第50話 涼子の登校


 最初に連絡が有ったのは早苗だった。

『達也、今どこ?』

『家だ』

『すぐ行く』

『お、おい』

 切りやがった。


 ピンポーン。


 はえー。直ぐ来やがった。


ガチャ。


「達也、いったい今までどこに行っていたの?思い切り心配したんだから。瞳ちゃんに聞いてもおばさんに聞いても教えてくれないし。ねえなんで?」

「早苗とにかく入れ」

「うん」



 俺は早苗を自分の部屋に連れて行くと

「実はな…」

 昨日の放課後涼香ちゃんを送って行く所から話した。学校でいじめられていた内容も。

そして夏休みに自殺未遂までした事、いじめが止まないままに今回の自殺未遂に繋がった事も。

 そして俺が涼子を助けた事も全部話した。


「酷い、少しは聞いていたけどそこまでされているとは。私誰が主犯か聞いてみる」

「止めろ早苗、お前がとばっちり受けるだけだ。後始末は俺がつける」

「なんで達也が付けるのよ?」

「例えどんな理由が有ろうとも底に流れているのは涼子と俺の関係だ。白河の事は確かに有ったが、それを理由に涼子を他人が苛める理由にはならない」


「でも…。達也今回の件、落着いたら本宮さんどうする気なの?」

「涼子とは友達関係に戻る」

「えっ!」

「俺が友達関係に戻れば他の連中も下手に涼子には手を出さないだろう。早苗頼みがある」

「なに?」

「涼子と仲良くしてくれないか。俺でなくお前も涼子と仲良くなれば、余計他の人が涼子を苛める事がなくなるだろう。

 もちろん、立花さんや健司、小松原さん、三頭さんにもお願いする」


「なんで、そこまで。本宮さんがそれを誤解してもう一度付き合ってって言って来たらどうするのよ」

「もちろん断る。俺も友達が限界だ」

「…分かった。同じ事立花さんや三頭さんにも言うの?」

「ああ、仕方ない事だ」

「達也らしいわね。じゃあ、その証拠見せて。本宮さんと戻らないって証拠」

 ジト目で見て来やがった。


 仕方ないので証拠を見せた後、早苗は三十分程して俺の部屋を出て行った。証拠を見せた後、ずっと抱き着かれていたけど。



 その後も立花さん、三頭さんの順で連絡が入って来た。早苗と同じ事を二人にも話した。


 三頭さんと話した時、

「達也、2Bの件だけど、達也が友達に戻っただけじゃ効果ないわ。私に任せて。多分2Bの先生も黙認していたはず。

 あと、2Bの生徒が自主的に本宮さんを全員で苛めるのは無理がある。誰か力のある主犯格がいるはず私に任せて」

「どうやってするんですか?」

「ふふっ、達也、一つ貸しよ。しっかり返してね。今度」

「へっ?」

 なんか、三頭さんが俺の頭の中でライオンに見えた様な。



 次の日、学校にはいつもの様に行って健司にも説明した。

「分かった。後2Bの件、佐紀にも聞いてみる。あいつがそんな事するとは思えない。誰かが糸を引いているはずだ」

「悪いな」

「良いって事。でも達也、俺お前と友達になって良かったぜ」

「そ、そうか」

「そうだよ。ちょっとモテ過ぎだがな」

「…………」



 放課後、図書室を閉めると涼香ちゃんと一緒に涼子の病院に行った。途中

「立石先輩。姉の命を救ってくれて本当にありがとうございました。約束です。私を好きにしていいですよ。先輩の妾にでも側室でも。私それでも嬉しいから」

「はっ?!それって」

「告白です。先輩が好きって。もう心の枷は無くなりましたから」

「え、ええ、ええーっ」

「先輩声大きい」

 周りの人が何だと言う顔をして見ている。


「ごめん」


病室に行くと

「達也、ありがとう」

「どうだ具合は?」

「大分良くなった。後一週間位で退院出来るって。学校はどうしようかと思っている。もうこんなことして皆に合わせる顔が無い」

「涼子心配するな。俺が側にいてやる」

「えっ?」

「勘違いするな。あくまで友達としてまでだ」

「達也」

 大きな目から涙が思い切り溢れ出て来た。


「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい」

「涼子、もう謝るのは止めろ。お前は十分すぎる程心に傷を負った。もう良いんだ」

「達也、ごめんなさい。もしあなたが聞いてくれるなら、私の醜い所まで話すから」

「お姉ちゃん、私ちょっと買い物してくるね」

「ありがとう涼香」




「達也、私の体が醜くてあなたに嫌な思いをさせてごめんなさい。自分の本能の為にあなたに嘘をついてごめんなさい。

 白河に抱かれた時、本当に気持ち良くって、達也の事が頭に有りながら快楽に体を許してしまった。その後も。そして達也に嫌な思いをさせてしまった。

 ごめんなさい。謝って済む問題でも無いけどごめんなさい。

 本当は達也に全部話してもう一度恋人同士に戻りたかった。でも立花さんが現れて、三頭さんが現れて、そして桐谷さんまで。

 もう私があなたに近付く隙は一ミリも無いと分かった。それが分かった時、生きている事が嫌になって、だから最後だけは私の笑顔を達也に見せておきたくって…」

