第79話 三学期が始まる前に


 正月三が日が過ぎ、父さんへの来訪者も少なくなった五日。俺は早苗に玲子さんの事、加奈子さんの事を正直に説明した方が良いと考え、午前中に早苗に連絡した。



私桐谷早苗、元旦午前中に達也からご両親の前で正式に告白された。初詣も一緒に行って…。正月早々から舞い上がってしまった。

 

 立花さんと三頭さんも達也の所に来るとは言っていたけど、正式に告白された以上、私が達也の彼女。あの人達に邪魔されることはない。


 三学期からはずっと達也と一緒にいれる。今日は五日。達也は正月はお父様へ挨拶に来る人で忙しいと言っていたので、のんびりするつもり。他の友達と遊ぼうと思って連絡してみたが、冬休みの宿題が終わっていないと言う事で断られた。


 今日は何をしようかな…。


ブルル。


 あっ、達也からだ。急いでスマホの画面をタップして


『達也、私』

『早苗か、今日会える時間無いか?』

『いっぱいあるよ。いつでもいい』

『じゃあ、俺の部屋に来ないか?』

『えっ、いいの?お客様の応対するんじゃなかったっけ』

『全部に出る訳では無いから。今日午前中空いた』

『ほんとじゃあすぐ行く』


 ふふふっ、部屋に来て欲しいなんて。あっ、そうだ。下着替えておこう。万一いや十分可能性あるから。


 達也の家に行くと大きな車が車止めに止まっていた。達也のお父様のお客様かな。私はそこをすり抜けて、玄関に行くと、今日は開いていた。


 そのまま、入ってから

「お邪魔しまーす」


「あっ、早苗お姉ちゃん」

「達也から来てって言われたんだけど」

「あっ、お兄ちゃんなら自分の部屋に居るよ」

「ありがとう」


 奥の方にある和室から人の笑い声が聞こえる。私はなるべく静かに歩きながら二階の達也の部屋に行った。


コンコン


ガチャ。


「達也」

「おう、早苗か。悪いな急に」

「ううん、いつでも呼んでいいよ。私は達也の彼女なんだから」

「そうだな」


 私が達也の横に座ると


「早苗話が有る」

 何だろう。彼がまじめな顔をしている。


「実は…」

「達也待って、まさか告白無しにしてなんて言わないよね?」


「言う訳無いだろう。最後まで聞け!」

「ごめんなさい」


「早苗。早苗とは正式に付き合う事にしたのは決定事項だ。これが変わる事は絶対にない。

 実は玲子さんと加奈子さんの事だ…」


 何を言いだすんだろう。私と達也が恋人同士になったのは、間違いなから良いんだけど。


「最初玲子さんの事だ。今までと同じ対応になった」

「達也、意味が分からない?達也は私の彼だよね。玲子さんとはもう何も無いんでしょ」

「それは間違いない。実は、玲子さんと大学が終わるまで友達として過ごす事になった」

「ど、どうして。もう立花さんは用が無くなったんでしょ。元の学園に戻らないの?」


「それが…。玲子さん曰く、俺が早苗に告白したのは地理的な優位性があるからだ。もしそれが無ければ、簡単には早苗に傾くはずがない。だから自分もこっちに引越して来て、俺との物理的距離を縮めれば、これから私に向く事もある。だから大学卒業時まで俺の側に居ると言うんだ」

