第63話 三頭家と立石家

 

 翌水曜日の放課後、俺は図書室担当として受付に座っていた。加奈子さんは図書室で本を読んで居る。あの人受験勉強大丈夫だろうか?


 やがて予鈴もなり図書室を閉めて二人で学校を出ると

「達也、ちょっと駅前の喫茶店で良いかな」

「良いですよ」


 俺達は駅の近くにある老夫婦が経営している昔風の喫茶店に入った。同じ学校の生徒や若い人は〇ックに流れるから静かな店内だ。


 加奈子さんはホットカフェオレを俺はブレンドを頼むと

「達也、昨日の朝の件だけど、私の所為で本当にごめんなさい」

「いえ、でも玲子さんにも迷惑を掛けました」


「昨日は急いで家に帰った後、お父様とお話をして津島の件は今週中に始末すると言う事でお願いしたの。ただ立花さんのお父様が娘を愚弄するとは許さないと結構なお怒りで」

「始末するって?それになんで玲子さんのお父さんが出て来るんですか?」

「私が事の次第をお父様に話した後、直ぐに立花さんのお父様から連絡が有って。それであなたの件も含めて相当にお怒りで」


 俺は正月の挨拶の時と玲子さんが海に落ちる所を助けたお礼に来た時の玲子さんのお父さんの顔を思い出した。怒ったら怖そうだな。



「でっ、始末とは?」

「津島家は北九州の名家だけど落ちぶれている。あの男はその津島の長男。私と結婚する事で自分の家を再興しようと考えたのよ。だからあそこまでしつこくして来た」

「…………」

 なるほど、自分の将来と家の将来が掛かっていたのか。だからそこまで。


「始末の結果は今週中にも分かると思う」

「…そういう事ですか。あいつの口から出た言葉は全て嘘の様ですね」

「分かってくれて嬉しいわ。今度の日曜会えないかな?」

「会うのは良いのですけど、加奈子さん受験は?」

「私は推薦で行くつもり」

「あの大学にですか?」

 やっぱり俺とは頭の作り方が違うらしい。


「そうよ。達也にも出来るわ」

「いやいや、俺は楽しそうな私学で十分です」

「そんなことないでしょう。立石産業の跡取りとして、三頭家の次々期総帥となる人よ。あの程度の大学大した事ないわ」

「自分の家の事は分かりますが、それ以外は何を言っているのか分かりません」

「ふふっ、今はいいわ。それより今度の日曜日午後から…。いいでしょ達也」

「分かりました」



「嬉しいわ。ねえ達也。我儘言って良いかな?」

「何ですか。実現できる範囲なら良いですよ」


「じゃあ、帰りましょ。私を家まで送って行って」

「へっ?」

 送って行くって。送ること自体は問題ないが……。



 俺は結局家に帰る方向とは逆、遊園地のある方向の電車に乗った。加奈子さんと一緒に。彼女の家の最寄り駅がそこだからだ。

 学校のある駅からは四駅なので遠くはない。だがそこから俺の家がある最寄り駅まで九駅。帰りはちょっと遠くなる。


 加奈子さんの家のある駅までは直ぐに着いた。

「家まで送って」

「はい」


 もうここまで来ると彼女は手を握って来る。俺との関係を考えれば当然の事だろう。


 家に着くと、

「達也、まだ家族が帰ってくるまで一時間ある。駄目かな?」

「駄目です。今度の日曜日も会いますよね」

 会う目的は暗にそうですよねと確認すると


「それはそれでしょ。ちょっとでいいから。達也の腕の中にいると安心するの。お願い」

 なんか加奈子さん見かけよりとてもビッチ様になった様な。でも仕方ないか。


「少しだけですよ」

「うん、少しね」



 ふふっ、達也嬉しい。



「加奈子さん、もう家族の方が帰ってくる時間ですよ」

「良いじゃない。そんな事」

「いやいや、とても良くない事です」

「何が良くないの?」

「そんな事言うと日曜日会いませんよ」

「達也のケチ。いいわ。支度しましょ」

 どこがケチなんだ?