 もう言葉が涙声で聞こえなくなっていた。




 どの位経ったのか、涼香ちゃんは帰ってこない。

「涼子、分かった。十分分かった。俺も悪かった。お前が初めてだったから上手くできなくてごめんな」

「達也、ごめんなさい」

 また涙が溢れ出ている。



 私、本宮涼香、お姉ちゃんの声が少しだけ漏れている。一杯泣いている。私が入って行く時じゃない。フロアで待っていよう。



「達也、汚れた私じゃもう駄目だよね」

「…………」

 さっきは友達までってはっきり言えたのに。涼子の言葉を聞いて思考が停止してしまった。戻れるわけはない。でも今それを言う事を頭が拒否していた。





 涼子が退院して一週間が経った。今日はと言うか今日だけは涼子と一緒に登校する。

「達也、今日は本宮さん登校ね」

「ああ、早苗にも悪いな」

「達也のお人好しの為だよ。貸一つだからね。期限無しだよ」

「…………」

 またか。


 涼子の家のある駅で待っていると涼香ちゃんと一緒に涼子がホームにやって来た。

「行こうか本宮さん」

「えっ、桐谷さん。どうして?」

「まあいいから」




 学校のある駅では立花さんと三頭先輩が待っていた。

「本宮さん、お久しぶりです」

「久しぶりね、本宮さん」

「え、えっ、立花さんや三頭さんまで。なんで」

「なんででもいいわよ。行くわよ学校」


「達也、大分整理出来ている。詳しくは後で話すわ」

「ふふっ、流石三頭家ね。今回は頭が下がります」

「どういたしまして立花さん」


 何なんだ、この会話の組み合わせ。



 俺、早苗、立花さん、三頭さん、それに涼子。俺達五人が一緒に歩いていると同じ学校の制服を着た生徒達が目を丸くしている。ちなみに涼香ちゃんは瞳と先に行った。


「ねえ、あれってどういう事?」

「分からないわよ」

「なあ、立石また何かしたのか?」

「馬鹿お前知らないのかよ。ごにょごにょ」

「うえっ、ほんとかよそれ。俺もうあいつに近寄らない」


 なんか酷い事言われている気がするが。


俺達はまず2Bの教室に行った。涼子が入るのを戸惑っている。


「本宮さん、もう大丈夫?」

「は、はい。でも小松原さんがなんで」

「ふふっ、いいじゃない。これから仲良くしよ。あっ、それと何人か停学になったから面子足らないけど気にしないで」


「本宮さん、ごめんなさい」

「私もごめんなさい」

 他の生徒が涼子に謝っている。



「達也、もう大丈夫ね。行こうか」

「ああ」

 なんなんだ。


 俺達が2Aに入ろうとした時、

「達也、今日は私とお昼一緒よ。いいわよね立花さん」

「はい、でも今日だけですよ。三頭先輩」

「分かっているわよ」

 へっ、何なんだこの関係は?




 昼休みになり三頭さんが迎えに来た。

「達也行こうか」

「あっ、はい」



 俺達は花壇のあるベンチに行った。

「今日は私が作ったの。サンドイッチだけだけど、いっぱい作ったから」

「済みません。ありがとうございます。でもなんでこう…」

 唇で塞がれた。


「ふふっ、ゆっくり教えてあげる」




 三頭さんのお爺さんが県教育委員会に長尾高校でいじめを受け、自殺を図った生徒がいる。それを学校自体が隠蔽している。

 今後このような事が起きない為にも校長含め関係者全員の処分と関わった生徒の内主犯格を退学、協力者を停学にしろ言って来たらしい。逆らえば県教委の人事異動を行うと。

 こえー。


 更に2B全体で涼子にいじめをした訳ではなく、テニス部の三年生が二年生を使って他の生徒が涼子にいじめをする事を強要した事も分かった。


 主犯のテニス部三年生は退学、協力した二年生も停学となった。見て見ぬ振りをした2B担任は懲戒免職。

 代わりに2年の学年主任が見る事になった。その学年主任、教頭、校長も現状を把握していなかった職務怠慢を理由に減給十パーセント三ヶ月と厳しい処分となった。


 もちろん、女子テニス部は廃部して同好会に格下。男子テニス部は関係ないとしてお咎めなしだそうだ。



「しかし、三頭さん…」

「加奈子」

「加奈子さん、どうやって、そんな事」

「ふふっ、知りたい達也?」

「…少し」

 なんか全部聞いたら怖い感じがする。でも立花さん知っていたような。


「前に私を抱いてくれた時、言ったでしょ。私に向いてくれたら私と三頭家の全てをあげるって」

「聞きましたけど」

「まあいいいわ。簡単にいうと日本政府レベルでは三頭家には逆らえないわ。それだけの事。どう達也。私と一緒になると漏れなく三頭家が付いてくるわよ」

「…………」

 聞かなければよかった。


――――――


 三頭加奈子さん、怖いです。

 PS:あくまで小説です。


次回をお楽しみに


面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。

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