第73話 クリスマスの日曜日


 俺立石達也。今日は日曜日、時間は午前六時。まだベッドの上にいる。

昨日早苗との事が両方の親にバレた事で、今後早苗の両親にどう接して行けばいいか悩んでいる。

 どうしたものか。俺の気持ちはほとんど決まっているが…。そうほとんどだ。最後の詰めがまだ決まっていない。


 ジリジリジリ。

 

 机の上の置時計が午前七時を知らせてくれた。着替えてダイニングに行くと母さんと瞳が一緒に朝食を取っている。


 俺の顔を見るとニコニコしながら

「達也、今日は早苗ちゃんと会うの?」

「会わないけどなんで?」

「別に。聞いただけよ。ふふふっ」

 何なんだ。


「午前中は爺ちゃんのとこに行く。瞳はどうするんだ?」

「行くよ。私は今年で最後になるから」

「そうか」


爺ちゃんの所に行きながら瞳は

「お兄ちゃん、早苗お姉ちゃんと結婚するの?」

「はっ、何言っているんだ瞳。まだそんなこと考えてもいない。俺はまだ高校二年生だぞ」

「じゃあ、お兄ちゃんは、何も考えずに早苗お姉ちゃんとしちゃったの。それって問題あるよね。玲子さんの事も有るんだし」


「色々考えてはいる」

「ふーん。そうなんだ。私はっきり言うと早苗お姉ちゃんがお兄ちゃんのお嫁さんになってくれた方が嬉しい。

玲子さんは綺麗だし心も優しい。それは早苗お姉ちゃんも同じ。それにお兄ちゃんの事良く分かっている。だから…」

「瞳、そういう事は簡単には決められないんだ」

「そうなの?」

 瞳にはまだ俺の気持ちを言う訳にはいかない。まだ何も決まっていない。



 瞳と二人で爺ちゃんの所で午前中の稽古を終わると今日は瞳と一緒に家に戻った。シャワーを浴びた後、俺は昼食を家で取らずに加奈子さんの家のある駅に向かった。母さんには友達と会ってくると言ってある。嘘はついていない。


 約束は午後一時だ。いつもの様に改札で待っていると、あれっいつもより気合が入っている。駅前の信号を渡る時も周りの人の注目の的になっていた。



「達也待った?」

「いえ、いつもお通りです。凄い綺麗ですね」

「ふふっ、ありがとう。本当は我が家で二人でクリスマスと思ったのだけど、母さんが今日は出かけないらしくて。

 それで私が出かける事にしたの。達也に私の手料理を食べさせてあげられなくて残念なだけど。その代わり素敵なレストラン予約してあるわ。もちろんその後も」


「そ、そうですか。ありがとうございます」

「ふふっ、さあ行こうか」




 着いたのは、まさかの玲子さんと一緒に来たホテルだった。

「こ、ここは!」

「ふふっ、そうよ。達也私が最後に上書きしてあげる」

「…………」

 やっぱり考え直そうかな?