 時間はもう午後七時近い、急いで制服を着直して加奈子さんの家を出た。横には普段着の加奈子さんがいる。


「ふふっ、危なかったわ。もうお母様が返って来るところだったわ」

「まったく」

「でも達也も嬉しいでしょ。私としたの?」

「えっ、まあ」

「ふふつ、恥ずかしがり屋ね。じゃあ、日曜日は私の家の最寄り駅で待ち合わせしましょうか。立花さんにも桐谷さんにも気付かれないようにね」




 達也と別れて家に帰るとお母様は帰っていた。


「ただいま」

キッチンに顔を出してお母様に挨拶すると

「加奈子さん、私服ですね。朝学校には行きましたよね。如何したんですか?」

「はい、一度家に帰ってから着替えてお友達と会っていました」

「そうですか。鏡をよく見る様に」

「えっ?」


 私は急いで自分の部屋のドレッサーに行くと

あっ、私とした事が。急いでいてリップを付け直すのを忘れていた。いけない。

 後で追及されそう。返事を考えておかないと。





 木曜日は、何事もなく過ごせた。最近では非常に珍しい。但し最近一緒に下校していないという事で俺の図書担当が終わるまで玲子さんが図書室に居たという事位だ。




 そして金曜日、家に帰ると珍しく父さんが家にいた。自分の部屋で着替えていると


コンコン。


「はい」


ガチャ。


「達也、着替えたらお父さんが書斎に来るようにと」

「分かりました」



 俺は着替えると父さんの書斎に行った。

「父さん入っていいですか」

「入りなさい」


 俺は父さんの机の前にあるソファに座ると


「達也、今週は色々有った様だな」

「…………」



「別に悪い事をした訳ではないのだ。黙っている必要はない。今日お前を呼んだのはちょっと話がしたくてな」

「俺と話?」


「ああ、達也お前、三頭加奈子さんと深い仲だそうじゃないか」

「えっ、何でそれを?」



「ふふっ、三頭家と我が立石家は少なからぬ因縁のある家同士でな。まあそれは後で話そう。

 お前津島という男から立花玲子さんと一緒に学校の正門の前で暴言を吐かれたそうじゃないか。

 それを知った立花社長が可愛い娘の玲子と命の恩人である達也に暴言を吐くなど断じて許せないと言って相当怒ったらしい。

 その暴言を吐いた津島という男は、三頭加奈子さんに着きまとっていたらしいじゃないか。

 加奈子さんは、それを父である三頭源次郎さんに話したらしくて。丁度同じタイミングで立花社長からも三頭さんに話が有ったらしい。

 それで私に三頭源次郎さんから連絡が有った。娘の加奈子がお前と立花玲子さんに迷惑をかけた申し訳ないと言って来た。相手の津島家については相応の始末をすると。

 その始末として北九州の今は没落した津島家を経済界から排除するという事だ。没落したとは言え、津島家は江戸時代からの名家、それなりの繋がりも経済界に有った。だが、あまり良い噂は聞いていない。

 そこをついて、経済界から一掃するそうだ。だからこれで許してくれと言って来た。もちろんあの男が二度とお前達の前には現れない様にもするとな」


 俺は津島については加奈子さんに言い寄るしつこいストーカー位に思っていたが…。

 加奈子さんが今週中には決着をつけるとはこの事か。それにしても涼子の登校前の始末といい、三頭家とはどういう家なんだ。


 そう言えば加奈子さんが言っていたな。日本政府レベルでは三頭家には逆らえないと。

 俺はとんでもない家の女の子に気に入られたらしい。


 しかし、加奈子さんの事、玲子さんの事、早苗の事、そして涼子の事、良く考えないと我が家にも影響が出そうだな。




「ところで達也、今度爺さんも呼んで三頭家と立石家の事を簡単に話しておく。お前も立石産業の次期代表だ。聞いて覚えておけ」

「はい」


――――――


 ややこしくなってきました。


次回をお楽しみに


面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。

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