第48話 涼香ちゃんのお願い


 次の朝、俺が登校しようとすると門の前で早苗が待っていた。

「おはよ達也」

「おはよ早苗」

「ねえ、今日から毎日朝は一緒に登校しよう。でも学校のある駅まで。後は立花さんと学校まで行って。

 この前みたいな事したくないし。それに達也が私を選んでくれるって信じているから」

 その根拠と自信何処から来るの?


「さっ、行こう」

「ああ」


 早苗は決して手を繋ごうとか言ってこない。言葉も俺が理解出来ない事言って一人で騒いでいる事も無くなった。少しだけ話すけど。

 やはり早苗は俺の事を小さい時から知っているだけに一度こうして慣れると接し方が楽だ。


「早苗、昨日の事今度話そうか?」

「…そうだね」

 珍しい、達也どういう意味で言っているんだろう。




 学校のある駅に着くと早苗は先に降りて行ってしまった。俺はいつもの様に改札を出ると立花さんが待っていた。

「おはようございます達也さん」

「おはよ立花さん」


 今日は桐谷さんがいない、どういう事かしら。昨日の勢いだと今日も私達の邪魔をしてくると思ったのに。でもいいわいないんだから。


 達也さんは私から話しかけないとこういう所では自分から話しかける事はない。私はペラペラ話す人が嫌い。だから一緒に歩いているだけで心が安らぎ幸せな気持ちになる。やはりこの人です。




 俺達は学校に着いて教室に入ると立花さんは自分の席に行った。俺も窓側の席に行って鞄を机の上に置くと

「健司おはよ」

「おはよ達也」


 健司は斜め前だがこっちを向いて話してくる。早苗がこちらをチラッと見て微笑んだ。

「達也、桐谷さんと何か進んだのか?」

「いや何も」

「そうか」


 いつもの朝の駄弁りをしていると予鈴がなり郷原先生が入って来た。

「皆おはよう。来週の土日は文化祭だ。一応準備日は前日と前々日となっているが、準備手抜かりなく楽しめよ。来年は三年で余裕も無くなるからな。以上だ」

 それだけ言うと教室を出て行ってしまった。


 そう言えば、今日の昼休み三頭先輩と約束して有った。忘れない様に早くいかないと。





 午前中の授業も終わり昼食の時間になるといつもの様に俺と健司それに立花さんで食べた。

「達也さん、食べるのが早くありません。この後何か用事でも?」

 この人ほんとよく見ているよな。


「ええ、ちょっと用事があります」

「そうですか」


 それから少しして食べ終わると、急いで花壇のあるベンチに行った。三頭先輩がもう居る。お昼食べたのかな?


「三頭さん」

「達也」

「学校の中だから立石で」

「もう良いでしょう。二人だし」

「駄目です」


「もう分ったわ立石君。桐谷さんと何話したの?告白されたんでしょ」

「えっ?」

 どういうつもりで言っているんだ?



