第36話 夏休みまでもう少し


 色々イベントの多かった期末考査も終わり、俺としては結果に満足している。これで後は夏休みまで平穏に過ごし、夏休みを迎え例年通りのんびりと過ごすと思っていた。


 今日も学校のある改札で立花さんが待っている。

「おはようございます達也さん」

「おはよ立花さん」

 そう言えばなんで立花さんは俺を名前呼びなんだ?俺が健司や早苗を呼ぶのとは違う様な、でも同じか?ない頭で考えていると


「達也さん、名前で呼んで何かいけませんか?」

 俺思考止めようかな。いつになったら外部表示機能が壊れてくれるんだ。


「いや、そんな事ないです」

 うーっ、俺メンタルよえーっ。


「達也さん、夏休みの事なんですけど、もしご都合つけば私と一緒に海に行きませんか?」

 な、な、なんですと! 俺が立花さんと海に行く??


「私の家の別荘が海の近くに有ります。そこに二泊ぐらい宜しいかと」

 もう鼻血でそう。


「い、いやいや。二人で別荘に二泊なんて…」

「宜しいではないですか。達也さんと私がもっと深く理解を深める時間が作れます」

 俺は鼻を押さえた。出ていない様だ。


「ちょ、ちょっと待って下さい。その返事」

「…待つのは良いですけど、行って下さいね」

 参った、行く前提になっている。この人見かけ清楚系だけど…。


「ふふっ、女性は大事な人には自分から心を開いて行く努力をします。私にとって達也さんはそういう方なのです」

「…………」

 返す言葉が見つからない。この手の会話、俺初心者丸出し!陽キャの男子ってこういう時どう言うんだろう?




 下駄箱で履き替えて教室に入ると期末考査が終わってホッとしているのか、夏休みがもうすぐだからか、教室の空気が和んでいた。あっ、一部補習対象の子は青くなっているけど。でもおかしなここ2Aだからそんな奴いないはずだが?


「健司おはよ」

「おはよ達也。どうしたんだ顔が少し赤いぞ。夏風でも引いたか?」

「いや、そういう事ではない」


「そう言えば健司、あっいや昼休み話そうか」

「ああ良いけど」



 午前中の授業が終わりいつもの様に立花さんのお弁当を食べさせて貰った後、俺は健司を誘って体育館裏に行った。最近ここが定番だ。まあ告白タイムがある時は他の所にするが、今日は幸い居ない。


「健司悪いな」

「いや、ところでどうしたんだ?」

「実は…」

 俺は立花さんから夏休み二泊三日で海の別荘に誘われている事を話した。


「へーっ、立花さん、見かけによらず積極的だな。でも体育祭であんな事あったからな。分からないではない」

「どう言う意味だ?」

「達也、お前いつも平和で羨ましいよ。今お前の前はヒョウとトラとライオンがいて、隙あらばお前を食ってやろうとしているのが分からないか。彼女達にとっては、この夏休みはいいチャンスだ。三人共引けないからな」

