第78話 三頭家来訪
ちょっと長いです。
――――――
頭の中がぼんやりとまだ目覚めていない状況で昨日の事が浮かんできた。
昨日元旦は、下手すれば立石家、立花家双方の不都合にも発展しかねない状況を覚悟した。
だが、俺にとっては以外にも静かな?落し所に少し胸を降ろしたが、大人の考え方と俺達高校生レベルの考え方にあんなにも違いがあるとは思わなかった。違いは自分の考えの尺度だ。長さが違い過ぎた。
当たり前の事だ。立石産業も立花物産も日本では有数の企業。その経営者が見ている尺度だ。子供の恋愛事情で何が変わる訳でもなかった。
それはそれで良いのだろうが、冬休み明けから始まる登下校の事で早苗をどう言い聞かせるか、それが問題だ。どこかで聞いたようなフレーズだが。
ジリジリジリ。
今日も机の上の目覚ましが午前六時を教えてくれた。そして今日は昨日以上に頭を悩ます人達が来訪する。三頭家だ。加奈子さん。加奈子のお父さん、そして祖父だ。
三頭家は立石家と曽祖父以前からの深い付き合いが有ると言う。明治以前からの付き合いと言う事だ。
いったいどういう関係か分からないが、俺はそこの跡取り(加奈子さん)と深い関係を持ってしまった。昨日の様な訳にはいかないだろう。父さんが俺に言っていた。お前も立石産業の跡取り、思うままに事が運ぶ訳ではないと。
コンコン
ガチャ。
「お兄ちゃん、起きてる。もうすぐ午前七時だよ。お母さんが起きてって」
目覚ましを見るともうすぐ短い針が七を指そうとしていた。起きるか。
「分かった。瞳」
「ダイニングで待ってるよ」
俺が顔を洗ってダイニングに行くと父さん、母さん、そして瞳が朝食を取っていた。俺の顔を見た父さんが、
「達也、三頭さんが午前十一時には来られる。爺さんも午前十時には来る。お前もそれまでには準備しておくように」
「分かりました」
うちにとって三頭家というのは格が上のように感じるのは気の所為か。
午前十時に爺ちゃん(立石総司)が来た。俺の祖父に当たるが第一線を退いている為、ここ本家を出て新たに近くに立てた道場と家にお祖母ちゃん(俺の祖母)と一緒に住んでいる。お手伝いさんも一緒だが。
「お爺ちゃん、お祖母ちゃん明けましておめでとう」
「おお、瞳か。明けましておめでとう。ほれお年玉だ」
「わーい。お爺ちゃんありがとう」
瞳はお年玉を貰うとリビングに行ってしまった。
「爺ちゃん、婆ちゃん、明けましておめでとうございます」
「達也、立派になったね」
「はい、お祖母ちゃん」
「ほれ、達也もお年玉だ」
「ありがとう、爺ちゃん」
俺にとってもとても嬉しい副収入だ。立石家は大学を出るまでは小遣い制だ。非常に嬉しい。
「父さん達は和室に居るよ」
「そうか」
爺ちゃん達が和室に入るのを見て俺もリビングに入った。ちらっとお年玉袋を見るとおーっ、諭吉様が十枚も入っている。ありがたやだ。
午前十一時、父さんに言われて玄関の側で待っていると門の所の車止めに一台の黒塗りのワゴンが止まった。
三頭さんはワゴンで来たのかと思っているとサングラスに細いブルーのネクタイを着けた体のしっかりとした男達が六人降りて来た。
三人は左肩が少し下がって左胸脇が膨らんでいる。もう三人はスーツの腰横が膨らんでいる。
そういう事か。六人が耳石イヤホンと喉に当てているマイクで何か話をしている。六人の内四人が門からどこかに行き、二人が門に残った。
それから少ししてリムジンクラス、我家の車止めでも結構一杯の大きさの黒塗りの車が入って来た。
助手席から再程の男達と同じ装いの男が降りると後部座席のドアを開けた。一般車ではない。ドアの開く方がセンター側だ。これは後部からの防御を意味する。
助手席の男は腰を九十度に曲げてお辞儀をしている。