「告白されてどうしたの?」

「いや、何もないです」


「えっ、告白されて何もしていないの。あなたの部屋の中だよね」

「はい」

 うーっ、キスの事言えないよな。


「でも…。キス位されたんじゃないの。最後までしたかは知らないけど」

 やはりそこ突いてきますか。


「…ちょ、ちょっとだけ」

 あっ、いきなり。肩掴まれた。えっ、


 チュッ、チューッ…。


 十秒くらい続いたかな。


「ふふっ、これでいいわ。上書きよ。達也これ以上はしてないわよね」

「流石に」

「そう、それは信じてあげる。でももし、もししたら直ぐに上書きだからね」

「えっ!………」

 この人人間変ったよ。でもあの時…。首絞められたしなあ。


「達也、何考えているの?私の前よ、考えるのは私だけにして。今日から図書館開けるけど私も一緒に担当する」

「でも今日、火曜日ですよ」

「いいの。学期の始めだから」

「そ、そうですか」


 後は、周りを注意しているのか、抱き着いてきたりはしなかった。でも俺の手を自分の腿の上に置かれた。

「ふふっ、柔らかいでしょう」

「…………」


 予鈴が鳴った。

「さっ、達也行こうか?」

「はい」


 これで良いんだろうか。





 午後の授業はあまり頭に入らず放課後を迎えた。いつものように職員室で鍵を借り、図書室に行くと涼香ちゃん、立花さん、それに三頭さんが待っていた。


 涼香ちゃんはともかく他の二人が何となく気まずい。二人を無視してドアを開けると

「涼香ちゃん、開室処理しようか」

「はい」


 もう彼女も図書管理システムは十分に慣れたようだ。図書室の事も大分分かって来ている。これで来年は安泰だ。


 俺が涼香ちゃんの操作を見ていると三頭さんは、受付のすぐ傍の席に座った。立花さんも同じだ。

 俺は受け付けの予備椅子。


 少しして生徒が入って来た、いつもの常連さんだ。その後、本の貸出処理と夏休み中に貸出していた本の返却が何件か有ったが、平穏の内に下校の予鈴が鳴った。


「達也、今日は帰るわね」

「はい」

「達也さん、私も返ります。今日の夜お電話しても宜しいですか」

「構いませんけど」

「では、また夜に」


「立石先輩、室内見てから閉室処理します。」

「ああ頼む」

 もう図書担当は俺がいなくても問題なさそうだな。でもこの子の下校いつまで一緒なんだろうか?今日帰ったら瞳に聞いてみるか。



 図書室の鍵を職員室に返し終わった後、俺は涼香ちゃんと駅に向かった。


「立石先輩…」

「うん?」

「相談したい事が有って」

「…………」

 なんだろう?


 駅近くなった時

「あの相談事って、電車の中とかじゃあ言いにくいので、私と一緒に駅降りて貰えまませんか?」

「えっ?!」

 どういう事だ。送りの約束は駅までだし。駅を降りると言う事は…。うーん、どうするかな。


「駄目ですか?」

「いいよ」

 俺、やっぱり女の子によえーっ!




 涼香ちゃんの家の最寄りの駅に着くと改札を出た。

「涼香ちゃん、家と反対方向の公園じゃあ駄目かな?」

「…いいですよ」


 俺達は空いているベンチに座った。まだ人通りが多い。彼女は黙ったままだ。



「立石先輩。今から言う事は先輩にとって迷惑な事かも知れません、気分が悪くなる事かも知れません。でも聞いて貰えませんか」

「涼香ちゃん、内容も分からずにその返事は出来ないよ」

「…姉の事です」

「…………」




 俺が良いと言う前に彼女は話し始めた。

「姉は、春休みのトラブル以来、学校では二年生や三年生から無視され続けています。でもこれは姉自身から出た錆びです。

 学校に行き始めた頃は、帰って来ると毎日泣いていました。学校で姉が周りからどんな事されているのか私には分かりません。

 でもそれが随分長い間続きました。流石に私も妹です。夏休みに入る前に姉に聞きました。学校でどんな目に遇っているのか。

 もちろん私がそれを聞いたところでなんの解決にもならないでしょうけど、姉が私に話す事で少しでも気が休まればと思って。

 姉は、ゆっくりと少しずつ話し始めました。

声を掛けても無視される。

連絡事項の紙は回してくれない。

先生や学校の提出物は私のだけ抜かれて机の上に置いてある。

机の上に毎日の様に悪戯書きがしてあるそうです。

 流石にそこまでされているとは思いませんでした。でもそれも六月一杯くらいで終わったそうです。理由は分かりません」

 

 そこまで酷い目に遇っていたのか。でもなんで六月一杯で終わったんだ。


「今でもまともに口を利いてくれる人はいないそうです。確か小松原佐紀さんって言う人だけは普通に話してくれると言っていました」

 小松原さんか、健司が頼んだのかなあ。


「夏休みに入って、姉が心配で毎日話しかけました。八月の中旬頃だったと思います。姉が服毒自殺を図りました」

「えっ!」

「何とか一命は取留め、一週間位安静にして元に戻りましたが、何故かそれ以来、姉は微笑む様になったんです。別に親しい人が出来た訳ではありません。

 だから心配なんです。お願いです。立石先輩。姉と話して貰えませんか。お願いします。このお願い聞いてくれるなら私何でもします。お願いします」


 もう最後は涙声になっていた。周り人が何だという顔で俺達を見ている。




 どうしたものか。しかし自殺までするなんて。昨日涼子が俺に見せた笑顔。まさか…。


――――――


 次話に続きます。


次回をお楽しみに


面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。

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