第66話 期末考査の勉強会はただではすまない その二


 もうすぐ期末考査。図書室も考査準備の為か、いつもより生徒が多い。今日家で一緒に勉強する早苗、それに玲子さん、涼子、涼香ちゃん、瞳達もいる。男子生徒が多いのはその所為か?



 予鈴がなり、生徒が退室していく。涼香ちゃんや瞳も早めに退出して行った。残っているのは、玲子さん、早苗と涼子だ。困ったものだ。


「三人共、もう閉めるから退室して」

 何故か、涼子が俺を見てニコッと笑顔になるとそのまま出て行った。


「なに、今の。達也今の本宮さんの笑顔どういう事?」

「早苗、涼子が帰る前に微笑んだだけじゃないか。何を気になっているんだ?」

「だって…」

「とにかく図書室から出て行ってくれないと閉めれないんだ。早く出てくれ」

「分かった」


 玲子さんも何故かニコッと笑顔になって出て行った。全くこの人わざとしている。

「なにあれ?」

「早苗、下駄箱で待っていろ。早く行くから」

「分かった」

 本宮さんといい、立花さんといい、なんか面白くない。


 早苗が不機嫌な顔で図書室を出て行くのを待って、俺は室内を一通り見て汚れや落とし物がないか確認した。

 それが終わると閉室処理をしておわりだ。図書室を閉めた後、鍵を職員室に返して下駄箱に行くと早苗だけが待っていた。良かったあの二人が居なくて。


「早苗帰るか」

「うん」



 校門まで行く間、グラウンドを見ると女子テニスの同好会の子達だろう、テニスコートの隅でスイングの練習をしていた。女子テニス部が廃部になり男子テニス部にコート全面を取られたからだ。


 彼女達がコートを使えるのは男子テニス部の練習が終わった後。でも今の季節ではもうすぐ暗くなる。ほとんど出来ないんじゃないのかな。


「達也、女子テニスの子達は全員が一年生。二年で停学になった子も始め戻って来たけど直ぐに止めたみたい。

 一年生には可哀想だけど仕方ない。同好会では公式の試合にも出れないし。少しずつ実績付けて行くしかないんだろうね」

「そうなんだ」


 あんな事があったとはいえ、男子テニス部の練習の邪魔にならない様にしながら隅っこで練習している姿を見ると少し可哀想な気がした。公営のテニスコートを借りるのはお金もかかるし抽選にも参加しなくてはいけない。仕方ない事だが。



 俺は早苗と一緒に家まで来ると

「早苗一度家に戻るか?」

「ううん、直接行く」

「そうか」


「ただいま」

「おじゃましまーす」


 シー―――――ン。


 あれ、誰もいないの?

「誰もいないみたいだな。母さんどこ行ったんだろう?まあいい、俺の部屋で始めるぞ」

「うん♡」

 なんか早苗の目に♡マークが見える。気の所為か。



 俺の部屋に入り、ローテーブルに向かい合って座り、教科書とノートをローテーブルの上に出すと

「達也、本宮さんとはどこを一緒に勉強したの?」

「国語と数学だ。ほぼ全部終わっている」

「そうかあ、じゃあ英語と社会やろうか。今日の授業に無かったから家に教科書取りに行って来る」

「分かった」


 早苗が教科書を取りに行った。持ってない教科書を直ぐに取り行けるのは家が隣同士の特権だ。

五分もしない内に帰って来た。


「じゃあ、始めようか」


カリカリカリ。


「早苗、これ文意が取れない」

「どこ?あー、これは…」

「早苗、これ」

「何処?」


 なんか質問する度にこちらに近付いている。三回目でとうとう隣に来た。

「早苗、近すぎないか」

「いいじゃない。分からない所教えるの近い方がいいでしょ」

「…………」


 やり始めて一時間半、もうすぐ午後五時になる。なんで母さんと瞳は帰ってこないんだ?


