第65話 期末考査の勉強会はただではすまない

 

 十一月も半ばを過ぎ、期末考査まで後二週間。期末考査は範囲が広い。それだけに気を抜けない。


 来週から早苗、玲子さんには、土日を二回ずつ、涼子には、火、金とした。月曜日は玲子さんと一緒に帰る。水木は俺が図書室担当だからだ。


 文句を言う訳ではないが全く俺の時間が無い。なんでこうなったかは自分自身良く分かっている。だから自分に頭に来ている。




 高校生活も実質後一年と少し。入学時と全く予定が違ってしまった。そして今日は日曜日、俺は何故か加奈子さんの部屋に居る。それもベッドの上だ。



「ふふっ、達也上手くなったわね。私の弱い所もみんな知られちゃった。ふふっ、嬉しい。ねえ達也、私の事好き?」

「す、好きですけど。結婚するとかという意味では無いですよ」


「うん、分かっている。達也と初めて体を合した時、高校最後まで好きになって貰えなくても仕方ないと思っていた。

 でもこうして今達也は私の事を好きと言ってくれる。良かった寂しい高校生活にならなくて」

「加奈子さん……」


「達也、来年三月までのお付き合いと思ったけど、お父様にもお母様にもあなたとの関係を知られている。

 だから、大学卒業まであなたと付き合う事にした。いいでしょう。達也」


 今、この人とんでもない事言ったよ。俺と加奈子さんの関係をご両親が知っていると。そう言えば俺の父さんも俺達の事知っていたし。これって…。


「どうしたの?ねえ良いでしょう。大学卒業まで。その時、達也の心の中の一つしかない席に私が居なかったら諦める。でも居たら…決まりだからね」

「…………」


 どう答えればいいんだ。加奈子さんの事は高校までと思っていたのに。

でもおかしな。玲子さんの事、父さんどうするつもりなんだ。もう俺の一存じゃ決められないだろう。


「ふふっ、達也。立花さんの事心配しているのね。あの人とも大学卒業までお付き合いするんでしょう。私も一緒でいいじゃない」

「それって、断れます?」

「ふふっ、もう断れない」

「やっぱり」

「達也お話はここまで」



…………………。


 堪らなく嬉しい。達也の心が私を受け入れてくれている。だからこういう事も前より何倍も気持ちいい。

 達也もっと……。




「加奈子さん、加奈子さん」

「うん、なあに?」

「もう午後五時ですよ」

「まだ一時間ある。達也♡」



 結局今日も午後六時、彼女のお母さんの帰り近くなってしまった。

「達也、お母さんに会って行く?」

「い、いやいや。そんな」

「えっ、もう良いじゃない。達也の事知っているし」


「でもどんな顔して会えば」

「そうね。いままで私を抱いていましたって顔すれば」

 なんて事言うんだ。この人。


「駄目です。帰ります」

「ふふっ、仕方ないなあ。じゃあ、また駅前の喫茶店に寄ろうか」

「はい」



 一時間分位喫茶店にいた後、加奈子さんを家まで送って行った。





 今週から勉強会が始まる。月曜だけは自分で出来る。

 そして火曜日、下駄箱で涼子が待っている。だがここでは一緒に帰らない。玲子さんがいるからだ。駅で玲子さんと別れるとホームで涼子が近づいて来た。


「達也」

「ああ、図書館でいいだろう」

「うん、…達也」

「なに?」

「もし、もし私が一位になったらご褒美が欲しい。良いかな?」

「いいよ。涼子が欲しい物なら。決まっているなら準備しておくぞ」

「ふふっ、まだ一位になると決まった訳じゃないから。その後でいいよ」


 放課後図書館に行くともう午後四時、今からだと三時間位しか出来ない。午後七時には涼子を家に送り届けたいからだ。


 範囲が広いので復習も大変だ。ただ涼子がいるので色々教えて貰えるから進みは良い。

 午後七時前まではあっという間に時間が過ぎた。


「涼子、時間だ。帰ろうか」

「うん」


涼子と駅からの彼女の家までの帰り道、

「達也、友達に戻ってくれてありがとう」

「気にするな。俺もお前と友達に戻れて嬉しいよ」

「本当!なら、我儘言っても良いかな?」

「なに?」


「友達繋ぎで良いから手を繋ぎたい」

 出来なくても仕方ないけど。


「涼子、俺と手を繋ぎたいのか?」

「うん」


 彼の方から手を繋いでくれた。久しぶりの達也の手。ごつごつした大きな手。嬉しい。

「達也、ありがとう」


 俺はどこまで涼子に気を許しているんだろう。彼女を助けた時から、出来る限り側にいてあげるのが俺の役目だと思った。それが彼女と俺の縁なのだと。


 もちろん結婚するとかという話では全くない。ただ少しでも彼女の心が休まればという思いだ。手を繋ぐ事でそれが出来るなら構わない。



家まで着くと俺にギュッと抱き着いて

「達也ありがとう」

 そう言って俺から離れると玄関に入って行った。





 水木は俺が図書担当だ。だから自分で勉強する。どうせ、早苗や玲子さんと復習から始めるから、この二日は涼子と一緒に復習した所を再度見直した。結構すんなりと頭に入って来る。


 そして金曜日は、また涼子と同じように復習した。火曜日の次の所からだ。おかげで国語、数学はほぼ終わらす事が出来た。涼子のお陰だ。

「涼子助かるよ。大分理解出来た」

「うん、良かった。じゃあ今日も手を繋いでくれる」

「ああいいよ」

「ふふっ、嬉しい。でも友達繋ぎだよ」

 今度は涼子から手を繋いで来た。


 涼子の事は気持ちの中で綺麗に整理出来ている感じだ。良かった。明日は早苗と勉強会だが、気を付けないといけない。場所は絶対うちのリビングだ。


 


 翌日朝、いつもの様に早苗は門の側で待っていた。

「早苗、構わないから来週から家の中で待っていてくれ。お前に風邪ひかれたら困る」

「でもー。門で待っている」

「駄目だ、門で待っていて早苗が風邪ひいたら、お前の両親に合す顔が無い」

「大丈夫よ、責任取ってくれれば」

「責任?」

「うん責任」

 嫌な予感がした。この話は終わらすか。



「早苗、今日の勉強会はうちのリビングでやるぞ」

「えっ、私の部屋でしょ。そう約束したよ」

「そんな約束していない」

「した。それにもうあれ終わっているし…。私の部屋でしよう」

 何をする気だ。


「早苗、勉強会だぞ。リビングで良いじゃないか」

「じゃあ、うちのリビング」

「おれんちのリビングでなければしない」

「じゃあせめて、達也の部屋。おばさんも瞳ちゃんもいるでしょ」

「…分かった」

 

 ふふふっ、達也逃がさないわよ。


――――――


 達也。良いような悪いような。なんかメヒョウが牙向けている。


次回をお楽しみに


面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。

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