第61話 平穏…じゃなかった秋の終りに その二
俺は、昼休みに健司と話す予定だったが、涼香ちゃんの件でそれがお流れになった。
仕方なく涼香ちゃんと校舎まで一緒に行き、下駄箱で別れて俺は教室に戻ると早苗に廊下で
「今日、放課後の話、ちょっと急用が出来た。家に帰ってから連絡するけどそれで良いか?」
「急用って何?」
「…急用だ」
「だから何?」
「…早苗、家に帰ったら必ず連絡入れるからそれから話そう」
「達也は、私の約束より後に入った約束を優先するのね」
完全にご立腹だ。
「早苗、頼むから」
達也がここまで言うからには仕方ない。これ以上言うと達也は怒るから。
「分かったわ。でも貸一つ追加よ。これで貸し二つ。期限無しだからね」
また言われたよ。
予鈴が鳴って席に戻ると玲子さんが俺の事じっと見ている。そう言えば彼女からも話が有るって言われてた。まあ明日にすればいいか。
俺は五限目が終わった中休みにその事を言うと頬をプッと膨らませて
「明日の昼食後は必ずですよ、達也さん」
「分かりました」
授業も終わり放課後、図書室に行くと珍しく桃坂先生が来ていた。涼香ちゃんも参加しての図書室担当委員会だ。一応三人になったので意思の疎通の為、全員で月曜日だけは全員で集まる事にしている。
ここでは加奈子さんが二学期末まで担当を継続する事と、曜日毎の割り当てを改めて共有した他、入荷予定の新刊の扱い、来期に向けた予算の概略などが話された。
それが終わると図書室の外に待たせていた生徒達を入室させいつもの作業が始まる。桃坂先生と涼香ちゃんは打合せが終わると退室したので、加奈子さんが、
「達也…」
「…………」
無言の抵抗。
「分かったわ立石君、今日図書室閉めたら一緒に来て」
「分かりました。図書室で待っています」
やがて下校時間になり予鈴が鳴ると生徒達は退室したので、加奈子さんは図書室の閉室処理を行った後鍵を職員室に返して下駄箱に来た。
出口で待っていると
「達也行こうか」
「えっ、校内じゃないんですか」
「ええ今日は外よ」
何も言わずに電車に乗り、隣駅デパートの有る駅で降りた。
流石に分からないので
「加奈子さん、どういう事ですか」
「今に分かるわ」
俺は津島孝雄。今日で加奈子さんと会うのは三回目。今日こそ何とか彼女を自分の物にする。そうすれば津島が再度世に出る事が出来る。所詮高校生、気位は高いが抱いてしまえばどうにでもなる。
もうすぐ、待ち合わせの時間。楽しみだ。おっ、改札から出て来た。いつ見ても綺麗な女の子だ。ふふっ、あの子が俺の腕の中でどんな声を出すのか楽しみだ。
側に強面の男が一緒に居るがセキュリティでも雇ったのか。まあどうでもいい。
「加奈子さん」
俺立石達也。加奈子さんに来やすく名前を呼ぶ男を見た。高校生では無い。かと言って社会人ではなさそうだ。だとすると大学生か。ちょっとイケメンっぽい程度か。身なりはそれなりだ。
「時間丁度ですね。今日はフレンチのレストランを予約しています。楽しみにしていて下さい」
「津島さん。お断りします」
「今何と?」
「今日は食事をするのをお断りしますと言いました」
「何を言っています。私と食事する以上に大切な事等あなたにないでしょう」
全くこの男は、馬鹿に二重丸を付けたいぐらいだ。
「何か勘違いしている様ですね。私はあなたに興味はありません。今後一切声を掛けないで下さい。達也帰りましょう」
「…………」
全然会話が見えない。この男はいったい誰だ。今の会話は何だ?