 早苗が段々怖い顔になって来た。


「達也、そんなの断ってよ。なんで、何で彼女が…。それに物理的距離を縮めるって何よ。…まさか。達也の家に住むなんて無いよね?」

「それはない。だけど駅の近くにあるマンションに引っ越してくるそうだ。今日」

「えーっ、あの女。なんて事を。達也私絶対に彼女をあなたに近寄らせないから」


 あったまに来たー。あの女諦めが悪いにもほどがあるわ。絶対達也に近寄らせない。


「早苗、そんなに構えるな。あくまで友達として接するだけだ。俺の気持ちはお前に向いているから」

「分かっているけどー。プンプンだよ。全く」



 玲子さんとの事でこれだけ怒っているんだ。ちょっと加奈子さんとの事は今日は話せないな。



「ねえ、三頭さんとはどうなったの」

「ああ、それはまた今度にしよう。彼女は別に…」


ブルブル。


あっ、玲子さんだ。

「早苗ちょっと待って」


『はい』

『達也さん、私玲子です。お願いが有って』

『何ですか?』

『もう、駅の近くのマンションに越してきました。ご挨拶に行きたいのですが』

ま、不味い。今来られたら大変な事になる。確か午後三時からなら空いていたはず。


『すみません。今直ぐは無理です。午後三時なら会えますが』

『分かりました。では午後三時に伺って宜しいですか?』

『はい』

『ではその時に』



「達也誰?」

「玲子さんだ。もう越して来たから挨拶に来たいって。一応午後三時に来て貰う様にしている」

「えっ、あの女。分かったわ。私も一緒にあう。はっきり言わないと。達也の彼女は私です。達也に近寄らないでって」

「早苗、それは駄目だ。友達として接すると向こうのお父さんと俺の父さんがいる時に約束した」

「だって、だって、達也は私の彼でしょ。やだよ下心一杯の友達なんて」

「早苗、俺を信じろ」

「…分かったけど。じゃあ証明して。本当は全部して欲しいけど。お客様もいるから」


 そう言って早苗は目を閉じた。


 

 早苗には午前十二時前には帰って貰ったが、あんなに焼き餅焼きとは思わなかった。これからが大変だぞ。



 俺は午後一時から三組ほどの来客に対応した。俺が何を言う訳ではないが、父さんの少し後ろに座って、訪問して来た人がどういう仕事関係でどういう考えを持って仕事をしているかを聞く。発言は一切しない。あくまで将来の為だ。


 そして午後三時に玲子さんが一人でやって来た。でもよく見ると後ろに沖田さんがいた。


玄関で迎えると玲子さんは

「沖田、帰りは達也さんに送って貰います。あなたは帰りなさい」

「はっ」

 

 沖田さんは俺を見て一礼をするとそのまま帰って行った。しかし。この人ずっとこうするのかな。


「ふふっ、達也さん。今日とか休日だけです。普段は登下校だけですし、達也さんが一緒に居てくれますから心配はしていません」

 あれ、この人俺が登下校一緒にする事、いつ決めたんだ?



 俺は玲子さんをリビングに招き入れてから母さんに玲子さんが来た事を告げた。直ぐに母さんが来て

「立花さんいらっしゃい。元旦の日振りね。直ぐに飲み物用意するから待っていてね」

「すみません。これ引越しのご挨拶代わりです」

「あらら、申し訳ないわ。有難く頂戴するわ。ゆっくりしていって」

「ありがとうございます」


 母さんがキッチンに行くと


「達也さん、いきなり来てしまって済みません。やはり近くにいると達也さんに会いたくなります」

「会いに来てくれるのは嬉しいですけど、友達の範囲でお願いします」

「はい分かっています。今日は引越しの挨拶ですから」


 それからマンションの事や三学期の事等を話していると午後四時半になってしまった。

「すみません、長居してしまいました。もう帰ります」

「そうですか。じゃあ送ります」

「ふふっ、ありがとうございます」



 俺達が玄関に行くと母さんが

「立花さん、いつでも来てくれていいのよ」

「ありがとうございます。お母様」

 うっ、この人って、全く。


「あらら、お母様なんて、嬉しいわ」

 母さんも調子乗るんだから。



 俺達が門を通り抜けて道路に出ると

「達也さん、隣のおうちが早苗さんのご実家ですか?」

「そうです」

「近いですね。でもこれからは負けません。行きましょうか」



 俺は駅の近くにある玲子さんが越して来たマンションの側まで来ると

「達也さん、寄って行ってくれると嬉しいのですが」

「今日は止めておきます。まだ引越しで大変でしょうから」

「それは大丈夫です。午前中と私がいない間に業者の方が終わらせているはずです」


「そ、そうですか。でも今日は止めておきましょう」

「では、明後日からですね。ここで待っています」

「いや、駅の改札にして下さい。そちらの方が安全ですから」

「そうですか。達也さんがそう言われるならそうします。ではまた」

「はい」



 俺は、玲子さんがマンションに入った事を確認してから帰路についた。

 しかし、早苗の事、玲子さんの事、加奈子さんの事、はっきりと分けられたと思ったが、早苗が思ったより焼餅だ。何とかしないと二学期以上におかしくなる。


 後一年と少し。何とか静かに高校生活を送れないものだろうか。


――――――


 うーん、早苗ちゃんの気持ち良く分かります。


次回をお楽しみに


面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。

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