第45話 夏休みが終わる前に
立花さんの別荘から帰った翌日、玲子さんが彼女のお父さんと一緒に改めてお礼に来た。
大事に至らなかったからもう忘れようとしていた俺だったけど、相手からすると命の恩人とまで言われてしまいどう言葉を返して良いか分からなかった程だ。
問題は玲子さんで、今回の事で自分はもう心を決めました。少しでも早く達也さんの許嫁になりたいと言って来ていたが、今は気持ちが高揚しているだけだと言い聞かせ、気持ちを押さえて貰った。でも向こうのお父さんは相当に乗り気の様だ。参った。
開けて翌日、俺の家族は伊豆の下田にあるホテルに二泊三日で夏休みを取った。約束で早苗も一緒だ。
部屋はいつもは両親と瞳と俺の二部屋だったが、早苗を瞳と一緒にして俺は一人で一部屋になった。
家族がいるお陰か早苗は幼馴染の域を出ない接触の仕方をして来たので夜はゆっくりとする事が出来た。ここ数日休みの無い行動だったのでとても助かる。
右腕のかすり傷は二、三日で直った。まああれ位の事だ。大した事はない。
下田から帰った翌々日爺ちゃんの道場の三泊四日の山の合宿だ。これには瞳はついてこない。俺一人で参加する。
言い方が悪いが煩わしい事が無いだけ気持ち良く稽古に励むことが出来、俺は心身共に思い切りリフレッシュする事が出来た。やっと夏休みが来たようだ。もう終わりだけど。
そしてだ。山の合宿から帰った当日、俺は翌々日なんと三頭さんとの約束が有った事を思い出した。
流石に止めようと連絡したが、どうしても会いたいという事で、三頭さんの家のある側の改札で待合せる事にした。
彼女が交差点の反対側から歩いてくる。オレンジのTシャツに白い短パン、白のスニーカーと淡いピンクのバッグを肩から掛けている。周りの人の視線が凄い。
「達也、久しぶりね」
「はい、久しぶりです。加奈子さん」
「ふふっ、名前で呼んでくれるのね」
「学校の外だけですよ」
「いいわよ」
いきなり腕に巻き付いて来た。
「あのこれだと歩きずらいんですけど」
「良いじゃない。私は歩けるわ。それに久しぶりだし…」
「…………」
久しぶりとはいえ、加奈子さんの胸が思い切り当たっている。
駅を迂回するように歩いて反対側に出て遊園地に向かった。
「達也、今日は半日券でいい。午後は私の家でお話しよう」
何故か加奈子さん、目がキラキラしているんですけど。
「い、いいですよ」
目的は分かっているけど…仕方ないか。
ふふふっ、この前の事、妊娠を心配したけど無事に月の物が有った。そしてそれが昨日終わった。今日は思い切り…本当は遊園地なんかどうでもいいんだけど。いきなりじゃあね。達也から節操のない女に思われたくない。だから半日券。
遊園地の中に入ると
「達也、あれ乗ろうか」
「えっ、良いんですか」
例の〇〇山ジェットだ。
「大丈夫よ」
三十分程並んで俺達の番が来た。俺から先に乗り加奈子さんが後から乗る二人席シートだ。上から安全バーがゆっくりと降りて来て始動した。
ガタン、ガタン、ガタン。
チラッと横目で見ると彼女は余裕のありそうな微笑みをしている。でも頂上に来て
キャーッ!
一回転して
キャーッ!
もう一回転して
キャーッ!
右や左に捻りながら回るコークスクリューの頃には目を瞑っていた。
やがて出発地点に戻ると安全バーが上がった。
「加奈子さん降りますよ」
「う、うん」
腰を上げない。仕方なしに手を差し出すと俺の手を掴んだ。
「さっ、降りましょう」
「え、ええ」
階段を降りる足がおぼつかない。
「加奈子さん、苦手だったんですか?」
「い、いやそんな事は無いんだけど。テレビで見て大した事無いと思って」
「はーっ。そういうことですか。あそこのベンチで休みましょう」
「うん」
十五分位休んだ後、
「達也、あれにしようか」
「いいですよ」
何故女の子が怖い物に乗りたがるのか分からない?
