第80話 三学期が始まりました
今日は一月七日。三学期初めての登校日だ。いつもの様に玄関を出ると早苗が門の所で待っていた。もう相当に寒い筈なのに厚手のコート来て耳当てまでして待っている。
俺は早苗から貰った長めのマフラーをして、手には加奈子さんから貰った手袋をしている。ポケットには涼子からの貰ったハンカチが入っている。礼儀として登校初日は持つことにした。ちなみに今日は金曜日、明日は土曜日気が楽でいい。
俺が玄関を出ると
「達也おはよう」
「おはよう早苗」
俺の側にスッと近づいて来て、俺の右側に立つと彼女の左手が俺のコートの右ポケットに入った。
「えへへ、いいでしょ。あれ?手袋しているの?」
「ああ」
「誰から貰ったなんて野暮な事は言わないから右手だけ手袋外して。手を握れない」
「どうしてもか?」
「うん、どうしても」
ここは俺が折れて右手の手袋を外すとポケットに入れる前に恋人繋ぎして来た。そしてそのまま俺の右ポケットに侵入してにぎにぎしている。
「ふふ、これでいいや。さっ行こう」
「…………」
登校初日からこれでは先が思いやられる。
「達也、一昨日言った事だけど、立花さんとは、しっかりと友達までって態度で表してね」
「態度で表す?」
「そう、手を繋いだり、キスしたりしたら絶対やだからね」
「キスなんかする訳無いだろう」
「あれ、手は繋ぐつもり?」
「早苗、この前も言ったが、構え過ぎは駄目だ。いつものように自然体でいこう」
「でも、学校でも達也と付き合い始めたって友達に言いたいし」
「それは構わないけど、べたべたするなよ」
「うん、それは分かっている。べたべたはしない」
こいつどういう意味で言っているんだ?
やがて玲子さんが引越して来たマンションを通り過ぎ駅の改札に行くと
「達也さん、桐谷さんおはようございます」
「おはよう玲子さん」
「おはよう立花さん」
私立花玲子。桐谷さんが、達也さんのポケットに手を入れている。早くも彼女顔でマウントを取ろうする訳ね。でもここは譲っておこう。達也さんが改札を通る時は嫌でも手を離す。
ふふっ、やっぱり。私は達也さん、桐谷さんの後に入った。またすぐに桐谷さんが達也さんのポケットに手を入れている。やっぱりちょっと悔しいです。
二つ隣駅のホームに電車が入ると、えっ、本宮さんはここの駅から。何という事ですか。だから…。彼女こんなに達也さんと近かったのですか。これは引越して来た事大正解の様です。
私本宮涼子。達也と会うのは去年のクリスマスパーティ以来、楽しみ。あっ、電車が入って来た。いつもの車両に乗ると
えっ!なんで立花さんがいるの?それも達也の左隣りに立っている。
そこは今年から私が立とうとしていたのに!仕方なく桐谷さんの隣に立って、朝の挨拶だけした。桐谷さんの顔を見ると少し不満げな顔、何か有ったのかな?
学校のある最寄り駅に着くと私だけ先に降りた。桐谷さんは来ない。なぜだろう?でもそれでもいい。私は一番を争う気はない。二番でも嬉しいから。
私桐谷早苗、駅に着くといつもの様に本宮さんは、ちょこっとだけお辞儀して先に電車を降りた。去年までは私もそうしていたけど、達也に告白された以上、学校まで一緒に行くのは私。
立花さんは、本当は居て欲しくないけど、達也の言う通り、ここは我慢して玲子さんも一緒にさせてあげよう。
私立花玲子、ふふっ、桐谷さん流石に本宮さんと一緒に先には学校に行かないわね。それと私に何も言わない。達也さんから何か言われているのね。
そう言えば先程から気になっていましたけど達也さんの新しい皮手袋、それと長めのマフラー、誰に貰ったのかしら。
俺立石達也、学校まで着いたが何とか早苗が暴走せずに済んだようだ。ただ下駄箱で履き替えて手袋を外すと直ぐに早苗がまた手を繋いで来た。
「えっ?」
「いいでしょ。私達付き合っているんだから」
「…………」
意地でもこれを通すつもりのようだ。仕方なくそのまま教室に入ると
「「「えっ?!」」」
みんなが俺達を見ている。玲子さんは自分の席に行った。
「達也じゃあまた後で」
そう言うと早苗も自分の席に行った。
「ねえ、見た?」
「見た見た。立石君と桐谷さん、手を繋いでいたわよね」
「そうそう、それも恋人繋ぎ。立花さん一緒なのに」
「「「って事はー!」」」
「立石君争奪戦は桐谷さん勝利!」
「おおーっ、これで立花さんへ…」
「無理に決まっているでしょ」
ガクッ。
みんな好き勝手な事を言っている。早苗は女の子達に囲まれて質問攻めだ。玲子さんは淡々としている。
自分の席について鞄を置くと
「達也おはよ。初日から話題提供が凄いな」
「健司おはよ」
「桐谷さんと付き合い始めたのか」
「ああ、元旦からな」
「そうか、ついに達也も収まったか」
「健司その話は、後で」
「分かった」
健司と冬休みの話をしていると担任の郷原先生が教室に入って来た。
「体育館で三学期の始業式を行うから廊下に出てくれ」
校長先生の長―い尊い?お話が終わると俺達は教室に戻った。直ぐに郷原先生がやって来て時計をちらりと見ると
「席替えやるか?」
「「「おーっ!」」」
男子達が雄叫びを上げているどうしたんだ?
