第60話 平穏…じゃなかった秋の終りに


 俺立石達也。玲子さんのケチャップ騒動でしっかりと彼女の策にはまり、遊園地にある近隣のホテルの一室で彼女としてしまった。半分いや五分の三だけだけど。


 なぜ五分の三かと言うと、そう肝心なものが無かった事を理由に俺が拒んだからだ。彼女は妊娠しても良いと言ったが流石にそれは俺が困る。


まだ俺の心は彼女に向いていない。まして責任を取るという気持ちになっていないからだ。

最後まですればそれなりの責任が伴う。家同士の話にも広がる。だから俺自身もとても中途半端だけど、最後までしないで終わらせた。


 但し、彼女は初めてだったことも有り、一通りの事はしてあげたので満足(半分?)はしてくれたようだ。

今度は絶対にという言葉のおまけ付きではあったけど。ちなみに一通りの事というのは加奈子さんとの演習?の賜物だ。


 個人的にはこれでとても良かったと思っている。もしあのまま突き進んでいたらどうなっていたか分からない。


 ホテルから出た後は、べったりと俺にくっ付いて手は恋人繋ぎ。登校時も手を繋ぎたいと言っていたがそれは流石に断った。これ以上俺の高校生活に波乱の種を持ち込みたくない。





 開けて翌月曜日、季節は秋も終わりの十一月の第二週に入った所だ。例によって門の所に早苗がいる。学校の制服はとうに秋冬用に変わっているが、流石に朝夕は少し寒くなって来た。


「おはよう早苗」

「おはよう達也」


 しっかりと手を繋いでくる。早苗なら構わない。駅までは大丈夫だろう。

「えへへっ、達也」

「何だ早苗」

「ううん、何でもない」


 達也は私が手を繋いでも拒否してこない。私が達也に告白した事も有ると思う。前だったら絶対無理だったのに。


こうして手を繋いでいられるは、駅までだけど仕方ない事だ。駅のある学校からは流石に誰も手を繋げない。それは達也が少しでも目立ちたく無いからだ。まあ何もしなくても十分目立つけど。


そして学校のある駅に着くまで電車の中では達也の隣に私が立っている。最近本宮さんが近くに立っている事が気になっている。

達也と彼女の間に新しく何か有ったと思って間違いないけど、それが何なんかは分からない。


そして学校のある駅に着くと私は達也より先に降りて学校に向かう。そう立花さんが改札で待っているからだ。二学期始めの様なトラブルを起こさない為だ。




俺が学校のある駅に着いて改札を出ると

「おはようございます達也さん」

 昨日あんな事をした所為か、玲子さんの顔が輝いて見えるのは気の所為か?

「おはよう玲子さん」


 ふふっ、昨日体を合せて貰った。最後までは準備不足で出来なかったけど、気持ち的にはもう最後までして貰ったのと同じ。だって…ふふふっ、私の全て大切な所も皆見られてしまいました。恥ずかしいです。次はしっかりと。楽しみです。