ズズズズズッ。
俺達が座っているシートが段々上に上がっていく。チラッと加奈子さんの方を見ると下を見て目を丸くしている。
「加奈子さん、前か上を見た方がいいですよ」
「う、うん」
やがて頂点まで来ると
フワッ。
きゃーっ!
加奈子さんが固く目を瞑っている。地上に近付くにつれスローになると
「達也終わった?」
ズズズズズッ。
「えっ、まだやるの?」
きゃーっ!
三回程して終わると
「た、達也。もう帰りたい」
「えっ。今来たばかりですよ」
「もういいから」
テレビで見ているのと実際に乗るのとは大違い。もう乗りたくない。家に帰って…。
「でも…」
「達也、お願い帰ろう」
「…………」
俺達は半日券を使い切るどころか一時間ちょっとで遊園地を退散となった。
「ねえ、達也、私の家に行って話そう」
「いいですけど…」
「何を心配しているの?」
「…………」
「大丈夫よ。今日は心配しなくていいから」
どういう意味だ?
加奈子さんの玄関を上がり彼女の部屋に入った。
「達也、家族は六時まで帰ってこない。それと…。今日は心配しなくていいの。だから…」
「でも…」
「達也、夏休みはもう残り少ない。あなたとこうして居られる時間も少なくなっている。二学期になればもっと会えなくなる。だから…お願い」
「でも俺は…」
「達也好きでもない女を抱くのは嫌かも知れないけど、私はあなたが好き。私の全てを捧げてもいい位好き。だから…お願い」
「加奈子さん…」
………………。
嬉しい。達也もっと…。
俺の隣にとても綺麗な女性が目を閉じている。いくら加奈子さんが望んだからと言っても好きでもない人にこういう事していいんだろうか。
俺だって男だ。これだけの人からあれだけ懇願されれば心が動いてしまう。でも本当にこれで良いんだろうか。
ここまでしている以上責任を持つべきなのかな。でも俺には立花さんという女性が俺を好いてくれている。
早く許嫁になりたいと言って来ている。本当にどうすればいいか分からない。立花さんを断るか。加奈子さんとこれ以上関係を持つことを止めるか。
あっ、目を開けた。
「達也、もっと…」
それから何度もした。途中シャワーも浴びてまたした。彼女が欲しているままに…。
「達也、私、私ね。あなたがもし私を選ぶことが出来ないなら、この関係高校一杯まで続けて終りにしよう。でもその代わり私の高校生活が終わるまでこうして欲しい」
「加奈子さん」
「ふふっ、私って自分がこんなにこういう事好きだなんて思わなかった。でも達也だけ。あなただから私これが好き」
首に腕を巻き疲れてキスされた。そしてもう一度…。
「達也、もう四時ね。昼食も取らないで夢中になってしまったわ。あなたが悪いのよ」
「えっ、俺ですか?」
「うん、あなたが悪い。ふふふっ、達也大好き」
うぉ、体の上に乗られてしまった。
「えっ、ちょっと」
俺、今加奈子さんから首絞められている。
「達也、あなたを殺して私も死のうか。そうすればずっと一緒だから」
「加奈子さん」
参った。そこまで俺の事。
「加奈子さん、時間を下さい。あなたが好きになれるか半年待って下さい」
「分かったわ。でも好きになってくれなかったらこうだから」
「わ、分かりましたよ」
首を絞めて来た。痛くもないけど。
「達也、でも私を好きになってくれたら私の全てをあげる。三頭家も」
どういう意味だろう?
結局、午後五時まで彼女のベッドの中にいた。というか放してくれなかった。
――――――
ふーん、達也そういう事?
次回をお楽しみに
面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。
感想や、誤字脱字のご指摘待っています。
宜しくお願いします。
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