第46話 二学期は最初から賑やかです


 加奈子さんと遊園地に行ってから一週間が経った。明日から二学期が始まる。


 この一週間、加奈子さんからは毎日連絡が有った。なんでもない日常の出来事を話しているだけだけど。


 玲子さんから夏休み中にもう一度会いたいと言われたけど、少し休みたいと言って断った。会えば多分避けられないだろうから。


 早苗は何も用事が無いのに朝から俺の部屋に入って来ては一時間位話し込んで帰って行く毎日だった。


 それでもこの一週間一人で居る時間を持てた。午前中爺ちゃんの所で稽古をして午後は本を読んだり二学期分の予習をしたりと高校生らしい生活を送る事が出来た。


 瞳は友達と毎日の様に遊んでいる。宿題は終わっているんだろうか?




 そして二学期の初日、いつもの時間に家を出ると…門の所に早苗がいた。

「おはよう達也。一緒行こう」

「おはよ早苗」


 俺達は駅に向かいながら

「達也、私と達也の家族と一緒に海に行った後、何していたの?」

「何していたって、早苗毎日俺の所に来てたじゃないか」

「それはここ一週間でしょ。海から帰って二日間有ったよね。何していたの?」

 うっ、こいつ厳しい所聞いてくるな。でも早苗に嘘をつく訳にもいかないし


「三頭先輩と一日だけ遊園地に行った」

 嘘はついていない。


「えっ?!なんで?」

「いや、何でと言われても約束していたし」

「そんな事言ってなかったよね」

「だって早苗に言う事でもないだろう」

「それはそうだけど」


 不味い。私の知らない所で三頭さん、達也にしっかりと接触している。まさかあっちまでは…。でも聞けないし


「早苗、どうしたんだ。中学二年の時俺から離れたと思ったら五月位から急に俺に構って来て。何か有るなら相談乗るぞ」

「本当に乗ってくれるの?」


「ああ、早苗の事なら何での乗るよ。俺の大切な幼馴染だからな」

「じゃあ、じゃあさ。私を彼女にして」

「え、ええ、えええーっ!」



 早苗が顔を真っ赤にして下を向いている。

「早苗どういう事?」

「どういう事も何も無いわよ。私は小さい時から達也がずっと好きなの。達也は私と一緒にならないといけないんだよ」

「い、いやいや、待て待て。早苗なんでいきなり」

「細かい事は今度話すから、私を彼女にして。まだ達也彼女いないよね」

「…………」

 どうしたんだ。



 そんな話をしている内に駅に着いた。

「早苗、今度ゆっくり話そう、なっ」

「分かった。でも達也言ったよね。私の事大切な人だって。なんでも叶えるって」

 なんか少し違うんだけど。



「分かった。とにかく今度話そう」

「今からでもいい」

「早苗、今度にしよう」

「分かった」

 達也が二度同じ事言うならそうした方がいい。




 学校の有る駅に着いて改札を出ると立花さんが待っていた。

「達也さん、おはようございます」

「おはよう立花さん」

「達也さん、玲子って呼んで下さい。もう宜しいですよね」


「ちょっと、達也どういう意味?」

「桐谷さん、あなたには関係ない事です。私と達也さんの関係です」

「私と達也さんの関係って、どういう事よ?」

「私は達也さんの許嫁になります。達也さんは私の全てを知っています」

「全てを知っているって。達也どういう事?まさか…」

「…………」

 俺は逃げたくなった。まさか立花さんが会うなりいきなりこんな事言うとは。


「達也!」

 早苗が涙目になっている。


「早苗、落着け。立花さんも言い過ぎです。まだ何も決まっている訳ではありません」

 周りの人が何だと言う顔で見ている。同じ高校の生徒もいるじゃないか。


「とにかく学校に行こう」

「分かったわ」

「分かりました」




下駄箱までしっかりと両脇に早苗と立花さんが付いている。周りの視線が痛い。妬み、嫉妬、驚きの視線だ。

かと言ってこの場でこの二人に離れろなんて言えない。そのまま教室に向かうと廊下でも他の生徒が目を丸くして驚いている。



 教室に入ると俺は直ぐに自分の鞄を机の上に置いて

「健司おはよ」

 健司が驚いた顔をしている。


「おはよ達也」

 立花さんは、俺の隣の席に座って鞄を机の上に置いた。早苗は自分の席に行った。


「達也ちょっと」

 健司は俺を廊下に呼び出すと

「どういう事?」

「実は、……………」

 朝の登校時の事を話した。


「そうかあ、ついに桐谷さんも宣戦布告かあ、面白くなって来たな」

「なんだよ、その面白くなって来たって?」

「だって、モテモテ達也の周りに居てじっとチャンスを伺っていたトラとヒョウとライオンがついに一匹のウサギを狙って戦い始める訳じゃないか。これは面白いよ」

「健司、俺の身にもなってくれ。それに俺は…」


 予鈴が鳴ってしまった。

「健司後でな」

「おう」




 俺、高頭健司。立石達也と入学した時から仲良くしている。気が合うっているか、間が合うっているか。とにかく感性が同じなので一緒にいて楽しい。


 前々から達也は自分はモテないと言っているが、決してそんな事は無い。しまった顔、はっきりとした大きな目、濃い眉毛、がっしりとした鼻に唇の薄い口、男らしい顔立ちだ。生半可な色男なんかでは全くない。


 それに入学した時より明らかに身長が伸びている。俺も伸びているから分かる。そして体育祭の時に見せたがっしりとした体。モテるに決まっている。本人が気が付かないだけだ。


 だが、睨んだ時の達也は俺もドキッとさせられる。多分武術を習っている所為だろうが、相手を射貫く様な目付きになる。


 そんな達也が学内で美人No1の三頭先輩、美人の誉れ高い立花さん、可愛さNo1の桐谷さんから言い寄られてウサギの様に怖がっている。


 これを楽しいと言わないで何というのか。まあ、三人のお手並み拝見とするか。もっとも可愛いウサギが逃げ切れる可能性もあるが、ダークホースもいるしな。二学期も楽しい時間が送れそうだ。




 俺立石達也、二学期の始業式に体育館に集まって校長先生の大事なお話を聞いた後、教室に戻った。


 そして郷原先生が、

「みんな、時間有るから席の入れ替えしようか」


「「「「おーっ!」」」」


 何でそんなに喜ぶんだ。



 結果、俺は見事に窓側一番後ろ、神社の神様待ち人ってこれだよね。席だけど。そして健司も俺の右斜め前になった。流石だ。こっちが待ち人かな。


 更に幸運な事に早苗は廊下側から三列目後ろから二番目、立花さんは廊下側一番目前から三番目になった。やったぜ。


 早速、立花さんが周りの子から声を掛けられている。頑張ってね立花さん。




 図書室は明日から開ける事になっている。だから俺は授業が終わると早苗と立花さんから声を掛けられる前にサッと下駄箱に行ってサッと帰る……つもりだったのに。


 早苗と立花さんが待っていた。俺逃げたい。仕方なくローファーを持って裏門から出ようと振り返ると三頭先輩が待っていた。その向こうに涼子もいる。


 どうすればいいんだ俺。


「達也さん、一緒に帰りましょう」

「達也、一緒に帰ろう」

「達也、私とだよね」


 涼子が俺の顔をじっと見ている。なんでだ。俺を振ったんだろう。


結局、俺の後ろに三人いや四人の女の子が付いてくるという異様な光景になってしまった。


――――――


 達也、二学期も賑やかに始まりました。


次回をお楽しみに


面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る