第35話 期末考査は女の子の戦場 その二


 月曜日の下校中、三頭先輩からの勉強会のお誘いは丁重に断った。流石に彼女とする訳にはいかない。

 でもとんでもない事を言っていた。夏休みは二人で会ってって。参った。もう夏休みの事言っている。でも期末考査終われば二週間位で夏休みに入る。確かにそんなに遠くないか。


 それよりもだ。大変な事が起こってしまった。翌日立花さんと登校中に


「立花さん勉強会の件ですけど、土日とも早苗と一緒に勉強する事になりました」

「えっ!そんな。それは酷いです。私もお願いしたのに。何故私が達也さんと一緒に勉強出来ないんですか?」

 途中から涙声になって来た。不味い。あっ、立ち止まった。


「達也さん、私は達也さんにとってそんなに軽い人間なんですか?桐谷さんは幼馴染です。でも、でも私は達也さんの許嫁…になろうと思っています。それなのに」

 

目が潤み始めたよ。不味い。俺はさっとポケットからハンカチを差し出すと

「分かりました。泣くのは止めて下さい。勉強の件早苗と話します」

「いえ、私が桐谷さんと話します」

「えっ?!」


 もうお互い立ち位置をはっきりさせておいた方がいい。桐谷さんに達也さんの許嫁は私だという事を。


「ちょっ、ちょっと待って下さい。期末考査の勉強会ですよね。別に立花さんと会えなくなる訳でもないですし。今もこうして一緒に登校しています」


 止まっている俺達を周りの生徒が物珍しそうに見ている。


「とにかく学校に行きましょう」

「分かりました。済みません。ハンカチは洗ってお返しします」

「い、いやそれないと今日困るから」

「では私のハンカチをお貸ししましょう」

「いやいやいや、勘弁して下さい。さすがに立花さんのハンカチで俺の手を拭く事はできないですよ」

「私は構わないのですが…残念です」

 ハンカチを返してくれたけど彼女の匂いがしっかりと着いていた。これポケットから出す時、気を付けないと。



 その日の昼休み昼食を終わらせると

「健司ちょっと良いか」

「ああ」


 俺は健司を廊下の隅の方に連れ出して勉強会の状況を話した。

「そうか、大変だな」

「でだ。頼みがある。健司と小松原さんも一緒に出来ないか。そうすれば早苗と立花さんが一緒でも問題ないと思うんだが」

「そういう事かあ。でもなあ…」

「頼むよ健司」

「分かった佐紀に聞いてみるよ。でも彼女が駄目と言ったら諦めてくれ。俺もこれは強制できない」

「分かった。何とか頼む」




 健司が小松原さんに確認した所、日曜だけだったら俺達と一緒に勉強して良いと返事をくれたそうだ。


 俺は直ぐにこの事を早苗と立花さんに伝えた。早苗は二人だけでって言ったのにと不満を漏らしていたが、それが条件でないと出来ないと言った所渋々承知してくれた。


 場所は俺の家。俺の様な息子がまさか友達と勉強会をするなんてと言って母さんはとても喜んでいたが。


 土曜日は仕方なく一回目が早苗、二回目が立花さんという事でこれも俺の家で行う事を二人に承知して貰った。これも母さんに話したらとても喜んでいた。



 最初の土曜日は、俺が家に戻った午後四時から始めた。二時間半だけだったが、時間が短い分集中して行えたので結構期末考査対象範囲半分位の復習が出来た。


 翌日曜日は午前十時集合という事で立花さんは車で我が家まで、健司と小松原さんは俺が駅まで迎えに行った。十分前に駅に着くともう二人は来ていた。二人共結構お洒落な格好をしている。


