第64話 早苗の我儘

 

 俺は父さんから話しが有った後、食事をして風呂に入った。そして今自分の部屋にいる。


 しかし、どうしたものか。明日は早苗と会う事になっている。土曜日学校が終わったらそのまま早苗の家だ。その時早苗の家族はいない。彼女の目的ははっきりしている。


 だが、それを簡単に受け入れる訳にはいかない。俺の家と早苗の家は俺が生まれた時からの付き合い。お互いの両親も良く知っていて仲もいい。


 この前も母さんと瞳からそそのかされた。万一早苗と関係を持てば、彼女はそれを理由に両親を味方につけ、将来を決めようとしてくるだろう。



 玲子さんとはほとんどしたも同然。今度会う時は多分決めに来るだろう。彼女の父と俺の父さんは仕事上でもプライベイトでも仲がいい。


 父さんは表面上、俺が決めれば良いと言っているが、今の状況では、簡単に会う前の関係には戻せない。彼女への責任も発生している。



 加奈子さん。この人が一番面倒だ。軽く聞いたところでは、立石家と三頭家は曽祖父以前から深い関係を持っていたらしい。ただ今ではあまり関係無い様に見せかけているということだ。


 加奈子さんは私に気持ちが向いていないなら彼女が高校生活が終わるまでの関係で良いと言っていたけど、俺達の関係は両親の知る事となってしまった。

 それだけに一番関係が深い加奈子さんとは簡単にさよなら出来ない。


 全くどうしたものやら。いずれはっきりさせるにも全員が納得いくものでないといけない。


 取敢えず明日の早苗との事だ。どうすれば回避できるか。もう重要な用事が出来たでは済まないだろう。






 昨日遅くまで考えていた所為か少し寝不足気味だ。早苗が門の所でまっているだろうことを考えると少し早めに玄関を出た。

あっ、丁度彼女も玄関を出た所だ。気の所為か少し顔色が悪い。


「達也、おはよう」

「おはよう早苗。少し顔色が悪く見えるが大丈夫か?」

「う、うん。なんでもない。さっ行こうか」

「…………」


 駅まで行く道でもいつもの様な元気さが無い。どうしたんだ。駅で電車に乗り、二つ隣の駅から涼子が乗って来た。もう涼子は早苗の隣に立っている。


 涼子が早苗に声を掛けたが、無理して元気そうにしているみたいだ。やがて学校のある駅に着くといつもの様に先に降りて行った。


 改札を出ると

「達也さんおはようございます」

「おはよう玲子さん」


 俺達はいつもの様に学校へ。周りの生徒は俺達の関係は風景の一つになったらしい。ほとんどもう見て来る人もいなくなった。


「達也さん、もうすぐ学期末考査ですね。また一緒にお勉強しましょうね」

 もう断る事にも疲れた。


「そうですね。曜日決めてやりますか」

「はい♡」

 玲子さんも曜日別勉強パターンに慣れたらしい。良かった。





あっという間に授業が終わり、今日は早苗と一緒に下校だ。玲子さんは不満顔だったが仕方ない。



「達也、今日はこのまま私の家だよ。そうだ昼食作ってあげる」

「おっ、そうか助かる」

 早苗の手料理は過去食べている。中学までだけど。あれよりは更に腕は上がっているだろう。


 早苗の家と言っても俺の家の隣だけど、玄関を開けると

「達也上がって」

「お邪魔しまーす」

 家族が居なくても言ってしまう。


「ダイニングに来て」

 早苗の家はキッチンとダイニングがオープンになっている。早苗が制服の上着を脱いでエプロンを掛けると結構可愛い。


「どう、達也似合うでしょ」

「ああ、とっても可愛いぞ」

「えへへ、ありがとう」


 早苗はオムライスと簡単なサラダとスープを作ってくれた。

「どう、お味は?」

「ああ、中学の頃より格段に腕が上がったな」

「そうでしょ、そうでしょ。私と一緒になったら毎日食べれるよ」

「はは、そうだな」

「本気でそう思っている?」

「本気だけど」

 意味が違うかな?


 昼食が終わり早苗が食器を洗い終わると

「達也、私の部屋に行こう」

「あ、ああ」

 何も作戦が立てれなかった。



 部屋に入ると俺の両手を早苗が両手で握って

「達也分かっているよね。私はいっぱい、いっぱい勇気出しているんだから」

「…………」



 早苗が抱き着いて来た。

「でも達也、ごめん。本当にごめん。気持ちはいっぱいしたいんだけど。でも、でも何もしなのはしたくない。だから…」

「早苗言っている意味が分からない」


「その、昨日いきなり月のものが来てしまって。それでね…。最後まで出来ない。でも何もしないのは悔しい。だから、達也には悪いけど…。出来る所まででいいから」

「出来る所までって」

「達也はもう知っているんでしょ。どうすればいいか。だから出来る所までして」


 俺の顔を上目遣いでじっと見てそして目を閉じた。


 ベッドに横になって唇を合わせた。長い長い間合わせていた。


 そして早苗が望む様な所までしてあげた。初めて聞いた早苗の可愛い声が耳にくすぐったかった。


 今早苗は俺の右腕を枕にしている。俺はトランクス、早苗はあれ用のショーツなんだろう、それを履いている。それ以外は身に着けていない。


「ふふっ、達也ありがとう。初めて。やっぱり達也が初めてで良かった。最後までできなかったけど嬉しい。月のものが終わったら、ふふっ、思い切り出来るね。それに安心だよた・つ・や♡」

「早苗、十八まで待っていてもいいだぞ」

「それはもう言ってある。だから来週の土曜日もう一度会って。ねっ」

「…分かった」

 しかし、早苗との距離が縮まれば縮まる程、他の二人との関係が賑やかになるのは気の所為か。因果関係の方程式でもあるのかな。



「達也、もうもう一度して」



 ふふっ、達也気持ちいい。



 午後六時前に俺は早苗の家を出た。隣同士の特権だ。


 三十秒も掛からない自分の家の玄関を開け、


「ただいま」


タタタッ。


「お帰りお兄ちゃ……」

「どうした瞳?」


タタタッ。


「お母さーん。お兄ちゃんが早苗お姉ちゃんの匂い体いっぱい付けて帰って来たー!」

「え、ええーっ!」


 俺は急いで風呂に入り匂いを消してダイニングに行ったが、母さんと瞳が目を富士山の様にして微笑んでいる。そして


「達也、もう決めたのね早苗ちゃんに。お母さん嬉しいわ。直ぐにお父さんにお話して事を進めましょう」

「事って?」

「何言っているの。婚約の議よ。こういう事は早く決めた方が勝ち」

「そうだそうだ」

 瞳も嬉しそうに同意している。


「ちょっ、ちょっと待って」

「あら、何を待つ必要があるの?」


 俺はそれから母さんの説得に一時間程掛かり、やっと夕食を取る事が出来た。


――――――


 達也と早苗さん、運が良かったのか悪かったのか?


次回をお楽しみに


面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。

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