第76話 お正月です


 机の上に置いてある目覚ましが、新しい年の午前六時を知らせてくれた。起きるにはいつもより早い時間ではあるが、今年はいつもと違う三が日になる。


 元旦は午前中、早苗と初詣に行く事にしている。もちろん両親に正式に俺の気持ちをはっきりした後だ。


 そして午後から玲子さんが父親と一緒に挨拶に来訪する。結構面倒な事になりそうだ。


 二日には加奈子さんが父親と祖父を連れて来訪するという。玲子さん以上に話が大変になりそうだ。


 時計は午後六時半少し前を指していた。


ブルブル。


 スマホが震えた。スクリーンに早苗と表示されている。偉く早い時間に掛けて来たものだ。


『達也、明けましておめでとう』

『早苗か。明けましておめでとう』

『ねえ、達也初詣一緒に行けるって言っていたけど本当?いつ行くの?』

『ああ本当だ。今日行こう』

『今日!本当に。何時に行けばいい?』

『ちょっと早いけど午前九時半には来てくれないか』

『えっ、そんなに早く?』

『ああ、ちょっと話したい事が有ってな』

『分かった。じゃあその時に』


 私桐谷早苗。前に初詣に一緒に行けると約束してくれた。でもいつ一緒に行けるか分からないから連絡したのにまさか今日の午前九時半とは。

 話が有ると言っていたけど、何だろう。元旦から変な話はしないと思うけど。ご両親に私の事…。まさかねえ。まあいいわ。きっちりと隙の無い様にしないと。



 俺立石達也。早苗との電話が終わった後、一階に降りた。もう客間に使う和室では、お手伝いさんが下準備をしていた。


今日来るのは玲子さんだけではない。立石産業社長として色々な人が挨拶に来る。時間の区切りは決まっている。大変な事だ。


 俺はダイニングに行くと父さんがお茶を飲みながら新聞を読んでいた。母さんがキッチンにいるみたいだ。瞳はリビングでテレビを見ている。


「父さん、今日午前九時半に早苗が来る。一昨日の話もあるので早苗も入れてはっきりしておきたい」

「分かった」

 父さんは一度新聞から目を離して俺の顔を見て言うとまた新聞を読み始めた。



 午前八時に父さん、母さん、瞳と俺で新年の挨拶とお節を少し食べた後、自室に戻って和服に着替えた。一応三が日はこの格好だ。瞳は母さんに手伝って貰って、赤を基調とした和服に着替える様だ。


 着替え終わって瞳とリビングでテレビを見ているとインタホーンが鳴った。多分早苗だ。母さんが出てくれたみたいだ。


「達也早苗ちゃんが来てくれたわよ」


 既に玄関を上がって廊下を歩いていて来ている。

「達也、明けましておめでとう」

 水色を基調とした和服だ。首に掛けてあった白いファーは手に持っている。


「早苗、明けましておめでとう。リビングで待っていてくれ」

「分かった」


「母さんもリビングに行っておいて。父さんを呼んでくる」

「分かったわ」


 俺は自室にいた父さんを呼んでくるとリビングのソファの向かい側に父さん、右に母さん、左に瞳が座って、俺は父さんの正面、俺の左に早苗を座らせた。母さんの前にする為だ。


「父さん、母さん。紹介するまでもないけど、桐谷早苗さんだ。本当はこういう話は大学を卒業してからと思っていたのだけど、立花玲子さんの事、三頭加奈子さんの事もあって、今の俺の気持ちを二人に話しておきたい」


