第81話 知ってしまった事
俺、立石達也。加奈子さんと玲子さんからの電話の後、さっき考えていた事も結論がでないまま早苗の家に行った。
ピンポーン。
ガチャ。
「達也待ってたよ」
「お邪魔しまーす」
シ―――ン。
「あれ、誰もいないの?」
「うん、この時間はね。上がって。私の部屋に行こう」
二階にある早苗の部屋に入ると早速くっ付いて来た。
「ふふっ達也。二人きりだねー」
「そ、そうだな」
「じゃあさあ、ね」
「いや待て待て。会ったからっていつもあれというのは無いんじゃないか」
「えーっ、達也私が嫌いなの。私に優しくするのが嫌なの?」
「そうじゃないけど」
「じゃあ、しよ」
なんでこうなる。早苗焼き餅焼きだし、これ好きなのかな。心配になって来たよ。
―――――。
何でこんなに気持ち良いんだろう。堪らない。でもこれからは思い切りして貰える。
「ふふっ、達也ありあとう。嬉しい」
「なあ、早苗。俺も男だし早苗とこうするのは嬉しいけどせめて一週間に一度位にしないか。会ったらこうするというのは」
「えーっ、私はしたい。達也とこうして居るととても幸せなんだ。でも今回はこれだけでいいよ。ちょっと聞きたい事も有るし」
「聞きたい事?」
「三頭さんの事。この前は立花さんとの事聞いたけど三頭さんの事は聞いていない。二日に来たんでしょ。
お母さんが、怖そうな人が達也の家の周りにいっぱい居て怖いと言っていた。何話したの?」
まだ、話すかどうか、話すにしてもどう話すか決まっていない。全部話したら絶対怒る。どうするか。
「達也、何黙っているの?何か不都合な事あるの?」
取敢えず時間が欲しい。
「早苗、洋服着ようか。ベッドの上で話す内容でもないから」
「そうなの。そんなに難しいの?」
「まあとにかく洋服着よう」
ゆっくりと着替えて床に座った。早苗が俺の顔をじっと見ている。
「早苗、落着いて聞いてくれ」
俺は、いずれ分かる事だと思ってすべて話した。
立石家と三頭家の関係を簡単に話した後、加奈子さんを内縁の妻として、子供は認知した上、俺が加奈子さんを支える為、三頭家の役員になる事を話した。
聞いている内に早苗の顔がどんどん変わって来る。話し終わると
「達也、嘘でしょ。今話したの嘘だよね。嘘と言ってよ!」
「…嘘じゃない。両家の同意だ」
「そんな。じゃあ、もし私が達也と結婚しても達也はあの人ともずっと関係を持つと言う事?私と達也の間に子供が出来ても達也は外で別の女がいると言う事。そしてその人とも子供を作るという事」
「…そうだ」
「やだ、やだ、やだ、やだーっ」
早苗が俺の胸を思い切り両手の拳で叩いて来た。
「やだよ達也、そんなのやだよ。私は、私は達也との幸せな家庭を持ちたいの。外に女が、ましてあの三頭さんがいるなんて絶対やだ」
「早苗、俺はお前だけだ。加奈子さんとは両家の縁を繋げるためだ」
「三頭さんに愛情は無いの?」
「無い!」
「本当に?」
「本当だ」
少し時間が空いた。
「……達也一人で考えたい。出て行って」
「早苗…」
「出て行って!」
達也が家の玄関を出て行った。涙が出て来た思い切り。
「やだー。そんなの絶対やだー。達也は私だけのもの。絶対やだ。まして三頭さんになんて。許せない許せない。絶対許せない」
思い切りベッドの上で泣いた。さっきまで大好きな達也の匂いとぬくもりが残っているベッドで。ばか、ばか、ばか、ばか。達也のばかー!
