第82話 知ってしまった事その二


 私桐谷早苗。二週間前、達也から信じられない事を聞いた。あんな事信じられないし、許される事ではない。立石家と三頭家の関係なんて私には関係ない。


 私は達也と幸せになりたいだけ。そこに他の女の人は入ってこない。それなのに達也はそれが出来ないという。もう決まった事だと。私は一生三頭加奈子という女と達也を共有するなんて出来ない。

 でも聞けば三頭家は凄い家柄。普通のサラリーマン家庭の我家なんてとても太刀打ちできない。


 達也を諦めたくない。だから彼と少しの間離れて自分で考える事にした。


 学校に行けば気がまぎれた。友達は最初達也の事を色々聞いて来たけど、適当に誤魔化した。でも達也と別れたという噂が勝手に広まってしまった。


 今日も放課後、体育館裏に呼ばれている。はっきり言って他の男の子なんか興味が無い。でも行かないと教室まで押しかけて来る奴がいる。


 この前もそいつが教室まで来た時、それを達也に見られてしまった。周りはまだ私の後ろに達也が居ると思って乱暴な事はしないけどいつまで持つのか心配。

 こんな時達也が居てくれたら…。何考えているんだろう。



「桐谷」

「桐谷さん、先生が呼んでいる」

「えっ!」

「桐谷、何ボケっとしているんだ。今、言った所訳して見ろ」

「えっ」

「桐谷さん、ここここ」


 周りから笑い声が聞こえる。



 一応答えられたけど、先生から注意を受けてしまった。しっかりしないと。



 私立花玲子。ふふっ、桐谷さん、理由はどうあれ、達也さんと疎遠になってから動きがおかしい。随分告白もされているようだし。もしかして桐谷さんの代りに私が達也さんと正式にお付き合いする事が出来るかもしれない。

 そうだわ。こういう時はあの子にまた相談すれば。



 私は、帰宅してから帝都女子学園の友人四条院明日香に電話をした。


「まあ珍しい。玲子から電話くれるなんて。どうしたの?そう言えば前に話していた彼はどうなったの?」

 全くこの人は頭の中が恋愛の事ばかりだ。


「明日香、実は相談に乗って貰いたい事が…」

 私は、今の達也さんと桐谷さんの事、私の立場を話した。


「ふーん、そういう事。あのゴリラ、あっ、いや立石君が彼女と別れたらしいと言う事ね。だったら思い切りチャンスよ。玲子、まだ初めてと思うけど体で勝負しなさい」

「えっ!」

「えっ、じゃないわよ。玲子はお嬢様だからした事無いんだろうけど、今が勝負よ。失恋で落ち込んだ彼の心を玲子の体で温めてあげなさい」

「明日香実は…」




「えーっ、あの奥手の代表玲子が……信じられない。それでも振り向いてくれないの。分かったわ。私が一緒に会ってあげる」

「いや、別に合わなくても宜しいんですけど」

「じゃあ、ちょっと見せてよ。どういう状況かこの目で見てから考えるわ」

 玲子がこれほど気に入った男を見てみたい。


「…どうしても?」

 明日香は桐谷さんに負けない位可愛い女の子。達也さんが振り向く事は無いと思うけど心配の種は植えたくない。でも今がチャンスなのは間違いない。


「明日香分かったわ。いつが空いている?」

「そうね…」




 私本宮涼子。達也と桐谷さんが別れたという噂は私のクラスにまで流れて来ている。彼は目立つだけに、もう二年生はみんな知っているんじゃいかな。


 私は二番目の席でいい。でも一番目の席が空いているなら少しの間だけでも座ってもいいかな。ふふっ、ちょっと達也と会って見ようかな。


 早速、その日私は達也に連絡した。


 ブルル。


 スマホが震えている。部屋で勉強をしていた俺はスマホのディスプレイを見ると

 あれっ、涼子だ。珍しいな。


『はい』

『達也、私涼子』

『どうした?』

『達也、今度の日曜日会えないかな?』

『日曜日は駄目だ』

『土曜日は?』

『図書室終わってからならいいぞ』

『うん、それでいい。じゃあ今度の土曜日にね』

『分かった』



 私、本宮涼香、お姉ちゃんの部屋のドアが少し空いている。話し声が聞こえたので悪いと思ったけど聞いてしまった。


 お姉ちゃんが立石先輩とデートの約束をしている。先輩の事は図書室でも何となくおかしいなと思っていたけど、もしかしたら今の彼女と上手くいっていないのかも。だったら私にもチャンスがある。


 明日は木曜日、先輩の担当だ。あのウザい三頭先輩がいなくなったので今は先輩と二人だけの図書室担当。明日ちょっと話してみよう。




 私桐谷早苗、二年生の男子の呼ばれて体育館裏にいる。相手の子は顔を知っている程度。話した事は一度も無いし、クラスも違う。でも少しだけイケメン。


「桐谷早苗さん、俺、笠井直之って言います。まだ話した事も無いですけど、いつもあなたの姿を見る度に心がチクリとしています。お願いします。俺と付き合って下さい」

「ごめんなさい」

「どうしてですか。もう誰とも付き合っていないんですよね」

「それは…」

「ならば、友達からでも良いです。登下校の挨拶だけでも良いです。そこから初めてくれてもいいから」

 今までだったら、簡単に引き下がるのに。


「お断りします。まだ立石君、達也と別れた訳はありません」

「立石…。でも最近全然あいつとは話もしていないじゃないですか。みんな別れたといっていますよ」

「分かれてなんかいません」

「でも…」

「諦めて下さい。私は帰ります」

「俺諦めませんから」

 そう言って笠井という子は、離れて行った。


 もうこれで何人目だろう。達也と口をきかなくなってから三週間位なのに。今までやっぱり達也が居たから、みんな声を掛けなかったのかな?


 今の子だって、悪い子には見えない。お付き合いすれば楽しいかもしれない。達也と一緒になっても三頭さんとの関係は続く。どうすればいいんだろう。


他の子と試しにお付き合いしてみれば、達也の事もっと冷静に考えられるかもしれない。でもそんな事して、もし達也に誤解されたら…。どうすればいいの。分からない。


――――――


 ええっ、ちょっと早苗さん。それは不味いかも。


次回をお楽しみに


面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。

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