何か始まるのかそう思った時、百九十センチは超えていそうな大きな男が車から降りた。髪の毛は真っ白だ。顔は彫りが深く目の奥に光り輝くものがある。ただ者ではない事は直ぐに分かった。続いて更にもう一人の男が降りて来た。こちらは俺と同じ位だ。
最後に加奈子さんが降りて来た。青と金を基調とした和服、帯や簪は一目見ても早々に手が届かなそうな代物だ。しっかりと化粧をしていつもより一段と綺麗だ。
爺ちゃんが俺の前に出た。
「三頭源之進殿、久しぶりだな」
「これは立石総司殿、久しぶりです」
「三頭源次郎殿久しぶりですね」
「立石達司殿久しぶりです」
「皆さんどうぞこちらへ」
父さんはそう言うと加奈子さんの父親と祖父を連れて家に入った。
「達也さん、明けましておめでとう」
「加奈子さん、明けましておめでとう」
「ごめんなさいね。お爺様が私と一緒に達也の所に来ると言ったら、お父様が俺も行くと言い出して。
なんか、恥ずかしい所見られたわね」
「いや、それは良いんですけど」
そう言って俺は門と家の角に立つセキュリティをチラッと見ると
「ごめんなさい。一応先行して目立たない様にセキュリティは配備してあるんだけど、どうしてもインペリアルだけは、側に居ないといけないの」
「インペリアル?」
「インペリアルガード。近衛の事よ」
「…………」
聞かない方が良かった。
加奈子さんと少し話した後、和室に入ると、いつもの和様テーブルではなく、和膳が置かれていた。これは我が家の中でも筆頭のおもてなしだ。
「達也、そちらに座りなさい」
上座側には加奈子さんの祖父と爺ちゃんが、それから加奈子さんの父親と加奈子さんが向こう側に、手前には父さんと俺が座る形になっている。母さん、婆ちゃんそれに瞳の席はない。
「それでは始めるとしよう。三頭家の方々、明けましておめどうございます」
父さんが言うと
今度は加奈子の父親が
「立石家の方々、明けましておめでとうございます」
そう言って、大人たちは酒の盃を俺と加奈子さんは麦茶の入った盃を上げた。
「さて、総司殿、久しぶりだな。あれ以来、表向きにはお互い表に出ないとしていたが、まさか孫同志が関係を持つとはな。なによりの喜びだ」
「まさに。源之進殿の孫娘殿が儂の孫と知合うとは夢にも思わなかった。何年振りかな。確かもう五十年は過ぎているはず」
「お互いの親が生きている時代からですからな。はははっ」
少しの間、大人たちが、昔話を始めた。俺が生まれる遥か前の話らしい。しかし聞いている内容はとんでもない内容だ。
まさか、立石家の曽祖父が三頭家の曽祖父の右腕となり、日本という国を守る為、GHQと裏で渡り合っていたとは。更にその前の話にもなっている。どれほどの関係なんだ。
「達也さん、そんなに真剣に聞かなくても後々教えますよ。いずれあなたも同じ立場になります」
「えっ?」
「ふふっ、私との約束とはそういう事です」
「ところで達司殿、娘と達也君の話を先にしておきたいのだが」
「分かりました、源次郎殿。進めてくだされ」
加奈子の父親三頭源次郎が俺の顔をじっと見た。
「達也君、加奈子からあらかたの事は聞いている。ここに居る者はそれを承知の上で改めて聞く。
君は立石家の次期当主となった上で、加奈子を内縁の妻とし、生まれた子供は認知した上で我が三頭家の跡取りに、そして君は加奈子の支え(パートナー)として三頭家の役員になるという事間違いないか」
加奈子さんが微笑んだまま俺を見ている。
「父さん、昨日俺は桐谷早苗と正式に付き合うと話したはずだ。確かに今源次郎さんが言った事は加奈子さんとも話した上での事だが…」
