第83話 混迷の達也


 俺立石達也。早苗と一緒に登校しなくなってから三週間が過ぎた。今は駅で玲子さんと一緒に電車に乗って二つ先の駅で涼子が乗って来る。玲子さんが俺の右に、涼子が左に立っている。


 学校のある駅に着くと涼子は先に降りて行った。決してくっ付き過ぎず、友達としての対応だ。今度会いたいと言って来たが、偶には会うのは友達の範囲で良いと思っている。



改札を出て少し歩くと

「達也さん、今度の月曜日の放課後、用事ありますか?」

「無いですけど」

「では、私と会って頂けますか?」

 別に特に用事は無い。家に帰って勉強するぐらいだ。


「良いですよ」

「そうですか。ありがとうございます」



 教室に入ると早苗は周りの女の子と話をしている。いつも通りだ。俺と目が合うと避けられる。やっぱり嫌われたか。仕方ない。


 俺が席に着くと健司がその場にやって来た。

「達也ちょっといいか」

「ああ」


 三年生はもうほとんどいない。三階に上がる階段の踊り場で

「なあ達也、お節介だとは分かっているが、桐谷さんと一体どうしたんだ。この前理由はある程度聞いたけど。でもな、達也がもし、もし本当に桐谷さんの事思っているなら、無理にでも会えばいいだろう」