「加奈子さん、その男は誰ですか?」
「私の彼よ」
「えっ!」
「加奈子さん、サプライズですか。セキュリティを彼に仕立てて俺に焼餅を焼かせようと。高校生の女の子らしいジョークですね。君もう帰りなさい。君の仕事はここまでだ」
「…………」
全く何を話しているんだ。この二人は。でも加奈子さん俺以外に付き合っている人がいたんだ。この人も結局そんな人か。そろそろ帰るか。
「加奈子さん、約束があるようですね。俺帰ります」
「ちょっ、ちょっと待って達也。この人が勝手に言っているだけよ」
「はははっ、加奈子さんもう冗談はこの位にしてレストランに行きましょう」
「何を言っているんですか。私は行きません。今日来たのは、これ以上あなたが付きまとうのを止めて貰う為です」
「冗談でしょう。私とあなたの間ですよ。何をいまさら」
随分親しい様だな。加奈子いや三頭さんは俺と遊んだだけか。
「冗談ではないわ。達也は私の彼。付き合っているの。深くね」
「な、何を言っているんです。付き合っている男はいないと言ったじゃないですか。それに今日は俺と…」
そういう事か。
「そんな事一言も言った覚え無いわ」
「…加奈子さん、もう冗談は止めましょう。そんな男より俺のが…」
何だこの男。俺を見てそんな男とは。もう少し言い方ないのか。
「津島さん、いい加減にして下さい。あなたより達也のがよっぽど私に似合っているわ」
俺は会話が付いていけなかった。そもそも加奈子さんは俺以外に普段会っている人が居たのか。
この男の言い回しだと結構加奈子さんと会っている様な気がする。
「加奈子さん、この人は?」
こいつの言い回しが気に入らなかったので敢えて彼女を名前呼びした。
「おいお前。セキュリティの分際で雇い主に名前呼びするつもりか。いい加減に帰れ。首にするぞ」
「いい加減して下さい。図々しいにもほどがあります。彼は立石産業の跡取りです。これ以上失礼な事を言うとお父様から厳しく言って貰いますよ」
「えっ、立石産業の跡取り。な、なんで。俺と結婚の約束したのでは…」
「馬鹿な事言わないで下さい。今日彼を連れて来たのはしつこいあなたにはっきりと断りを入れる為です」
「しかし、君のお父さんが」
「私は断ったはずです。それ強引に会いに来たのはあなたでしょう。これ以上付きまとうとお父様から言って貰います」
「……加奈子さん」
そう言うとそのまま去って行った。
加奈子さんが俺の顔を見て
「ごめん、達也見苦しい所を見せて。ちょっと喫茶店でも入ろうか。理由説明するわ」
「…………」
俺達はデパート内にある少し高めの紅茶のお店に入った。席に案内されて注文が終わると
「ごめんね達也。つまらない事に付き合わせて。でもこうでもしないとあいつが諦めてくれないから」
「加奈子さん、話が全くついていけないんですけど」
「そうね、今から二週間前に私に見合いの話が有ったのよ。もちろん達也が居たから断ったけど、相手さっきの津島という男が私の写真を見ていてね、自分で説得するから会わせてくれと向こうの親を通じて私のお父様に言って来たの。
我が家からすればどうでもいいレベルの家で一応仲介の顔を立てただけらしいんだけど。
お父様も何を考えているのか、一度位会って見ろと言うので仕方なしに会ったら、自分の自慢話ばかり。
いい加減にしてと言ってもう会いませんと言ったんだけど、学校まで会いに行くとか言い始めたので、今日達也に一緒に来て貰ったの。あいつとはもう会わないわ。安心して」
安心してってどういう意味だ?
「事情は分かりました」
「達也に変な疑い掛けて欲しくないから何でも聞いて」
「別に何も無いです。加奈子さんがそうだと言うならそれしかないですから」
この言葉では達也が疑いが残って無視されているのか、本当に疑っていないのか分からない。
「達也信じて。私はあなた以外見ていない。あんな男なんて」
「でも名前呼びしていましたよね。それに何度も会っていたようですね」
「あいつが勝手に言っていただけよ」
「…………」
不味いわ。達也を会わせて諦めさせようとして逆効果になってしまった。
「達也送って」
「分かりました」
達也に家の前まで送って貰った。別れ際に唇を合わせたけど冷たく感じた。不味い何とかしないと。
――――――
ふーん。三頭さん色々あるようで。
次回をお楽しみに
面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。
感想や、誤字脱字のご指摘待っています。
宜しくお願いします。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます