第74話 冬休みの宿題


 俺立石達也。俺の部屋のローテーブルの向かい側には早苗が座っている。今日は十二月二十六日月曜日。今日から四日間で冬休みの宿題を終わらせようという訳だ。


 夏休みと違い、休み期間は短いがそれなりの宿題の量はある。だから早苗と一緒に二十九日までに終わらそうという考えだ。

 午前十時に俺の部屋に来て昼食をはさんで二人で宿題をやっている。


 カリカリカリ


「達也、何も聞いてこないけど大丈夫?」

「ああ、今のところはな」

「どこまで終わった」

「ここまで」

「えーっ、私の半分位じゃない。何処つかえているの?」

 よそよそと俺の方に寄って来た。思い切り顔を近づけて来る。


「お、おい早苗、近い」

「えっ、なんで。側に行かないと見えないでしょ」

「い、いやいや。十分見えるだろう」

「私は見えない」

 何故か、俺の右腕に柔らかい物をぎゅーと付けてくる。近すぎだよ。


「ここは、この公式を使えばすぐ解けるじゃない。こっちは、先にこの問題を解いてしまえばいいの。ちょっとした引っかけよ」

 うーっ、やっぱりこいつの頭の中と俺の頭の中は違うらしい。


カリカリカリ。


今までのこなした量に掛かった時間の半分で同じ量を終わらせてしまった。

「ほら、これで一緒のペースに戻った。さっ、また始めよう」


「早苗、もう少し離れないか。お前もやりにくいだろう」

「ううん、ぜんぜーん。問題ないよ」

 俺が問題だよ。何故か俺の右腕に早苗の腕がクルリと巻かれている。書きにくい。


「なあ、俺がやりにくいんだけど」

「いいじゃない。後で私の写せばいいよ」

「それじゃあ宿題の意味が無い。早苗離れてくれ。そうしないと明日から一階のリビングでやるぞ」


「ぶーっ、達也のケチ」

 何がケチなんだ。でもやっと早苗が離れた。俺の隣にいるけど。




「達也、今日の分終わったよ」

「俺は終わっていない」

「じゃあ、見せなさい」

「いや、俺が一人でやる」

 こいつが側であれはこうしろ、これはこうした方がいいとか言われても俺の頭の中に入ってこない。ここは自分の為にも妥協できない。



それから一時間して

「ふーっ、取敢えず今日の分が終わった。後三日で何とか片付けれそうだな」

「うん、じゃあ達也、休もうか」

 何故か、早苗が俺の隣に寄って来て、腕を巻き付けて顔を肩の側に寄せて来た。何も言わないでいると


「達也…」

「…………」


「ねえ、達也ったら…」

 あえて無視。


「もうこうなったら」


 うおっ、俺の足に跨って来たよ。いきなり俺の顔を両手で挟んで


 ムニュ、ムニュ、ムニュー。


「どう、達也。嬉しい」

 

 駄目だ。なんて事するんだ。こいつ。いくらでかいとはいえ、両方の柔らかい山を俺の顔に押し付けて来るとは、ちょっとは気持ちいいけど…。俺は仕方なしに両手で早苗の肩を持つとぐっと離した。