「玲子さんどうしたんですか?顔が赤いですよ。体調悪いんですか?」

「えっ、いえそんな事ありません」

 いけない、昨日の事を思い出してしまいました。




 学校に着き下駄箱で履き替えてから教室に入る。玲子さんは自分の席へ、俺も自分の席に着くと

「達也おはよ」

「おはよ健司」

「達也ちょっと良いか」

 そう言って右手の指を廊下の方へ向ける。


二人で廊下に出ると

「達也、お前立花さんとしたのか?」

「はっ?なんでそんな事聞くんだ」

「まあ、感だ。彼女の顔がどう見ても一線超えた顔している。というかいつより自信のある顔って感じだ」

 良く分かるな。俺なんか全然分からない。


「…超えた五分の三」

「はぁ、五分の三。何だそれ?」

「昼休み話すから」

「分かった」


 健司と一緒に教室に戻ると今度は早苗が俺の顔をじっと見ている。ちょっと怖い顔。俺が席に着くと俺の所にやって来た。

「達也、話が有る。今日の放課後良いよね」

「図書担当の打合せが終わった後なら」

「分かった」


そう言うとそのまま自分の席に戻って行った。健司が小声で

「なっ、女の子はもっと敏感なんだよ」

「…………」

 不味いな。放課後までに言う事考えないと。



 二限目が終わり三限目の準備をしている所にいきなり加奈子さんが教室に現れた。

「あっ、三頭先輩だ」

「いつ見ても綺麗ねえ」

「用事は立石君かな?」

「まあそうでしょうね」


 入口からそのまま俺の所に来ると

「達也、ちょっと廊下で」

「分かりました」


「ねえ聞いた。三頭先輩立石君の事名前呼びしたわよね」

「うん、聞いた聞いた」

「でも立石君って立花さんと…」

「そうよねえ」


 雑音は気にせずに加奈子さんの後に着いて廊下に出ると

「達也、今日私が図書担当終わったら付き合ってくれない?」

「放課後はちょっと用事があります」

「そう困ったわね。ボディガードして欲しいのよ」

「そういう事ですか。分かりました調整してみます」

「お願い。じゃあね」

 加奈子さんの後姿を見てから俺が教室に入ると早苗と玲子さんが険しい顔つきで俺を見ている。

早苗には話は明日にするよう頼むか。



午前中の授業も終わり昼休みになると玲子さんが、バッグを持って俺の側にやって来て

「達也さん、お昼ご飯にしましょう」

 なんか言葉に棘がある様な。


俺が隣の机をくっ付けると玲子さんはお弁当を広げた。健司は自分の席で食べている。

「今日は私一人で作ったお弁当です。召し上がれ」

「ありがとうございます」


「如何ですか?」

「とっても美味しいです」

「良かったです。達也さんの為に一生懸命作りました」

 いつもの事なのになんでこんなに強調しているんだろう。健司の背中が揺れているのは気の所為か。



 一通り食べ終わると

「達也さん、お話したい事があるのですが」

 今日は皆から話したい事だらけだな。


「済みません。健司と約束しているので」

「立花さん、済みません。健司借ります」

 俺借りられるのか?



 例によって二人で体育館裏に行くと声が聞こえて来た。

「本宮涼香さん、好きです。付き合って下さい」

「お断りします」

「誰か好きな人がいるんですか?」

「はい、だからあなたとは付き合えません」

「誰ですか。そいつは?」

「あなたには関係ありません。もう良いですね」

 涼香ちゃんが立ち去ろうとした時、いきなり男が彼女の腕を掴んで


「いいじゃねえか、名前位教えろよ。ちょっと位可愛い顔しているからって俺が下手に出ればつけあがりやがって」

「は、放してください」

「ふふ、いいじゃねえか。こっち来いよ」


 ありゃ不味いな。相手は三年生だ。

「健司ちょっと良いか」

「ああ、行って来いよ」



「おい、手を離せよ。嫌がっているじゃないか」

「あっ、立石先輩!」

「何だ手前…くそっ、立石か。本宮さん俺諦めないからな」

 そう言って俺達とは反対方向に走って行った。


 いきなり涼香ちゃんが俺に飛びついて来た。

「立石先輩怖かったです」


 上目遣いに

「だから、まだ一緒に帰って下さいってお願いしているのに」

「…………」


 健司が向こうでニヤニヤしている。

「達也、話は今度にするか。俺は教室に戻る」

「おい、健司ちょっと待てよ」

 この状況で俺一人かよ。



「先輩今日から下校一緒に出来ませんか?」

「涼香ちゃんいきなり言われても無理だよ」

「そうですね。でも先輩は私が暴漢に襲われても良いですか?」

「瞳と帰れば大丈夫だ」

「それはそうなんですけど」


 涼香ちゃんにはこの場は何とか納得して貰ったが、今日の放課後、早苗と加奈子さんがブッキングしている。内容からすると加奈子さんを優先すべきだが、どうしたものか。


――――――

 

 達也に一人の時間は訪れません。


次回をお楽しみに


面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。

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