「達也、少し休もうか」

「ああ、そうしよう」


早苗は手を思い切り上に伸ばすとそのまま俺の方に倒れて俺の腿の上に体をせた。


「早苗」

「良いじゃない少し位。ねえ、達也」

「うん?」

「この前言った事覚えている?」

「何だっけ?」

 言える訳が無い。ここは白を通すしかない。


「約束したでしょ。今週は大丈夫だって。だから…しよ」

「早苗駄目だ、勉強が優先だ。絶対にしない」

「…達也の嘘つき。してくれるって約束したじゃない」

 そんな約束したっけ?


「約束したとしても期末考査が終わるまでは駄目だ」

「達也のケチ。じゃあ終わったら絶対だよ」

 ここで安請け合いするととんでもない事になる。


「約束は出来ないけど前向きに考えるよ」

「なんで、なんで達也、あそこまでしてくれたじゃない。もう同じだよ」

「しかし…」


 一階の方で声が聞こえて来た。

「家族が帰って来たようだ。今度にしよう」

「もう……」


 この後は気が散ってしまったが、それでも午後六時半まで一時間位は出来た。

「ねえ、達也、明日は玲子さんとでしょ。しちゃやだよ」

「しない。絶対にしないから。あくまで勉強に来るんだ」

「分かった。もうそろそろ帰るね。でもその前に」

 仕方ないか。


 少し長い口付けをした後

「帰る」


 一階に二人で降りて行くと

「お邪魔しました」

「早苗ちゃん、進んだ?」

「はい」

「えっ、本当に!」


「母さん、勉強会だよ。全く」

「あら、そうなの。残念」

 何が残念だ。全く。


 


 翌日、俺は午前中爺ちゃんの所で瞳と一緒に稽古に励むと家に帰ってからシャワーを浴びた。一応礼儀だ。


 午後昼食を摂った後、瞳は涼香ちゃんと一緒に勉強すると言って出かけた。そして午後一時、門の車止めに黒い大きな車が止まった。


一応玄関を出て待っていると

「達也さん、来させて貰いました」

「玲子さん、中に入って」

「はい」


 既にリビングでは母さんが紅茶の用意をしてくれていた。

「達也さん、復習は何処まで進んでいます?」

「国語と数学が終わって、社会と英語が半分位です」

「…そうですか」

 なんか少し寂しそうな顔をしている。


「では、社会と英語の残り半分と古典をしますか。教科書は全部持って来ています」

「済みません。始めますか」

「はい」


 玲子さんの教え方は上手かった。涼子も早苗を上手だが、二人より上だ。この人先生になったら良いんじゃないかな。


「ふふっ、達也さん、私は学校の先生にはなりませんよ。達也さんの妻として家庭を守ります」

「…………」

 まあそう言うだろうな。しかし、なんで皆俺の頭の中にある事が分かるんだ。爺ちゃんが俺は考えている事が顔に出ると言っていたが、外部表示機能は俺の顔か?


「達也さん、何を考えているんですか。まだ、復習終わっていませんよ」

「あっ、済みません」


 カリカリカリ。


 テーブルに並んで勉強をしているが、何ヶ所か教えて貰うごとに段々、近づいてくる。参ったな。


「達也さん」

「えっ」

 顔を彼女の方に振向けると


 チュッ。


「あ、あの。今日は勉強では?」

「はい、そうですよ。ちょっとエネルギー補給です」

「はあ?」

 なんか女の子ってそんなに口付けしたいものなのかな。今度健司に聞いてみるか。やはり女の子は俺にとって未知の生命体としか思えん。


 午後三時に三十分程休憩して午後六時まで勉強した。英語と社会も大分復習は終わった。古典は残ったけど。

 まあ、エネルギー補給を二度ほどされたが。


「達也さん、来週は全体を通しての復習と予想問題を二人で考えましょうか?」

「はい、お願いします」

 やっぱり、通年で学年一位だけはある。俺の頭とはレベルが違う様だ。来週は平穏に過ごせると良いんだが。


――――――


 なんとか一週間を切り抜けた達也。勉強会も大変です。


次回をお楽しみに


面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。

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