「健司悪いな」

「良いって事」

「小松原さん済みません」

「ううん、楽しみにしていたの。皆で勉強会なんて今まで経験無かったから」

「そうですか。それは良かった。じゃあ行こうか」


五分程歩いて我が家に着くと

「へーっ、達也の家ってでかいなあ。想像していたよりでかい」

「そんなことないよ」

 小松原さんがぽかんとしている。


「どうした佐紀?」

「立石さんって?」

「ああ、達也は立石産業の跡取りだ」

「えっ!あの一部上場企業の立石産業?知らなかったあ立石君って凄い人?」

「ははっ、驚かなくてもいいですよ。凄いのは父さん達だから」


 門には立花さんの所の車が止まっていた。玄関を上がってリビングに行くと立花さんと早苗が、無言で座っていた。怖い……。


「適当に座って。ローテーブル囲んでやろうか」


 俺の右隣が早苗、左隣が立花さん、向かいに健司と小松原さんが座った。何かやりにくい感じ。


カリカリカリ。


 健司と小松原さんは普段一緒にやっているのか、二人で分からない所を話ながらやっている。

 俺はと言うとペンが止まる度に

「達也分からない所何処?」

「達也さん、何処ですか分からない所は?」


 仕方なく順番で聞く事にした。昨日の内に半分位早苗と復習していたのでそこから先の復習を始めたけど立花さんはそれを見て何も言わなかった。でも目が笑っていない。

それ恐いんだけど。


 二時間位進めた所で母さんが、

「皆さん、ダイニングに昼食の支度をしてありますから区切りの良い所で食事にしてね」

「「「「ありがとうございます」」」」


 なんと俺以外の四人でハモったよ。


「じゃあ、少し休憩にしようか達也」

「ああ、立花さん、健司、小松原さんもどうですか?」

「そうしましょう」


 五人でダイニングに行くとサンドイッチと暖かい紅茶、暖かいコーヒー、冷たい麦茶が用意されていた。


「わあ、凄い」

 小松原さんが喜んでいる。我が家のテーブルは六人掛けなのでさっきと同じ様に座って食べた。


 その後午後一時半位まで休憩した後、午後三時半までやって解散した。立花さんは車で帰って、健司と小松原さんは駅まで送った。


 俺も十分やったなと思って家に帰ると何故か早苗と母さんが話している。

「あれ、早苗帰ったんじゃ」

「いいのよ。お母さんが声掛けたの。早苗ちゃんが我が家に来るなんて久しぶりじゃない。だから話したくてね」

「はい」


「そうか、それは良かった。じゃあ俺は自分の部屋に行くから」

「ちょ、ちょっと待ってよ達也。私も行く」

「えっ?」

「達也良いじゃない。偶には二人でゆっくり話したら」

「母さん…」

 全くどういうつもりだ母さんは。



 早苗はかつて知ったる我が家の様に俺の部屋に入っていく。

「ふふっ、久しぶり達也の部屋」

「そうか、そうだな中学以来か」


「ねえ、達也これから前の様に遊びに来て良い」

「別に構わないけど」

 何も考えずに軽く言った。


「良いの?」

「何でいけないんだ」

「そ、そうかあ。じゃあ、今日は帰る」

「はあ?」

 やっぱり女の子の考えは全く分からない。



 翌週の学校は何故か平穏に過ごした。ああは言ったが、早苗が帰宅後押しかけて来る事も無かった。



 そして土曜日、今日は立花さんが来る予定だったが、体調が悪いという事で中止になった。心配して理由を聞いたが、女性だけにある不調だと言っていた。いったい何なんだろう。でも翌日曜日は来たけど。


 日曜日は、前と同じようにみんなで勉強したが、流石成績上位者達、各教科の先生達の出題を予想しあっていた。俺には分からないけど。



 そして迎えた期末考査四日間に渡って行われた。それから四日後に考査の返却が行われた。廊下の掲示板には三十位までが載っている。


 一位 立花玲子

 二位 桐谷早苗

 ・

 五位 小松原佐紀

 六位 高頭健司

 ・

 八位 本宮涼子

 九位 立石達也


「っ!」

 私桐谷早苗。本宮さんが八位に入っている。どうして。中間では三十位にも入っていなかったのに。それも達也と並ぶように。何故か私は物凄く嫌な予感が沸き起こった。気の所為で有って欲しい。


「達也さん、良かったですね。十一位も上がりました。勉強会のお陰です」

「ありがとうございます」


「ふふっ、健司ありがとう。結構いい所まで来た。それに健司も並んでいる。嬉しい」

「ああ、俺も嬉しいよ佐紀」



「あれ、小松原さんって高頭さんとあんなに親しかったっけ?」

「さあ、でも学園祭の時、立石君達と一緒にお弁当食べてたわよね」

「えっ、じゃあ、そういう事。私高頭君を……」

「まあ、仕方ないわね」



 とにかく、これで期末考査は終わった。良かったまた当分何も無いだろう。

えっ、視線を感じた。そちらに振り向くと…。涼子!


 何も言わないで俺をじっと見ている。


「達也さん、教室に戻りましょうか」

「ああ」


 達也……。


――――――


 なんと…。


次回をお楽しみに


面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る