「達也ちょっとここで待っていて」

「はい」

 加奈子さんはフロントに行った。なんだろう。


直ぐに戻って来ると

「行きましょう」



 エレベータフロアからエレベータに乗り…。まさか客室…なんてことはなく、普通のレストランフロアだった。

 加奈子さんが入り口で立っている係の人に声を掛けると

「お待ちしておりました。こちらへどうぞ」


 通されたのは、半個室になっていて窓から周りの景色が一望できる。地平線の向こうには山脈が見える素敵なテーブルだ。

「達也、どうかなここ?」

「素晴らしいですね」

 まあここは俺が払うか。しかし学生の小遣いでは厳しいな。


「達也、お金の事なんか気にしないで。全部三頭家で通してあるから」

「…………」



 加奈子さんが先に予約して有った料理はまさにクリスマスランチだった。でもほとんどディナーと変わらない位の量と質だ。

「どう、達也の口に合ってくれているかしら?」

「とても美味しいですよ」

 前に食べたなんて言えないけど。玲子さんの時と少し違う味付けだ。



食事が進み、デザートの時間になると

「達也、これ私からのクリスマスプレゼント」

 少し長いケースだ。クリスマスカラーで包まれている。


「加奈子さん、これクリスマスプレゼントです」

「ありがとう達也」


「開けていいかな」

「はい」


「ふふっ、素敵ね。着けてみるわね」

 加奈子さんに送ったのは、少し大きめのシルバーイヤリングだ。これだけは瞳が早苗に買った時の情報を参考に自分で買った。加奈子さんの事は瞳に教えていないからだ。


 今付けているイヤリングを外して、俺がプレゼントしたイヤリングを着けると


「どう似合う」

「とても似合います」

「じゃあ、今からこれを着けるわ」

 先に着けてあったイヤリングを俺が送ったイヤリングケースに仕舞ってから


「達也、私プレゼント開けて見て」

「はい」

 包装をといてケースを開けると革製の手袋が入っていた。

「どうかな?」

「とても嬉しいです」

「ありがとう達也。そう言ってくれると嬉しいわ。デザートも終わったし、場所を変えましょうか」

「…………」

 多分そうなんだろうな。




 一度エレベータに乗り少しだけ下がったフロアに着いた。加奈子さんが俺の腕を掴んでいる。

「達也、降りましょう」

「…………」


 入った部屋はセミスイートだ。リビングとベッドルームの二部屋続きだ。


「達也、シャワーを浴びて来て」

「はい」


 俺はシャワーを浴びながら

 加奈子さんの事ははっきり好きと自分でも分かっているからこういう事も慣れてしまっている。

 正月にははっきりさせるつもりだ。でもその前に加奈子さんと話しておかなければいけない事がある。



「加奈子さん出ましたよ」

「じゃあ、私は入って来るわね」



……………。


 達也、いつもより積極的。ふふっ、嬉しい。彼も好きになったのかしら。



「達也凄かったわ。嬉しい」

「か、加奈子さん」

 加奈子さんが俺の首に腕を巻いて俺の体の上に乗って来た。そして俺の首を絞めるマネをして


「達也、もうこんな事する必要ないかな?どうなの?」

「まだ分からないです」

「決めなさい。でないとこうよ」

首を絞められている。全然効いてないけど。この人結構首絞めるの好きなのかな。


 彼女の俺の首を絞めている手を片手ずつで外すと軽く彼女の体を持って仰向けにした。

「達也…?」


 え、ええ、えええーっ!




「た、達也。もう駄目。許して」

「駄目です。加奈子さんがいけないんです」


 だめーっ。



「はあ、はあ、はあ。た、達也凄すぎ。壊れそう」

「まだです」

「え、ええーっ」




 俺の右腕の上に頭を乗せて目を閉じている美しい女性がいる。美しくて、頭が良くて、俺に優しくて、俺を好きだと言ってくれている。


 俺も加奈子さんは好きだ。だからと言って今回の件簡単に決める訳にはいかない。その前に加奈子さんに確認しておかなければいけない事が有る。




 あっ、目が覚めた。

「ふふっ、達也嬉しい。思い切りして貰っちゃった。いつも以上にあなたを感じたわ」

「俺もです」

「そう良かった」

 達也の心は私に大きく傾いている。後は大学までこの気持ちを続けさせることが出来れば。達也は私のもの。



 俺達は、もう一度シャワーを浴びた後、着替え終わってから

「加奈子さん、話したい事があります。まだ時間有りますか?」

「構わないけど。話って?」


 俺は自分が加奈子さんに対して考えている事を話した。彼女は驚いた顔をして考え込んでいたが


「達也、私の考えは決まっているけど…。私も三頭家の跡継ぎ。お父様と相談させて。祖父とも話す必要がある」

「構いません。いずれにしろ正月には我が家に来ますよね」

「ええ、それは祖父から聞いている」

 難しい顔で答えた。


「では、その時にはっきりしましょう」

「えっ、でも…」

「構いません」

「分かったわ」


 時間はもう午後七時を回っていた。彼女を家に送り届け、俺が家に着いた頃には午後九時近くになっていた。


――――――


 達也、加奈子さんに何言ったんだろ?


次回をお楽しみに


面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。

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