第84話 冬も深まり


 俺立石達也。土曜日は久々に涼子とデートした。あくまで友達の範囲内だ。彼女はあれを望んだが、流石に駄目だと言い聞かせた。


 次の日曜日は加奈子さんと会う日。午前中は瞳と一緒に爺ちゃんの所で稽古をした後、出かけた。今日は久々に映画を見に行こうという事になった。加奈子さんとの映画は初めてじゃないか。


 デパートのある駅で待合せ。俺はいつもの様に二十分前に来て改札を出た所で待っていると十分前に彼女がエスカレータから降りて来た。

 いつもながら注目度が高い。いつ見ても綺麗な人だ。


「達也待った?」

「いつもと同じ時間に来てます」

「ふふっ、達也らしいわ。さっ、行きましょうか」



 俺達はデパートのある出口とは逆方向に歩きながら

「達也、今日何か見たいものある?」

「別にありません。加奈子さんに任せます」

「そう、じゃあ行ってから決めようか」

 何だ彼女も決まっていなかったのか。



 決まったのは外国映画だがアクションものだ。彼女こういうのも見るんだ。

「達也始まるまで少し時間あるから、ちょっと行って来る」

「あっ、分かりました。ここで待っています」


 俺が、人の歩く邪魔にならない様に隅の方で待っていると



えっ!嘘だろ。可能性は有ったものの実際には見たくない光景を見てしまった。早苗がこの前のテニス部の男の子と映画を見に来ている。俺が二人を見ていると

「達也、お待ちど…えっ?」


 何で桐谷さんが達也以外の男の人と映画を見に来ているの。彼女達也から告白されたんじゃ。

「加奈子さん、中に入りましょう」

「達也いいの?」

「何がですか?」

「桐谷さんの事」

「見ての通りです。振られました」

「え、ええーっ!」

 つい大きな声を出してしまった。あっ彼女がこちらに気が付いた。


「さっ、早く行きましょう」

「えっ、ええ」



 えっ、達也が三頭さんと映画を見に来ている。理由は分かるけど。でも達也に見られてしまった。


 昨日、達也と本宮さんの件でショックを受けた帰り、下駄箱から出て来た所で笠井君に誘われた。何も考えられなかった私は何も考えずに今日会う事を約束してしまった。どうしよう。これってとっても不味いよね。


「桐谷さん、どうしたんですか?」

「あっ、ううん。何でもない」

「じゃあ、中に入りましょうか」

「うん」


 見たのは外国のアクションものの映画だった。さっき達也に見られた事が頭に有ってあまり良く見ずに終わってしまった。




 私三頭加奈子。どういう事かしら。桐谷さんが達也を振るはずがない。あれだけ彼を一途に思っていたのに。よっぽどの理由が無ければ達也を振るはずもない。




 女性関係は正月三が日でもう全てはっきりしたはず。彼女のポジは正妻。文句ないはずだ。なのに。

「達也、静かなレストランで食事をしましょうか」

「えっ、でも持ち合わせが」

「ふふっ、私と会った時そんな事は言わないの。さっ行こうか」


 私は、少し高めのイタリアンレストランに入るとなるべく人の話が聞こえない隅のテーブルをお願いした。二人で注文が終わると


「達也、話して桐谷さんとの事」

「何を話すんですか?」

「達也、彼女はあなたを一途に愛していたわ。それに彼女はこのまま行けば正妻の立場。今更、他の男に目が行くとは思えない。何が有ったの。あなたは私にとってとても大切な人。だからあなたと彼女の事もしっかりと知っておきたい」

「…そうですか」


 確かに加奈子さんにとって俺は重要な人間になってしまっている。彼女に対して中途半端な気持ちで対応は出来ない。

「分かりました。話します」


俺は一か月近く前、彼女に俺と加奈子さんのこれからの関係を話した。そしてその後、早苗から距離を置かれた事も。更にテニス部の男子が早苗と仲良くなって今に至っているという事も話した。



「なるほどそういう事か」

 私と達也、立石家と三頭家の事を彼女に話すには早すぎる時期だ。別に大学出てからだって構わなかったのに。彼の性格上、ごまかしや嘘をつけなかったんでしょう。

 

 でも不味いな。私は桐谷さんを正妻にしたい。立花玲子さんでは困る。あの子の家は力を持ち過ぎている。もし立花さんが正妻になった折に私に牙をむいてきたら面倒な事になる。

 だから桐谷さんが達也にとって、いえ三頭家に取って相応しい達也の正妻。


「達也、急ぎ過ぎたわね。桐谷さんに私達の関係を話したのは」

「はい」


 注文が運ばれてきた。私は食べながら

「達也、あなたは今のままでいいの?」

「…………」


「無言は肯定を意味するわよ。それとも正妻の立場を立花さんにするの」

「っ!絶対にしない。早苗だ!」

「達也声が大きい。興奮しないで。ならばまだ間に合うと思うわよ。今日の様子では手も繋げていないんじゃない」

「…………」



「達也、私はあなたの心がいつも穏やかでいて欲しいの。私の為にも。でも流石にこればかりは手助けは出来ないわ。自分で解決してね」

「分かっています」


 俺達はこの後、加奈子さんの家に行った。もう公認らしい。家人が居ても構わないらしい。


 ふふっ、達也が今回の件、上手く出来なかったら他の子を割り当てればいい。大学卒業まで時間がある。でも私は桐谷さんが良いけど。


 今日は珍しく午後六時には別れた。いつもの様に加奈子さんの家に居てから駅前の喫茶店で話をして彼女を家まで送って行くパターンだ。

 加奈子さん大学は東京に有るけど引越すのかな。ここからでは通えないだろう。




 俺は加奈子さんの家のある駅から九つ目の自分の家のある駅で降りた。えっ、早苗があの彼と一緒にいる。まだ一緒だったんだ。


 この方向は俺の家の方向、つまり早苗の家の方向だ。声を掛ける訳にもいかずにそのまま離れて歩いていると

 えーっ、男の方が早苗にキスを…あっ、早苗が拒否した。無理矢理はしない様だ。早苗が彼に頭をペコペコ下げて家の中に入って行った。


あいつと顔を合わせるのが嫌なので、道路の反対側を住宅方向に顔を背けながら歩いた。まあ大丈夫だろう。


 しかし、あいつとキスをするまでになっていたのか。もう手遅れなのかな。家に帰るまでの空気が結構冷たかった。





 私桐谷早苗、笠井君との映画を見ている所を達也に見られてしまった。その後、〇ックで食事をした後、公園に行って色々話をした。と言っても彼が一方的に話をしていただけだけど。


 もう午後三時位になったので帰ろうと言ったら、もう少しだけと言って、道を歩き始めた。何か嫌な感じがしたので、途中で無理矢理引き返した。


 結局駅の喫茶店で時間を潰して、私の家まで送ると言われていくら拒否してもしつこかったから、仕方なく家まで送って貰ったらいきなりキスをしようとした。


 何も考えずにちょっと映画に付き合っただけでキスするなんて、結局笠井君も体目的なんだと思ったからもう会わないとしっかりと断って家に入った。


 こんな時、達也が居てくれたら、何で今日に限って達也と会うよ。バカバカバカ達也の馬鹿。


――――――


 益々拗れて来ましたね。


次回をお楽しみに


面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。



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