「俺だって説明したい。でも会えないんだよ」

「桐谷さん、お前の家の隣じゃないか。夜乗り込んだって良いんじゃないか。その位の仲だろう」

「そうなんだが」


「とにかく、達也らしくない。お前が桐谷さん好きだってみんな分かっているし、彼女がお前を好きだってみんな知っているんだ」

「分かっている。ありがとう健司。もう少し考えて見るよ」

「もう少しって、お前…。手遅れって言葉伊達にある訳じゃないぞ」

「健司俺の為にそこまで言ってくれて嬉しいよ」

「じゃあな、俺は行くから」

「ああ」


 ほんと俺何やってるんだろう。今日の夜でも早苗の家に行ってみるか。





放課後、俺と玲子さんが廊下を歩いて帰ろうとしていると目の前に早苗がいた。


「桐谷さん、テニスの練習見て行きませんか」

「えっ、でも」

 あっ、こっちを見た。


「あっ、うん。笠井君見て行くよ」

「えっ、本当ですか。やったあ。じゃあ早速行きましょうか」


 えっ、どういう事かしら。桐谷さんが達也さん以外の男の人と…。ましてテニス部なんて。桐谷さん、男の人と行ってしまった。

 達也さんが、苦味虫でも潰したような顔をしている。



 そういう事か。本当に振られたみたいだな。今日の夜は行っても仕方ないか。


「玲子さん行きましょう」



 達也さんが口を真一文字にして真面目な顔をしている。普通に見れば凄い怖い顔をしている。前から来る人が目を合わせないようにして避けているから良く分かる。

怒っている訳ではないのは私も分かっているけど、この状況では話しかける事も出来ない。


 駅を降りるとマンションの前で彼と別れた。後姿の肩が少しだけ寂しそうに見えるのは気の所為かしら。でもそれほど桐谷さんの事を…。複雑な心境です。




 私桐谷早苗。今日は一人で帰るつもりだった。廊下を歩いている時、いきなりこの前告白された笠井君が声を掛けて来た。

「桐谷さん、テニスの練習見て行きませんか」


 本当は行く気なんて全くなかった。でも後ろをたまたま見たら達也が玲子さんと歩いて来ていた。つい、

「あっ、うん。笠井君見て行くよ」って言ってしまった。



 その後は、部室の前まで来たけど流石に入る気は無かったので

「テニスコートの側で待っています」

と言って離れた。万一有ったら力ずくで負けてしまう。


 部室の方から二年生と一年生が出て来た。私がコートの側に居るので、みんな目を丸くしている。


 見ていても楽しくなかった。

「笠井君。体調悪いから帰るね」

「えっ、そんな…」


 彼には悪いけど、そこにいる気になれなかった。




 帰り道、

 私何やっているんだろう。達也の事怒っているのに、いつも達也の事ばかり考えている。

 他の男の子から告白されても全然嬉しくなかった。今の笠井君だって悪い子じゃないのは何となく分かる。付き合えばそれなりに楽しいんだろうけど。


「ただいま」


「お帰り早苗。えっ、どうしたの」

「何でない」

「何でも無いって…。最近たっちゃんとも会っていないんじゃない。たっちゃんのお母さんも気にしていたわよ」

「えっ?…ううん、いいよもう」

「早苗…」


 お母さんに言える訳が無い。達也のお母さんも聞いてないのかな?でも達也の口から出た言葉は事実。あいつがあんな嘘なんかつける訳が無い。


 でもどうすればいいの。達也とこのまま続けて結婚して子供産んで。でもいつも側に三頭さんがいる。彼女も達也の子供を産む。認知もする。彼女の支えもする。


 これじゃあ、籍が入っているいないなんて関係ない。下手すれば私がお飾りになってしまう。


 達也を諦める…。そんな事出来る訳がない。小学校の頃から好きな人。絶対に彼と一緒になると幼い頃から決めていたんだ。玲子さんや三頭さん、本宮さんが現れなければ、何も問題なかったのに。


 こんな時、達也が私の側に来て、早苗文句言うな俺についてこいとか、くさいセリフの一つでも言ってくれれば吹っ切れるのに。バカバカバカ。達也の馬鹿。


 


 今日は土曜日、今日も一人で帰ろうと思ったけど、図書室に行ってみる事にした。もしかしたら達也と一緒に帰れるかもしれない。


 図書室に入ると受付に達也が座っていた。貸出処理をしているみたいだ。これが終わったら達也に声をかけ…。えっなんで本宮さんがいるの?でもここは図書室居てもおかしくないか。

 貸出処理が終わった。直ぐに達也の側に行こうとしたら、本宮さんが受付に行って達也と話をしている。小さな声で話をしているから聞こえない。でも楽しそう。


 


 予鈴が鳴った。室内にいた生徒が出て行く。私も急いで達也の側に行こうとすると本宮さんが

「達也、下駄箱の側で待っている」

「ああ」


 えっ、どういう事。今日達也は本宮さんと会うの?どうして。彼女とはもう…。


 達也と目が合った。とても何か言いたそうな目をしている。でも色々PCにも打ち込んだりしている。一通り終わると


「達也、今日一緒に帰れない?」

「早苗…。悪い今日は約束が有るんだ」

 どういうつもりだ。もうあのテニス部の男子と付き合っているんだろう。今更。


「分かった」



 私本宮涼子。図書室に桐谷さんが入って来た。目的は直ぐに分かった。今達也は貸出し処理をしている。その後声を掛けるつもりだろう。だから私は阻止した。

 帰り際にも彼女に聞こえる様に下駄箱の側で待っていると言ってやった。そして今彼女は下駄箱から出て行った。私の顔を見て悔しがるような目をして。


 桐谷さん、あなたがいけないのよ。達也をしっかりと受け止めておかないから。でも私は二番目の席でいい。一番目にまた誰かが戻って来れば直ぐに退いてあげる。

 今日は久しぶりに…ふふふっ。




 私桐谷早苗。もう手遅れなのかもしれない。達也から見放されたのかな。どうしよう。どうすればいいの。


「桐谷さん」


 声の方向に振り向くとテニスウエア姿の笠井君が立っていた。

「済みません。いきなり声を掛けて。なんか寂しそうに見えたので」

「えっ、そんな事無いです」

「そう言えばこの前体調悪いって言って帰りましたけど、大丈夫でした?」

「ええ」


「あの、もし良かったら今度の日曜日映画見に行きません。見たい映画が有るんだけど一人じゃつまらないかなと思って」


 この子と映画なんて行く気もないけど、でも達也に嫌われたみたいだし良いかな。でも…。

「あの無理にとは言いませんから」

「あっ、行こうか映画」

「えっ、本当ですか。じゃあデパートのある駅の改札に午前十時で良いですか」

「はい」


 嬉しそうな顔をしてまたコートに戻って行った。なんで映画に行くなんて言ったんだろう。これじゃ益々達也に嫌われてしまう。やっぱり断ろうかな。でも…。


――――――


 達也何をしているんだい。全く。


次回をお楽しみに


面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。



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