第62話 平穏…じゃなかった秋の終りに その三


 俺津島孝雄。今長尾高校の正門であの男を待っている。昨日は邪魔されたが、はっきり言っておけばいいだろう。立石産業の跡取りとか言っていたが、加奈子さんのブラフだろう。この学校にそんな奴がいるはずもない。

 おっ、来た。何だ女の子を連れているじゃないか。やっぱり加奈子さん、昨日の事は嘘だったんだ。


「おい、お前」

「…………」

「達也さん、お知合いですか?」


「立石とか言っていたな。どうせその名前も嘘だろう。はっきり言っておく。俺と加奈子さんは深い仲だ。お前の様な男が割込む隙間は無い。分をわきまえるんだな。仕事とは言え、これ以上彼女に近付くと首にするぞ」

「…………」

 なんだこの男。それに加奈子さんと深い仲とは?



「どちら様か知りませんがそれ以上の暴言は許しませんよ。達也さん、行きましょう」

「何処の馬鹿女だ。お前もこの男の仲間か?」


「いい加減にしろ!」

「ひっ!」

「これ以上、口を開くとそのまま裂いてやるぞ!」

「ひーっ!」

 男が逃げて行った。朝からいい加減にして欲しい。


「玲子さん、行きましょうか」

「はい」


「玲子さん、後で説明します」

「分かりました」


 加奈子とは三頭さんの名前、彼女と関係のある人のようだけど、品位が無さすぎるわね。あんな男を三頭さんが相手にしているとは思えないし。

 でも達也さんには三頭さんの評価が落ちるきっかけにもなる。少し様子を見ましょう。



 俺は下駄箱まで行くと校舎に入る前に

「玲子さん、すみませんが教室には先に行って貰えますか。ちょっと用事があるので」

「分かりました」

 多分先程の事。三頭さんに連絡するのかしら。


 俺は、本来はしてはいけないが、緊急と考えたので、加奈子さんにメッセージチャットで

『急ぎの話が有ります。昼休み花壇のベンチに来て下さい』


 返事は直ぐに帰って来た。

『分かった』



 達也から学校に来てからの連絡なんて。とにかく昼休み行くしかないわね。



 俺立石達也、加奈子さんへの連絡の後、教室に入って、健司に昼休み用事が出来たと話した。その後

「達也、何で昨日の夜連絡くれなかったの?」

 あっ、加奈子さんの事で頭がいっぱいだった。不味い。


「悪かった。ちょっと体調が悪くて。今日の一緒に帰ろう」

「…昼休みは?」

「ちょっと。悪い」

「…分かったわ。放課後は必ずよ」

「…………」



午前中の授業は憂鬱だった。早苗に連絡を忘れるとは。そんなに俺は加奈子さんの事…。しかし朝の件、あの津島という男が下手すれば玲子さんにも何するか分からない。早く手を打っておく必要がある。




「達也さん、お昼にしましょうか」

「あっ」

「何をそんなに考えているんですか。朝の事?」

「すみません」

「達也さんが謝る事は無いです。お昼休み三頭さんとお会いするのでしょう。早く食べましょう」

 な、なんで分かるんだ。お願いだ俺の外部表示機能壊れてくれ。


「ふふっ、達也さんの事は良く分かりますよ」

「…………」



 俺は玲子さんが作ってくれたお弁当を急いで食べると

「玲子さん、美味しかったです。今日は済みません。ちょっと行きます」

「はい」




 俺は急いで花壇のあるベンチに行くと既に加奈子さんは来ていた。

「達也、話って?」

「実は……」

 俺は朝、津島が校門で待っていた事、俺への暴言ばかりでなく玲子さんへの暴言も酷かった事。このままあの男を放っておくと取り返しのつかない事になる恐れがある事を話した。


「まさか、あの男がそこまでするとは。達也今回の件直ぐに決着付けるから、もうあの男が私達の前に現れない様にするから。

 それと達也…。私を知っているのはあなただけ。あの男の言っている事は全て嘘よ。信じて。お願い」

「…すみません。判断材料が無いんです。三頭さんを信じます。でも…」

「達也、お願い。私にはあなただけ。あの男とは仕方なしに話しただけ。学校まで押しかけると言われて仕方なしに会っただけ」

 確かに昨日の今日であの男は学校まで押しかけて来た。加奈子さんの言っている事は本当だろう。しかし、もやもやする。俺はなんでこんな気持ちになるんだ。あの男が嘘をついているのは俺にも分かる。俺は加奈子さんが…。