結果は、なんと俺はまた廊下側一番後ろになってしまった。そして前の席には、玲子さんだ。早苗は窓側から二番目、前から三番目だ。健司は残念ながら、窓側一番後ろと離れてしまった。
玲子さんは、俺の方を向くと
「ふふっ、達也さんやはり私との縁は繋がっていますね」
「…………」
今日は始業式の日とはいえ、午前中二時間だけ授業が有る。と言っても冬休みの宿題の答え合わせぐらいだから授業という程ではないが。
放課後になり、クラスの生徒達が帰り始める。俺も席を立とうとすると、みんなが俺の方を見た。なんだ?
「達也」
後ろを振り返ると加奈子さんが入り口から入って来た。
「三頭先輩だ!」
「いつも綺麗ね」
「どうしたらあんな風になれるのかしら」
「まあ、ベースが私達と違うし」
「そだね」
雑音を無視して
「どうしたんですか三頭先輩」
「…ちょっと良いかな。一緒に帰れない?話が有るんだけど」
「えっ!」
俺は直ぐに早苗と玲子さんを見た。玲子さんは無表情だが、早苗がこっちに歩いて来た。
「三頭先輩、達也は私と帰ります。諦めて下さい」
「えっ!」
さすがに加奈子さんが驚いている。
「達也、私達恋人同士だよね。この人の事なんか無視して私と一緒に帰ろ」
こいつ意図的に言ったな。
「三頭先輩、後で電話します。今日はそれで」
「分かったわ。桐谷さん、そんなに強調しなくてもいいわよ。じゃあまた後でね達也」
ウィンクした後、後ろ向きに手をヒラヒラさせながらいきやがった。全く加奈子さんも。
「ねえねえ、あれって」
「うーん、まだ桐谷さんのカノポジは固まっていないって事?」
「分からないわ?」
早苗が声の方を怒った顔で見ている。
「さっ、帰ろ帰ろ」
「そだね」
結局、早苗と手を繋ぎながら玲子さんは俺の隣を歩いて駅まで行った。玲子さんも俺達と一緒の駅で降りる為、同じ方向に電車に乗る。
ホームをちらっと見ると涼子もいた。目が合うと柔らかい笑顔で微笑んだ。
「達也!」
参ったなあ。今度早苗に言い聞かせないとこっちの身が持たない。駅を降りて玲子さんの家に行くまでの間、早苗は何も話さない。別れ際に
「達也さん後で電話します」
「分かりました」
何故か、また早苗がむっとしている。
玲子さんと別れた後、
「達也、今日まだお昼食べて無いよね。私が作るから我が家に来て」
「母さんが作ってくれていると思うからその後じゃあ駄目か?」
「…分かった」
早苗と別れた後、家の玄関を開けて
「ただいま」
シ――――ン。
「あれ、誰もいないのかな?」
着替えないでダイニングに行くと 達也用事が出来たからこれを温めて食べてと書いてあるメモと一緒に昼食の用意がされていた。
早速着替えて昼食を摂りながら早苗には加奈子さんの事も話すか。でも両刃の剣だな。言わなくてもいいか。言わなければばれないし。でもいずれ分かる事だから。でもなー。
考え事をしているとスマホが震えた
加奈子さんだ。
「はい達也です」
「わたし加奈子。ねえ明後日日曜日会って。一週間に一度会う事は約束でしょ。午前十時に私の家のある駅で待っているわ」
「えっ、いや」
「嫌なの?」
「分かりました」
正月二日に家同士で決まった事だ。でもそんな約束したっけ?後加奈子さんにもしっかりと話しておかないと。
出かけようとするとまたスマホが震えた。今度は玲子さんだ。
「達也さん、明日土曜日お会いしたい。せっかくですから私のマンションにお呼びしたいのですけど」
「分かりました。行く時間は後で良いですか?」
「宜しいですよ。では連絡待っています」
参ったなあ。三学期開始早々これかよ。とにかく皆に言い聞かせないと。あっ、そろそろ早苗の所に行かないと。
私桐谷早苗。達也、三頭さんの事で何か隠している。そう言えば三頭さんの事でも説明してくれると言っていた。玲子さんの事と言い、三が日で何が有ったんだろう。どっちにしろ聞かないと。しかし何しているんだろう、遅いな。
――――――
達也の平穏は訪れますのかね?
次回をお楽しみに
面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。
感想や、誤字脱字のご指摘待っています。
宜しくお願いします。
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