第75話 達也の思い、加奈子の考え
午後六時には早苗の家から戻った。直ぐに自分の部屋に行くと体をベッドに横にして
そろそろはっきりした方がいい。三人の為にも。しかし、俺はいったい誰が好きなんだ。今の三人への向き合い方ってその時都合の様な感じがする。
言い寄られて断れない状況を作られて逃げれない自分がいるだけだ。
…………。
一人一人考えてみるか。
玲子さんは、綺麗で優しい人だ。友達としてはとてもいい人だと思っている。だから大学四年までは向き合うが、それ以降は、今の様な対応はしない。
でも彼女からあの時言われた言葉は、後五年の間に俺を彼女に振り向かせる。だから今は心の不安を除く為に抱いてくれと言った。
しかし、それはもうそういう関係は、これからはしなくて良いと言う事か。そうはいかないだろう。何かを理由にして必ず求めて来る。それはもうしたくない。それに俺の心が玲子さんに向く事はない。
玲子さんとの件は、あくまで父さんと玲子さんの父親が勝手に決めた事。ここはやはりしっかりと断るしかない。
俺は加奈子さんをどう思っているんだろうか。確かに彼女を好きという感情はある。でもそれは、今までの既成事実から醸造されたように思う。
将来に向けた気持ちではない。だが彼女も大学四年まで付き合う事になった。多分色々な事がもっと進展するだろう。
でも俺は彼女と結婚する訳にはいかない。俺は立石産業の跡取りだ。彼女は三頭家の跡継ぎ。婿入りは出来ない。
彼女は大学四年になった時、俺の心の中にある一つの席が彼女で無かったら諦めると言っていたが、俺自身がそれまで今の関係を続けられるのか。
そして早苗、
俺の心の中は、小さい頃から決まっていた。一時早苗が俺から離れた時は彼氏が出来たと思い諦めていた。実際二年半以上俺から離れていればそう考えるのが普通だ。だから彼女の事はもう忘れていた。
だが、それが誤解だと分かった以上、彼女がもう離れる事は無いと思うが、事は俺が思う様に簡単には済まないだろう。
正月になる前に父さんに話すか。しかしまだ高校二年の自分がこんなこと考えなくてはいけないとは、せめて高校卒業までは女の子の事なんか気にしないで自由に過ごしたいものだが、どうすればいいものか。
翌日、父さんは、朝から家にいた。
「父さん、話があるだけど。今日どこかで空いていないかな」
「話?午後からならいいが」
「じゃあ、昼食後で」
「ああ、分かった。書斎に来なさい」
俺は昼食後、父さんの書斎に行った。
「達也話とは?」
「玲子さんの事です。父さんと玲子さんの父親が言っていた話を無かったことにして欲しい」
「なに!」
「俺には心の中に決めた人がいる。だから玲子さんとの事は無かったことにして欲しい」
「心に決めた人と言うのは三頭加奈子さんか?」
「いや、隣の幼馴染桐谷早苗だ」
俺は昨日の夜ベッドの上で、自分で考えた事を父さんに話した。
父さんは俺の顔をじっと見た後、視線をずらして考え始めた。
「達也、実を言うとな。三頭さんの方から話しが有った」
「えっ?でも俺は…」
「立花さんの所には、私から話をしておく。向こうも薄々感じてはいたらしい。この前食事をした時に、少しそんな事を言っていた。だが大学までは今のままお前と友達で居たいそうだ。
それは最初からの約束だからな。もしかしたらお前の心も五年の間に変わるかもしれないという期待からだろう」
「それ、断れないの?」
「そこは譲らないと言っていた」
「達也、三頭さんの事は、正月に来てくれるからその時に話そう。加奈子さんとお前が一緒に居た方がいい。しかし隣の早苗ちゃんか。あの子は小さい時から知っている。あの子を選ぶとはな。ははっ、それも良いだろう」
「ところで命を助けた本宮涼子さん。お前はどう思っているんだ?」
「涼子については、高校卒業するまで今のままで居ようと思う。彼女が一時であれ、俺の初めての彼女になり、裏切られたとはいえ、また彼女の命を救う事になった。
これは俺と涼子の運命だと思っている。だから高校卒業するか、新しい彼氏が出来るまで彼女の心を支えてあげるつもりだ。それ以上の事はない。彼女も望んでいないと言っている」
「そうか。でも本当にそれで済むのか。人の心というものは分からないものだぞ」
「…大丈夫だと思うとしか言えない」
「達也、立花さん、三頭さん、桐谷さんへのお前の気持ち考えは分かった。父さんとしては、お前の考えを一番にするが、お前も立石産業の跡取り、思うがままに生きれる訳ではない事を忘れないでくれ」
「分かっています」
達也と早苗が冬休みの宿題を終わらせた二十九日木曜日に戻ります。
私三頭加奈子。日曜日に達也に言った事を考えていた。
今のままでは、私が大学に行っている間に達也は立花さんか、桐谷さんに取られてしまう。高校を卒業するまでに達也との事を決めておかなくてはいけない。やはりお父様に相談するしかないか。
翌日三十日朝、私はお父様の書斎の前にいた。
「お父様、お話したい事があります」
「加奈子か、入りなさい」
「話とはなんだ?立石の倅の事か?」
「はい」
「話してみなさい」
「お父様、私は立石達也という男を好いています。本当は彼と添い遂げたいと思っています。
しかし彼は、立石産業の跡継ぎ、そして私は三頭家の跡継ぎです。二人が一緒になる事は出来ません…」
「そんな事は始めから分かっている事ではないか。お前の我儘も精々高校生までと思って許しているのだが。そもそも立石の倅が、お前と結婚したいと考えているのか?」
「それは…」
「なんだ。そんな事もはっきりしていないのか。何を私に言いに来たんだ?」
「…………」
「黙っているなら下がりなさい」
「お父様、お願いです。力を貸してください」
「私の力?」
「はい、お父様の力で大学卒業後、私を彼の内縁の妻として頂きたいのです」
「どういう事だ?」
「私は三頭の後を継ぎます。でも私は彼の子供が欲しいんです。その子を三頭の次の跡取りにします。もちろん子供は彼に認知してもらいます。
そして、私が総帥になった時、彼を私の補佐として頂きたいのです」
「また、凄い事を考えたな。そんな事、彼が許すのか。荒唐無稽の加奈子の妄想ではないのか」
「いえ、違います。彼との相談の上です」
「なに?立石の倅がそんな事をお前と考えているのか」
「はい」
「しかし、彼はいずれ本妻を迎えるだろう。その時はどうするんだ?」
「今の事を理解してくれる人と結婚して貰います」
「はははっ、そんなに世の中都合よくないぞ。もし本妻が最初は認めながら、子供でも出来た後、お前との関係を切れと言われたら彼はどうするんだ。お前を取るか?」
「それは…。でも私は彼を愛しています」
「加奈子、高校時代は感情が豊かになり、心が揺れ動くものだ。もっとよく考えなさい。お前も大学に行けば、彼よりもっといい男が見つかるかも知れないぞ
「そんな事、絶対有りません」
「今だけだ」
私はお父様の書斎を出た後、自室に戻った。
先程、お父様に言った事は、達也も認めている所。半分だけど。本当にきちんと話さないといけない。今日は三十日。お正月まで今日を入れても後二日。それまでに何とかしないと。
――――――
正月を前に凄い事になって来ました。
次回をお楽しみに
面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。
感想や、誤字脱字のご指摘待っています。
宜しくお願いします。
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