第49話 涼子


「涼香ちゃん、今から君の家に行こう」

「えっ?、はい」


 思い切り胸騒ぎがした。自分で勝手に走りたかったが、涼香ちゃんを置いて行く訳にはいかない。


「涼香ちゃん」

「はい」


「ただいま。お姉ちゃんいる」

「涼子は散歩するって出かけたわよ」

キッチンからお母さんの声が聞こえた。


「先輩」

「行くぞ、川の傍の公園だ」

 俺は直感的にそれを感じた。



今度は、涼香ちゃんを無視した。歩いて十分、俺が走れば五分は掛からない。


 あっ、あいつ川べりに。あっ、ばか!



 ドボーン。


「ばかやろう」


 鞄をその辺に放り投げると、洋服を着たまま飛び込んだ。一度川面に出ると、いない! 落ちた方向はこっちだ。流れもこっち。ここはそんなに深くないはず。

 川底を舐める様に必死に泳ぐと


 いたっ!


 体が力なく流されている。苦しんでいる様子がない。まさか!


 俺は、彼女の体を掴むと思い切り腕を伸ばして涼子の顔を川面にあげた。ぐったりしている。

 彼女の顔が水に浸からない様にして必死に陸地まで泳いだ。強引に引き上げると


 くそっ、仕方ない。思い切り胃の所に手を付けて何回か押すと


「げ、げほっ、げほっ」


 その後、彼女の鼻を掴んで口を開かせて俺の口を付けて思い切り息を吸い込んだ。


「がはっ、がはっ」


 軽く頬を打って


「気が付いたか、目を開けろ涼子」

 朦朧としている。まさか。


「涼香ちゃん直ぐに救急車呼んで」

「はい」




五分程で救急車が来た。直ぐに応急処置と人工呼吸のマスクをして貰った。

「胃の中に薬物が有ります。脈も少ない。急いで胃の洗浄をしないと。直ぐに病院に行きます。君達も乗って」

「「はい」」


「あっ、俺の鞄」

「先輩、ここに持ってます」

「…………」





 それからが更に大変だった。病院は服毒の上、飛び込み自殺を図ったとして警察を呼んだ。

 俺は助けた時の事情やなぜそこに居たのか等、三時間に渡って聞かれた。俺はタオル巻で、酷い。

 当然涼子の両親も駆けつけた。俺を見て驚いたが、救ったのが俺だと分かると病院なのに土下座してお礼を言って来た。

 瞳に着替えを持って来てもらって着替えたけど、参った。こういう時は日頃の鍛錬の賜物だ。


 明日再度警察署に来て欲しいと言われた後、帰る事が出来た。





 家に帰った俺は、父さんと母さんから褒められたのか叱られたのか分からない言葉を一杯言われたが、とにかく風呂とご飯を優先して貰った。



 シャワーを浴びながら、

明日が大変だ。上手く事を運ばないと。後、学校に対してどうするかだ。こんな騒ぎになったら流石に涼子も学校には行けない。

 どうすればいい。


 そう言えば、スマホを見ると立花さんから十通近い着信が有った。彼女にはきちんと話さないと。





 翌朝、俺は学校に体調不良と言う事で休みを入れた。本当の事はいずれバレるが今はこのままにした方がいい。

 瞳には他言無用を頼んだ。当たり前ですと言われたけど。


 最初に涼子のいる病院に行った。面会謝絶になっていないが、ICUに入っている。近親者しか会えない。


 受付でどうにか会えないか話していると涼子の両親が俺を見つけた。

「立石さん」

「あっ、涼子のお母さん、昨日は騒がして済みませんでした」

「何を言っているんですか。立石さんは涼子の命の恩人です。今日は?」

「涼子に会いに」

「そうですか」

 病院の人に俺が助けた人間で近親者だと言うと病室に行くことが出来た。



 病室に行くと涼子が腕に点滴をやりながら眠っていた。指先にはバイオメーターが取り付けられ、胸や足には心電図のパッチが付いている。


「立石さん、改めてお礼を申しあげます。言葉では尽くせませんが涼子を救って頂き本当にありがとうございました。いずれ落着きましたらお礼に伺います」

 今日は流石に土下座はしないが、腰を九十度以上曲げてお辞儀している。


「頭上げて下さい。お願いしますから。それにお礼なんか要らないですから」

「ありがとうございます、ありがとうございます」


 涼子が薄目を開けた。


「あっ、た、た・つ・や。なんで」

「気付いたのね。涼子。お前を助けてくれたんだよ。立石さんが」

「えっ、本当なの?」

「本当だ」

「…………」



「でもどうやって。誰にも教えていなかったのに」

「話せば長いから。涼香ちゃんが涼子の事を俺に話して、後は勘だ」

「達也、ありがとう」

 拭く事も出来ない涙が大きな目から思い切り流れ出ている。


「涼子、大丈夫そうだな。俺行くから」

「達也、明日も来てくれる?」

「…放課後で良ければ」

「うん」





 俺は病院を後にしながら、

何なんだ。いったい何がどうなっているんだ。どうして俺が涼子を助ける羽目になったんだ。なんで明日も来ると言ってしまったんだ。畜生、分からねえよー。




 この後警察に行った。助けた時の状況をもう一度話して終わったが、後で人命救助で表彰状が出ると言っていた。俺要らないんだけど。




 もう昼もとうに過ぎていた。腹が減ったので家に帰ろうとしてスマホを見ると、

うげっ、立花さんから五通、早苗からも五通、三頭さんからも五通の連絡が入っていた。

 不味い。こっちのがよっぽど不味い。どう切り抜けるか。誰か教えてくれー。


 

 警察から家に帰る途中、○○屋で大盛りの〇丼を頼んでゆっくりと食べた。家に帰りながらさてどうするか。連絡する順番も間違える訳にはいかない。


 後で必ず聞かれるだろうな。今後の涼子との事。どうすればいいんだ。


 家に帰り、自分の部屋に入って椅子に座ると


「うーん、参った。イレギュラー過ぎる。

 立花さん、三頭さん、早苗の順か?いや三頭さん、立花さん、早苗の順?いや早苗、三頭さん、立花さん?同時配信って手もあるが。これは悪手だな。

でもまだ授業中か。まだいいか」


ピコーン!


 誰だ?健司だ。


『どうした健司』

『達也か、体調悪いという理由で休んだお前がこのスピードで応答するとはな。でっ、何が有ったんだ。こっちは今中休みだ』

『涼子を助けた』

『はっ?!頭が思考停止したぞ』

 仕方なく掻い摘んで昨日の夜からの事の次第を教えた。


『そういう理由か。面倒だな』

『ああ、連絡も誰からすればいいか、迷っている』

『一番教えても良い、この人は大丈夫だって人を一番にして教える言葉の練習して、一番面倒だって人を三番にしたらどうだ。そういう意味で達也が一番最初に頭に浮かんだ人で良いんじゃな。あっ、予鈴が鳴った。明日来るんだろう。その時にまたな』

『ああ、ありがとう』



 うーん、肝心なところで切れた。話して一番サラって流してくれる人。やっぱり早苗か。後の二人は、まあどっちでも同じだろう。



考えている内に電話が掛かって来た。


――――――


 達也の女神様はどっちを見ているんでしょう?


次回をお楽しみに


面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。

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