「達也、別にお前が正妻を持つことは誰も反対していない。加奈子さんは一人娘。お前は我が立石家の長男だ。だからこその話だ。早苗さんの事が有っても無くてもお前が三頭家に入る事は無い。言い換えれば誰を妻としても構わない。分かるか?」
「しかし」
やはり大人たちは物事を考える物差しがあまりにも違う様だ。
「達也君、加奈子は、早々に男には興味を持たない。むしろ毛嫌いしていたほどだ。中途半端な男ではとても婿などには出来ない。
だから君の話を聞いた時、まさか娘が好いた男が立石家の者とは流石に驚いた。これは立石家と三頭家が、何代に渡っても決してその結び付き因縁は解けないという証だ」
「達也殿、孫娘の事宜しく頼む」
加奈子の祖父源之進さんが俺に向って言った。
まさかこうなるとは。
「達也さん。私を受け入れ支えてくれますよね」
もう好きだ嫌いとかという次元ではなさそうだ。父さんの言っていた、自分の思うがままに生きれる訳ではないとはこういう事か。
「分かりました。謹んで加奈子さんを一生支えさせて頂きます」
「おおーっ、そうかそうか。良く言った達也。源之進殿これで少しはまた会う機会が増えそうですな。孫という大義名分で」
「はははっ、そうですな総司殿。では今日は久しぶりに飲みますか。五十年ぶりだな」
「そうですな」
「父さん、加奈子さんと神社にお参りに行って来ます」
もう三回目だけど。
父さんは顎だけ引くと、この前のように手をパンパンと二度ほど叩いた。
加奈子さんと二人で歩いているつもりだが、前と後ろに一人ずつ先程のセキュリティが付いて来ている。
「加奈子さん、いつもとは違いますよね」
「ええ、今日はお爺様とお父様が来ている事もありますから」
本当は普段でもしっかりといるんだけどそれを達也さんに言うのはまだ早い気がする。いずれは分かる事、急ぐ必要はない。
「ところで加奈子さん、色々話さないといけない事が有ります」
「なんでしょうか」
多分早苗さんと玲子さんの事ね。
「早苗の事ですけど、さっき皆さんの前でも言いましたけど早苗と正式に付き合います。だから…」
「それは構わないわ。でも私には今まで通りにして。別に毎日会ってなんて言わない。
でも週に一回位は会って欲しいな。それに…それにまだ告白しただけでしょ。あなたの心の中の一つの席が埋まったわけではないわ。
その席は私が座る。でも良いのよ予備席に桐谷さんでも立花さんでも。ふふふっ」
「…………」
やっぱり怖い。
参道まで歩く道すがらそして参道を歩いていても凄い視線だ。加奈子さん、昨日の玲子さん以上かも知れない。
「ふふっ、達也」
「うわっ」
長振袖なのに俺の腕に思い切りしがみついて来た。周りの視線が俺への妬みや嫉妬に変わっている。昨日と同じじゃないか。
「加奈子さん」
「ふふっ、いいじゃない」
参った。
参拝の順番が来た。神様もう三回目です。
「達也、ゆっくり帰ろうか。お父様たちは今頃酒盛りよ」
「そうですね」
帰り道俺は早苗の事、玲子さんの事も話した。神社が混んでいる事も有って往復一時間半は掛かったが、家に帰るとまだ、父さん達は賑わっていた。
曽祖父以前からならば軽く二百年近い関係だ。俺はとんでもない人と関係を持ってしまった様だ。そしてこれからも。
――――――
これはこれは。達也どう見てもハーレムとかじゃなくて、ライオンとトラとヒョウに狙われている、いや三者(四者?)に囲まれ、にらまれて動きが取れないウサギ(達也)ですね。達也気をしっかり持ちましょう。
次回をお楽しみに
面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。
感想や、誤字脱字のご指摘待っています。
宜しくお願いします。
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