私としたくないの」

「いえ、それは…」

「どっち?」

「…したいです」

「ふふっ、素直で宜しい」

「…………」



「達也、明日バレンタインデーだよね。一日早いけど、はいこれ。全部私の手作り。家に帰って食べてね」

「今食べなくていいんですか」

「ふふっ、今から達也が食べるのは…」


 


それから二時間位して、まだ彼女のベッドの上だ。

壁に防音壁を着けたらしい。彼女曰く、父親からうるさいと言われたそうだ。全くこの家は。


彼女が、俺に抱き着きながら

「達也、桐谷さんの事解決できた?」

「まだです。もう他の男子とキスをするまでの仲になったみたいなので、手遅れだった見たいです」

「ふふっ、本当にキスしている所見たの?」

 あの子が達也を裏切ってそんな事するはずない。多分見間違い。


「いえ。それらしいところを見たんですけど」

「まったく、達也そんな事でいいの。正妻を他の男に取られたいの?」

「駄目です」

「なら今からでも行って言いなさいよ。彼女の前で。文句言うな俺について来いって」


「あのー。加奈子さん。俺に抱き着きながらそんな事言うんですか?」

「ふふっ、手助けしないけど、私の未来の旦那様がそんな男じゃ困るからよ。でも助言したんだから、ねっ」


思い切り口付けをして来た。



それからまた二時間位して加奈子さんの家を出た。今日は駅前の喫茶店には寄らず、彼女の家から直接自分の家に戻った。


 確かに加奈子さんの言う通りだ。俺の大切な人がちょっとよそ見したからってめそめそしているのは俺には似合わない。しかしこれで益々加奈子さんには…。仕方ないか。



 俺は一度家に帰り加奈子さんから貰ったチョコレートを自分の部屋に置いてから早苗の家に行った。


ピンポーン。


ガチャ。


「あら、たっちゃん」

「早苗いますか?」

「部屋に居るけど、呼んでくる?」

「いえ、上がらせてくれますか」

「あっ、ごめんなさい。上がって…。たっちゃん娘の事お願いね」

 何となく俺達の間が気まずいのが分かっていたんだろうか。懇願される様な目で見られた。



コンコン。


「誰?」

「俺だ達也だ」

「えっ?!」

「入っていいか?」

「何の用?」

「話したいことが有る」


ガチャ。


 達也が強引に入って来た。


「何よ、いきなり。入っていいなんて許可した…」


 俺はそれ以上話させる事を止めさせた。最初だけ抵抗するような仕草を見せたけど、段々俺の背中に手を回して来た。


 ずっと、そのままでいた。


 どの位経ったのか。一分か十分か分からない位、彼女と口付けした。



 ゆっくりと唇を離すと

「早苗、俺を信じてくれ。文句を言わずに付いて来いとは言わない。でも俺と一緒に居てくれ。俺の側に居てくれ」


「…達也。…三頭さんとはどうなるの?」

「話した通りだ。でも俺はいつもお前を見ている」


「ぐすっ、本当に。本当に私だけをずっと見ていてくれるの?三頭さんなんか見ないでずっと私を見ていてくれる」

 なんかまた話が変わっているが仕方ない。


「ああ、早苗をずっと見ている」




「バカバカバカ。達也の馬鹿。バカバカバカ。私をこんなに不安にさせて。責任取ってよ。ねえ責任取って。…声出さないから」

「今は流石に無理だ。明日にしよう」

「じゃあ、学校帰ったらすぐだよ。ずっとだよ」

「分かった」

 明日は玲子さんと会う予定だったけど先延ばしして貰うか。



「あっ、明日って十四日。どうしよう」

「どうした?」

「チョコ用意していない。何も考えられなかったし」

「はははっ、チョコなんていいよ。早苗の気持ちは十分分かっているんだから。ホワイトデーもいらないだろう?」

「ホワイトデーは欲しい」

「…………」

 そういう事?