「達也、今週中に決着付けるから。明日会えない?」

「明日は俺の図書室担当です」

「その後でもいい。少しでもいい。達也に会いたい」

「分かりました」


 予鈴が鳴った。

「じゃあ、達也私行くから。明日ね」

「はい」

 俺は加奈子さんの教室に戻る後姿を見ながら、この気持ちはあの男の言葉に頭に来ているだけなのか、それとも…。





 放課後

「達也一緒に帰ろう」

「ああ」

 玲子さんがこっちを見ている。仕方なく彼女の側に行って

「済みません。今日は早苗と帰ります」

「分かりました」

 寂しそうな顔で返事された。



俺達は校門を出ると…と言っても後ろから玲子さんが付いてくる。下手な話は出来ない。

「達也。家に帰ったら話そうか」

「悪いな」


 悔しいです。桐谷さんは達也さんと一緒に並んで歩いている。その上家に帰ったら話そうなどと言っている。幼馴染の特権。私も婚約さえできれば同棲する事も可能なのに。

 もうすぐです。必ず私は達也さんの隣に。



 ふふっ、立花さんと別れたわ。あの人が居ては達也と話が出来ない。駅に着いて達也と一緒に同じホームに行く、そしてこうして同じ電車乗る。達也に一番近いのは私よ。


 俺達は家に着くと早苗は制服のまま俺の部屋に入った。ローテーブルの前で女の子座りしている。


「達也教えて。一昨日の日曜日、立花さんとどうしていたの?」

「遊園地に行った」

「それだけ?」

「ああ」

「遊園地の後は?」

「駅まで送って別れて帰った」

 本当の事を言う訳にはいかない。


 達也は嘘をついている。私には分かる。同じ日に生まれてずっと一緒に育った。ずっと達也の顔を見て来た。今の言葉には芯がない。自分の気持ちから出ていない。



 早苗がじっと俺の顔を見ている。あっ、俺の所に来て、えっ、俺の足の上に乗ってしまったよ。

「お、おい早苗」

「達也、本当の事教えて!」

 こいつに嘘はつけないか。


「玲子さんが、昼食時にケチャップを洋服にべっとりこぼして、それで隣接するホテルで彼女が着替えた」

「達也も一緒だったんだよね」

「あ、ああ」

 彼女がそんなチャンス逃がすはずがない。


「達也、正直に答えて。お願いだから。したの?」

「…………」



「黙っているって事はしたのね。言ったよね私。これ以上進展するなら私を一番にしてって。なんで守ってくれないの。なんで私にしてくれないの。いつだって達也を待っているのに」

「早苗…」


「達也、いまからしよ」

「えっ?」

 早苗が制服を脱ぎ始めた。ま、不味い。


「早苗、待て。ちょっと待て。十八まで待てと言ったよな」

「達也が約束破っているんじゃない。十八まで待っている間に達也は他の人の所に行ってしまう。そんなのやだ!」

「早苗…」

 不味い。ブラに手を掛けて…あっ。


「達也、抱いて」

 俺に上半身裸で抱き着いて来たよ。仕方なく、俺は早苗の背中に手を回しながら


「分かった、早苗。お前の気持ちは分かったから。でも家には母さんも瞳もいる。だから今度にしよう」

「いつ?今度っていつ?」

「…今週の土曜日」

「じゃあ、私の部屋ね。その時は家族いないから。絶対だよ」

「分かった」

 

 達也がじっと私の胸を見ている。

「どうしたの?」

「綺麗だなと思って」

「ばかー。だったら今抱いてよ」

「ごめん」

 思い切り抱きしめた。少しの間そうしていると


「達也、私帰るね。約束絶対だよ」

「分かった。送るよ」

「うん」

 隣だけど一応玄関まで送って行った。

「達也ちょっと」

「うん?」

 チュッ。チュッー。


「ふふっ、じゃあね」


 やられた。


 俺は家に戻り玄関を開けると瞳が少し怒った顔して腕組して待っていた。そして

「お兄ちゃん……」

「なんだ瞳」

「なんでもなーい」

タタタッ。


奥に行ってしまった。なんなんだ?


――――――

 

 達也波乱だらけです。


次回をお楽しみに


面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。



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