 早苗が何って顔で緊張している。


「俺立石達也は、桐谷早苗さんと正式に付き合いたいと思っている。早苗いいよな」

「えっ!」


 驚いた顔をした後、顔を真っ赤にして

「達也、これって?」

「ああ、俺の気持ちをはっきりさせる為に両親が居る側でお前に告白した。俺と付き合ってくれ」

「あっ、うん。でも、私でいいの。立花さんや三頭さんとはどうするの?」

「それは後で話す」

「……いいよ。達也。お付き合いしようか」


「はははっ、達也。父さんはプロポーズでもするのかと思っていたらまだ告白もしていなかったのか。まあいい。それがお前の今時点の最良の判断なのだな?」

「はい」


「ふふっ、私もお父さんと同じよ。早苗ちゃんと結婚したいと言われるのかと思っていたのに。まあいいわ。それが達也の判断なら」


「達也、一つ教えて?」

「なんだ?」

「なんでプロポーズじゃないの?」

「ぶははははっ、その通りだな早苗ちゃん。君の心で達也の口から結婚してくれって言葉を言わせてくれ。楽しみにしている」

「私もよ。早苗ちゃん」

「私も早苗お姉ちゃん」

「はい!」


「じゃあ、早苗初詣行くか。瞳一緒に来るか?」

「お兄ちゃん。今早苗お姉ちゃんに告白しといて、なにを言っているの。行く訳無いでしょ」

「えっ、瞳ちゃん。私も良いけど?」

「でもー」

「いいのよ。達也から正式に告白されたけど、別にそれとこれは違うから」

「でも瞳は行かない。二人で行って来て」

 全くお兄ちゃんだけでなく早苗お姉ちゃんまで。大丈夫かなこの二人?




 俺は早苗と一緒に家から十分程にある神社に向っている。時間が時間だから神社は相当混んでいるだろうな。



「達也、告白してくれて嬉しいけど立花さんとはどうするの。達也のお父様と立花さんのお父様が決めたお話でしょ?」

「あれは、あくまで父親同士の話だ。今日午後から俺の家に来るけど、正式に断ろうと考えている…」


「ねえ、なんでそこで考えるの?」

「実は、立花さんからのどうしてものお願いが出されていて」

「お願い?」

「ああ、大学卒業までは、今の関係を続けて欲しいと言われた」


「えっ、それって。大学卒業までに私から達也を奪おうって事」

「いや、それはない。俺は玲子さんには心が向いていない。あくまで友達として真摯に向き合うと言う事だ」

「でも…」

「早苗、安心しろ。俺はお前を裏切る事は無い。小さい時から決めていた事だ」

「ち、小さい時からって」

「ああ、小学校高学年位からだ。でもお前が中学一年の時、俺から離れて行ったから諦めたんだけどな」

「それについては、謝ったじゃない」

「だから、改めてこうしている。付き合ってもいないのにいきなりプロポーズは無いだろう」

「それはそうだけど」

 達也がもっとはっきりしていてくれれば良かったのに。でも私も一人勝手に思い込んでいたしな。お相子かな。


「早苗、もうすぐ順番だぞ」

「ふふ、話をしている内に順番来ちゃったね」



ガラガラガラ。



 二人でお参りをした後、

「達也、何お願いしたの?」

「言ったら叶わないんじゃなかったっけ?」

「まあそうだけど、私は言わなくても分かるよね」

「…………」


「達也、おみくじしよ」

「ああいいぞ」


 お金を箱に入れて、番号が書いて有る棒が入っている筒を良く振ってから棒を筒から取り出す。そしてその番号が書いて有る棚からおみくじを一枚取る。


「達也どうだった?」

「吉だ」

「ふふっ、私も。でも待ち人来るまで待てって。どういう事?」

「さあ。俺はえーっ、人間関係で揉め事多し。本当に二人共吉なのか?」


「こういう時は、おみくじを木に結んでしまいましょ」

「そうだな」


 昔から良いおみくじは家に持って帰るらしい。良くない時は神社の木に結び付けて厄を払って貰うらしいけど、本当に結び付けていいのか?まあ、早苗がそう言うから良いか。


 その後、参道で開いている出店を見て回った。二人共着ている服が和服なので飲食物は残念だけど諦めた。


 二人で家に戻りながら

「達也三が日の予定は?」

「今日午後二時に立花さんが父親と一緒に来訪する。明日は午前十一時に三頭さんが、父親と祖父を連れて来訪する予定だ」

「父親と祖父を連れて?どういう事?」

「それはまた話す」


「じゃあ、三日に会って。いいでしょ」

「それは駄目だ。俺も立石家の次期当主だ。父さんの来客に会わないといけない」

「そうなの。じゃあ仕方ないね」

 私は三頭さんの来訪に一抹の不安を覚えたがどうにもならない事みたいだ。


――――――


 私も達也、両親の前で早苗にプロポーズするかと思っていたのに。


次回をお楽しみに


面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。



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