「あははっ、達也顔真っ赤だよ。する?」

「しない」

「いいじゃない。もう一昨日したんだし。まだ安全だよ」

「駄目。今度」

「今度っていつ?」

「今度は今度だ」

「教えてくれないとこうだ」


 チューッ……。


 こいつ一昨日してからタガが外れたのか。


「ぷはっ。ふふふっ、達也」

今度は俺の肩に顔を乗せて抱き締めて来た。参ったなあ。とにかく離れないと。


コンコン。


「早苗早く離れろ」


ガチャ。


「お兄ちゃ…」

 じーっ…。


「早苗お姉ちゃんのエッチ」


タタタッ。


「お母さーん。早苗お姉ちゃんがお兄ちゃんに抱き着いているー」


「間に合わなかったか」

「ふふっ、私はぜんぜーん構わないけど」

 こいつ外堀埋めながら内堀も埋め始めている。不味い何とかしないと。でもまだ話す訳にはいかないし。


「なあ、早苗。もう少し距離取らないか」

「えっ、距離取るって……」

 急に彼女の顔が暗くなったと思ったら


「達也、私が嫌になったの?こんなにべとべとしているから?私じゃやっぱり駄目なの?」

 下瞼に涙が溜まって来たよ。もう仕方ない。


「早苗、距離取るっているのは、今俺の足の上から離れてくれという意味だ。お前と別れる事は無い」

「えっ、ほんと。今言った事本当なの?」

「だけど、簡単に行かない事情があるんだ。それが詰まっていないから。それがはっきりするまで待て」


「簡単に行かない事情って何。詰まっていない事って何?」

「少し待ってくれ」

「今話せないの?」

「待ってくれと言っている」

「…分かった。でもさっき言った事。達也が私と一生離れないって言った事。本当に信じていいんだよね?」

 なんか話が変わっている?まあ大した差はないか。


「ああ、本当だ」

「達也ーっ!」

 足の上から退くどころか、思い切り抱きしめて来たよ。参ったな。


 仕方なく、彼女の両脇に手を入れてぐっと上に持ち上げて退かすと

「早苗、明日も宿題がある。もう午後六時も過ぎている。今日はこれで終わりにしよう」

「うん、分かった♡」

 なんで目の中にハートが見えるんだ?


 どうせ明日も来るからと宿題と筆記用具はそのままに俺は早苗を送って行った。三十秒も掛からないけど。




 私桐谷早苗。ついに、ついに達也が私を選んでくれた。嬉しーっ。立花さんじゃなくて三頭さんじゃなくて、私を選んでくれた。


 これで安心…。と言う訳にはいかないわ。立花さんとは大学卒業まで、三頭さんとは彼女が高校卒業まで聞いているけど、そんな事分からない。


 今、達也が口で言ってくれただけ。二人が、今以上に彼を攻めてきたら、そんな口約束一瞬で飛んでしまう。でも高校生で婚約なんて出来ない。


 それに簡単に行かない事情、詰まっていない事が有るって言っていた。それがあの二人に関係する事なら尚更油断できない。


 でも彼の心が私に向いているのは間違いない。口先で嘘つくような男じゃないから。これからは、どうすればあの二人から達也を守るか考えないと。





 俺達は、翌日、翌々日も午前十時から昼と三時を挟んで午後六時まで冬休みの宿題をやったおかげで、予定していた最終日の午前中には全部終わらすことが出来た。


「達也、何とか終わったね。今日の昼食私が作ろうか。いつも達也のお母さんにお願いしているし」

「ああ、それは良いけど。母さんもう作っているんじゃないか」

「ちょっと見て来る」


 早苗は、父さんの書斎や寝室を除けば、我家の事はよく知っている。あっという間に一階に降りて行った。



 早苗が戻って来た。

「もう作ってくれている。だからそれを頂いたら、私の部屋に来ない?」

「…………」

「ふふ、宿題ばかりだったから、私の部屋でお話しよう」

 怪しい。絶対怪しい。

 

「話だけだよな。それならここでも良いじゃないか。外は寒いから行かないけど」

「でもー。偶には気分変えて。ねっ、た・つ・や」



 仕方なく昼食後、早苗の家に行くと両親はいなかった。そして


「達也いいでしょ。まだ安全日だよ」

「駄目だ」

「なんで?」


「一昨日したじゃないか」

「でも、またしたくなったの。達也の傍にいたいの」

「こうやっているじゃないか」


「達也、こうなったら」

「あっ、ばか止めろ」

「止めない」

「あ、待て」

「待たない」


……………。


 ふふっ、た・つ・や。嬉しいー。


――――――


 早苗さん積極的です。


次回をお楽しみに


面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。



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