第47話 早苗からのお願い


 俺はそのまま駅に行き立花さんは反対の改札へ三頭先輩は反対方向のホームへそして早苗と俺は同じホームに立った。少し離れて涼子が立っている。どうしたんだ。あいつ?


 涼子が二つ前に駅で降りる時、振返って俺の顔を見た。まるで知り合った時の様な可愛い笑顔で。どうしたんだろう?


 早苗は家まで来ると自分の家の玄関に…行かずに俺の家にそして俺の部屋に入って来た。こいつに関しては入って来ても何も言わない。それが当たり前だからだ。



「早苗、エアコン入れるか?」

「うん」


 ローテーブルの前で女の子座りしている。俺の顔を見るでもなくじっとローテーブルの表面を見ている。



 五分位経っても何も言わないので、鞄から教科書を取出して予習でもしようかと思っていると


「達也」

「うん?」

「聞いて」

「いいよ」




「達也、中学一年の終りの頃一緒にお風呂入ったの覚えている?」

「いや流石に」

「その時ね…。達也を異性として感じてしまったの。だって達也体が男の人になっていて。それから達也と顔を合すのが恥ずかしくなって、それで段々話づらくなって」

 そういう事か。


「達也と距離を取る様になってから何回か他の男の子から告白された。でも私は達也がいい。だから皆断った。

 それにごめんね。達也だったら高校卒業まで彼女出来ないと思っていたし。だから高校の終り位に達也に告白して大学一緒に行って、そのままゴールできるかなって思っていた」

 おい、不確実な予定だけだけどあっさり言うな。


「そしたら本宮さんの事が起きて、それが静かになったら三頭さんが達也の事好きになって、立花さんが現れて、それでこの前の体育祭であんな事になって。

だから、だから私ももうはっきりしないと達也をどっちかに取られちゃうと思って」


 早苗がじっと俺を見ている。



「私、私達也の為に全部大切に取ってある。誰にも触らせていない。だから、だから、もし、もし達也が私を欲しいって言うならいつでもいいよ」


 なんて事だ。まさか早苗がこんな事思っていたなんて。全く気付けなかった。俺から離れたのは彼氏が出来たからだと思っていたのに。


 せめてもっと早く言ってくれれば、三頭先輩とあんな事しない前だったら。


 それからまたずっと黙ってしまった。早苗はずっと俺の顔を見ている。



「ねえ、達也、三頭先輩とはどこまで行ったの?立花さんとはどこまで行ったの。でも二人共まだ達也の恋人じゃないよね」

「…………」

 どう答えていいか全く分からない。確かに三頭先輩とも立花さんとも恋人関係ではない。でも三頭先輩とは二回もしているし、立花さんの覚悟は知ってしまっている。


 俺はどうすればいいんだ。早苗、こんなになる前だったら、お前が相手でも良かったのに。



「ねえ、教えて。聞いたからって何も変わらない。でももし、もしそうだったら、私も同じレベルに行かないと、土俵に上がれない」

「…………」



 ゆっくりと早苗が俺の側に寄って来た。そして俺の顔を両手で挟むと


「ちょっと、ちょっと待て」

「私のファーストキスだよ。受け取れないの?」

「い、いや。そうじゃない。今早苗は感情がコントロール出来ていないんだ。俺とキスして後悔するって事もある。だから」

「やだ!」


 仕方なしに俺は早苗の両手を俺の手で取ろうとした時、


 チュッ。チュッ、チュチュッ。


チューッ。


 俺は早苗の顔を持って離そうとした時、早苗が離れた。そして顔を俺の肩に乗せて

「もう、ファーストキスあげちゃったよ。責任取ってね」

「はぁっ?」


早苗は起き上がって俺の肩を両手で持つと

「達也、この先は私もまだ勇気がいるの。だからもう少し待って。初めては達也だから」

「…………」



「達也。もう一回」


 チューッ……。



 俺の頭の中は無秩序と混乱のさなかにあった。まさか早苗が。


唇を離すと

「ちょっと待って」

 ローテーブルの上に有ったティッシュを取ると俺の唇拭いた。

「ふふふっ、おばさんや瞳ちゃんに見られたら困るでしょ」


 拭いたティッシュが薄赤く染まっている。思い切り抱き着かれると

「達也、私を彼女にして」

「…………」




「ふふっ、いいわ今すぐ答えなくても。でも今以上に三頭先輩や立花さんと関係を進めないで、お願いだから。

 もし、どうしても、どうしても彼女達からもっと進展させたいと言って来たら、一番目は私にしてね。絶対だよ」

「早苗…」



 それから早苗は三十分位俺の体に抱き着いていた後、帰って行った。送ろうかと言ったけど、隣だからと言って断られた。確かにまあ外は明るい。


 俺は頭の中が全く考えられず、ベッドの上で天井を見ながらそのまま目を閉じた。



コンコン。

ガチャ。


「お兄ちゃん、ご飯だよ。えっ!どうしたのおにいちゃん」

「ああ、瞳か、何でもない」


 瞳が部屋の中に入って来て横になっている俺の顔をじっと見た。

「お兄ちゃん。どうしても誰も選べなかったら、瞳がお兄ちゃんのお嫁さんになってあげる。ふふふっ、じゃあダイニングで待っているね」


 瞳は俺の思考の底に有るものまで見えるのか?それとも俺の外部表示機能がバージョンアップしたのか?




 ダイニングに行って食事をした後、風呂に入って、自分の部屋で回っていない頭を何とか動かそうとしているとスマホが鳴った。


「達也、私」

 三頭先輩だ。


「はい」

「駅で別れた後、心配になって電話した」

「そうですか」

「あの後、桐谷さんとはどうしたの?」

「えっ?!」

「なんで驚いているの。何か有ったのね。何が有ったの?」

「…早苗に告白されました」

「えっ!」


 不味い。一番恐れていた事が。彼女は幼馴染、家は隣。時間は自由だ。だから今日みたいなことも簡単に出来る。私が隣だったら…。

 とにかく何とかしないと。


「それで達也は何と言ったの?」

「返事はしていません」

「そう」

 この子は嘘つく子じゃない。だとしても。


「いいわ。達也明日少し話できないかな?」

「良いですけど」

「じゃあ、放課後に」

「放課後は駄目です」

「そうか、そうだったわね。じゃあ昼休みでどうかな?」

「良いですよ。昼食後迎えに行く」

「それは止めて下さい。花壇のところで待っています」

「分かったわ。じゃあ明日」

「はい」


――――――


 さて達也君、どうするの?

 涼子ちゃんの笑顔どういう意味なんでしょう?



次回をお楽しみに


面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。

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