「へっ、俺猛獣に狙われているウサギか?」

「まあそういう事だ。いずれにしろ三頭先輩も桐谷さんも立花さんと同様のアタックをしてくると思う」

「…………」

 俺、今から逃げ場作らないと。


「だが、達也、お前には逃げ場がない。今回は正面切って戦うかしかないな」

「健司……」



 俺は健司の話を聞いて今年だけは夏休みを中止にして欲しと思った。俺達が教室に戻ると立花さんと早苗が俺達をじっと見ている。


無視したまま席に座ろうとすると

「達也さん、今三頭先輩が来られました。高頭さんと別の場所で話をしていると言うと帰られましたけど、何か約束されていましたか?」

「いやしていない」

 三頭先輩どういうつもりだろう。何か話が有れば図書室開く前でも話が出来るのに。



 放課後になる頃には三頭先輩の事も忘れ…てはいない。職員室で鍵を借り図書室に行った。

 やっぱり三頭先輩が入り口で待っていた。

「あっ、達…立石君、ちょっと話がある」


 俺は図書室の鍵を開けながら

「何ですか三頭さん」

「ねえ、今度の日曜日買い物に付き合って」

「えーっと、それって…」

「大丈夫、君が一緒でも問題ないから。それからお願いもあるし」

「今度の日曜ですか。午後からなら空いていますけど」

 午前中は爺ちゃんの所で稽古だ。あれ、俺いつのまにこの人の頼み事簡単に受けているんだ。


「じゃあ、デパートある駅の改札午後一時ね」

そう言うとサッと帰ってしまった。何なんだ。開室処理をしている内に常連さんが入って来た。少し遅れて涼香ちゃんもやって来た。


「済みません立石先輩」

「謝らなくていいけどどうしたの?」

「ちょっと教室で男の子に捕まってしまって」

「そうか、仕方ないな」

 この子は可愛い。多分夏休みの事で声を掛けられたのかもしれない。



 今日はあまり来室者がいない。それはそうだ。来週火曜からは夏休み。そろそろそっちで忙しいんだろう。そう言えば来週はもう図書室は開かないか。




 予鈴が鳴って図書室から誰も居なくなると俺が返却処理と閉室処理をしている間に涼香ちゃんは本の書棚への戻しと図書室内の確認をしてくれる。彼女がいるお陰で大分作業が楽になった。


 駅までの帰り道

「立石先輩は、夏休み何か予定あります」

「まあ、色々と」

 決まっていないけどほぼ確定だからな。


「そうですか、そうですよね」

 何を言いたいんだろう。


 やっぱり海とか誘えないよね。立石先輩だったら安心なんだけど。いつ頃からだろう。この気持ち。でも絶対に口にする事も出来ないししてはいけない事。



 俺は涼香ちゃんを彼女の家のある最寄りの駅と言っても俺の通学経路と同じだけど、彼女と駅で別れると家に戻った。


「ただいま」


タタタッ。


「あっ、お兄ちゃんお帰り。ちょっとお願いが有るんだけど」

「なんだ。取敢えず着替えるからリビングで待って居ろ」

「分かった」


 俺は着替えてリビングに行くと

「お兄ちゃん、瞳のお買い物付き合って」

「俺がか。一人じゃいけないのか?」

「ううん。涼香ちゃんと一緒に行くの。だから付き合って」

「…………」

 うーん、なんか嫌な予感。でも瞳のお願い事は断れないし。


「ねえ、いいでしょう」

「分かった。いつだ?」

「来週月曜日。海の日でしょ」

 日曜日は三頭先輩だから大丈夫か。


「ああいいぞ」

「わーい、嬉しいお兄ちゃん。ありがとう」



 そして翌土曜日の放課後、図書室で涼香ちゃんと一緒に受付に居ると珍しく早苗がやって来た。


「達也、図書室終わったら一緒に帰れない?」

「それはいいが、涼香ちゃんもいるぞ」

「ああ、それはいいわ。彼女と別れた後話すから。今日は図書室で本読んでいるから。じゃあ後でね」

 なんだ話って?



 今日は、常連の生徒が本を読んで居ただけで貸出返却処理は無かった。夏休み中の貸出は先週まででほとんど終わっている。


 いつもより簡単に片付けて図書室を閉めると俺、涼香ちゃんと早苗で下校した。そして涼香ちゃんと最寄り駅で別れると


「達也、お願いが有るんだけど…」

 あれ、だまちゃったよ。俺達は家のある駅の改札を出ると


「達也、前にあなたに貸しが一つあるの忘れて無いよね」

「あ、ああ」


「じゃあ、その貸し返して。私と一緒に海に行って」

「はっ、今何と?」

「私と一緒に海に行って!」

「…………」


 おいちょっと待て、既に立花さんからは誘われている。決めていないけど。三頭先輩からもどこか知らないけど誘われている。そして今度は早苗から。


 俺どうなっているんだ。これ俺じゃないよな。何かおかしい。待ち人来ないのに何故か待っていない人たちが寄って来る。どうなっているんだ。


「早苗ちょっと返事は待ってくれ」

「どうして?」

「まあ色々有ってな」

「でも、でも何とかして。私達也と海に行きたい。出来れば一泊で」

「っ!…………」


――――――


いよいよ女の子達、戦闘開始です。達也どうするの?

ちなみにヒョウとトラとライオンが誰かは、ご想像にお任せします。


次回をお楽しみに


面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。

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