「ねえ、明日からまた一緒に登校しよう。また元通りだよ」

「ああ、そうするか」

「じゃあ、達也」


 目を閉じて来た。



「じゃあ、俺帰るから」

「達也ちょっと待って」


 早苗がティッシュで俺の唇を拭いてくれた。

「ふふふっ、瞳ちゃん感鋭いからね」



 俺は家に帰ると


「ただいま」


タタタッ。


「お兄ちゃんお帰り」


 じーっ。クンクン。


「ふふふっ、お兄ちゃん。今日は二人の女性の匂いがする。一人は早苗お姉ちゃんね。もう一人は、あっ、加奈子さん」


タタタ。


「お母さーん。お兄ちゃんが加奈子さんと早苗お姉ちゃんの匂い付けて帰って来た」

 今度匂い消しでも持って歩くか。


 夕飯の時、いつもの様に追及されるかと思ったけど母さんと瞳はニコニコ笑っているだけだった。





翌日朝、俺が玄関を出ると


「達也おはよ。マフラーちゃんとしてくれているんだ」

「早苗おはよ。当たり前だろう。毎日している」

「そっか」


 俺の右ポケットにいきなり手を突っ込んで来た。そうなると思って右手には手袋をしていない。

「ふふっ、達也ありがと」

「…………」



 駅まで行くと玲子さんが、お弁当バッグとは別に可愛い袋を持っていた。

「達也さん、桐谷さん、おはようございます」

「おはよう玲子さん」

「おはようございます。立花さん」


 桐谷さんが達也さんとよりを戻したみたいだ。早かったわ。いずれ戻ると思っていましたけど。思ったより早かったわ。もっと拗れてくれていれば。もう少し後だったら良かったのに。


「玲子さん、今日会う約束していましたけど、先に延ばして貰えますか。急用が出来ました」

「…そうですか。分かりました」

 理由は間違いなく桐谷さん。明日香にも連絡しないと。でも悔しいです。



 私、本宮涼子。一昨日の土曜日は達也と久しぶりにデートが出来た。あっちも出来ると思って楽しみにしていたけど、断られてしまった。でもまだ先は長い。ゆっくりとね。

 あっ、電車がホームに入って来た。


 えっ、どうして。桐谷さんが達也の右隣りにいる。左隣には立花さん。そうか。座り損ねたかな一番の席。仕方ないか。






 俺笠井直之。今桐谷さんが改札から出て来るのを待っている。昨日キスしようとして断られたけど、まだチャンスはあるはず。


 俺はこの高校に入った時、見かけた桐谷早苗さんに一目ぼれした。髪の毛が肩まで有って目がクリっとしてプリンとした下唇が可愛かった。胸がとても大きくて…。


 中々声が掛けられず時間が経ってしまった。その内立石達也という腕がとてもたつ強面の男の幼馴染で彼の事を好きだと分かって諦めた。


 でも最近、立石とは上手くいっていないみたいだ。そこでとにかく俺を意識して貰いたくて告白した。でもその時立石とは別れていないと言っていたが、俺は諦めないと言って次のチャンスを残す言葉を言ってその場は去った。


 それから何故かチャンスが巡って来てテニス部の俺の練習風景を見てくれるという。その時は体調が悪くて直ぐに帰ったけど、数日して下駄箱で元気なさそうな桐谷さんを見つけたので映画に誘った。簡単にOKしてくれた。


 俺は翌日映画に誘った後、もしかしたらと思ってラブホの方へ誘ったけど流石に初めてのデートでそれは叶わなかった。


 帰りに彼女の家に送ると言うと固く断られたけど、これだけでもと思い何とか説得して彼女の家まで行った。彼女と話しているととても可愛い笑顔を見せる時がある。だからもしかしたらと思って別れ際にキスをしようと思った。上手くいけば次もあるから。


 でもやっぱり断られた。挙句もう会わないと言われてしまった。しかしこんな事では諦めない。


 そう思って学校の最寄りの改札で待っていると…。桐谷さんが立石のポケットに手を入れて歩いて来た。


 そうか、よりを戻したのか。でもまだどこかでチャンスが有るはず。彼女は魅力的必ず付き合って見せる。その為にはちょっと工夫しなければいけないかも知れない。


――――――


 取敢えず落着きましたかね?

 笠井君、工夫って何?


次回をお楽しみに


面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。

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