コンコン。
「早苗玄関開いていたわよ」
「入らないでー」
何時だろう。もう家の中は静かだった。ゆっくりと階段を一階に降りて行くとダイニングテーブルの上に、もし食べるなら温めてねと書かれたメモと料理にラップがかかって置いてあった。
食欲なんかない。全部冷蔵庫に仕舞うとそのまま部屋に戻った。
俺立石達也。早苗を怒らせてしまった。考えがまとまらない内に全部話してしまった。普通怒るよな。でもこれは既に決まった事。俺の一存ではどうにもならない。思いのままには生きられない。こういう事なのか。
とにかく明日、早苗ともう一度話そう。そろそろ寝ようと思っている所にスマホでメッセージが入った。早苗からだ。
「達也、一度距離を置きたい。自分で考えたい。達也の事は大好き。でも今の心のままでは、あなたを受け入れる事が出来ない」
それだけだった。俺はとんでもない事を早苗に話してしまったんだろうか。話すのは高校卒業してからだって良かったんだ。もっとオブラートに包んで話しても良かったんだ。
その夜は眠れなかった。
朝、玄関を出ると、門の所に早苗は居なかった。仕方ない。そのまま駅まで行くと改札に玲子さんが待っていた。
「おはようございます達也さん」
「おはよう玲子さん」
「桐谷さんはいないですが?」
「ああ、少しの間と思うが、早苗とは一緒に登校しない」
「えっ?!」
達也さんの疲れた顔といい、今の言葉と言い、昨日何か有ったのかしら。
そのまま学校に行き、教室に入ると桐谷さんは自分の席に居て友達と話している。お化粧で隠しているけど疲れた様子だ。やはり昨日何か有ったんだ。
達也さんが彼女を見ている。でも彼女は視線が合っても全く無視している。当分様子を見ましょう。
「ねえ、立石君と桐谷さん、様子おかしくない?」
「うん、桐谷さん、朝来た時から様子が少しおかしかった」
「昨日は恋人繋ぎして来たのに」
「もしかして一日だけの恋人?」
「まさかねえ」
健司が俺の所に寄って来て顎を廊下の方に向けた。
「達也何が有った?」
「早苗に怒られた」
「怒られた?どういう事だ?」
「ちょっとな。後でいいか」
「ああ」
予鈴が鳴って郷原先生が入って来た。
もう一週間も早苗と口をきいていない。俺が話しかけても無視をする。当分だめそうだ。
放課後、図書室に行って開室処理をしていると加奈子さんが入って来た。
「達也、明日から自由登校になる。帝都大学はもう推薦の合格通知は受け取ったわ。達也も来てよね」
「前向きに考えますよ」
「えっ?本当」
「嘘ついても仕方ないでしょう」
達也、気が変わったのかしら。そう言えば最近桐谷さんと彼が一緒に居る姿を見ていない。何か有ったにせよ。私には好都合。
「じゃあ、達也また日曜日にね」
「はい」
達也とは毎週日曜日にデートしている。もちろん会った時は当然…だけど。春から私も大学生。達也にはあの事も言っておかないと。
あれから既に二週間が過ぎた。駅の改札で玲子さんが待っている。
「達也さん、おはようございます」
「おはよう玲子さん」
玲子さんは早苗の事は何も聞いてこない。精神的に楽だ。
「達也さん、桐谷さんとお付き合いすると言う事でお昼のお弁当を作るのを止めていましたが、明日からまた作って来ても宜しいですか?」
「いや…ええ、お願いします」
「ふふっ、嬉しいです」
教室に入ると早苗が男子と話をしていた。嬉しそうだ。もうそういう事なんだな。割り切るしかないか。
健司が寄って来た。
「達也、ちょっと」
廊下に出ると
「達也、いいのかよ」
「なにが?」
「桐谷さん、お前と疎遠になった事で別れたんじゃないかって噂が広まって、毎日の様に告白されているぞ」
「…………」
「なあ、達也。何とかならないのか。お前達を見ていると…」
「健司、俺達の事そんなに思ってくれて嬉しいよ。でもあれが事実だ。どうも俺は振られたらしい」
「そんな事無いだろう。桐谷さんだってお前と復縁したいんじゃないか」
「だめなんだ。話しかけても無視するし、下校の時、近寄っても逃げられる」
「そんなに酷いのか」
「ああ」
――――――
あれれ、これは大変な事に!
次回をお楽しみに
面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。
感想や、誤字脱字のご指摘待っています。
宜しくお願いします。
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