第37話 夏休みまでもう少し その二


 夏休み入る前にイベントが…。


――――――


 その週の日曜日、俺はデパートのある駅の改札で三頭先輩と待合わせした。前の失敗をしない為に俺は度胸を決めている。


 後十分で約束の午後一時だ。改札の向こうにある下りエスカレータを見ていると一目で分かる女性が降りて来た。

 

 白をベースとした花柄のワンピースを着て可愛いバッグを持っている。前髪はアップして眼鏡は掛けていない。すれ違う人がみんな見ている。


 改札に来るまで待っていると

「達也待った?」

「いえ」


 サッと三頭先輩が手を握って来た。この前の件もあるので離す事はしなかった。

「ふふっ、今日は素直に手を繋いでくれるのね」

「……まあこの前の事もあるので」

「嬉しいわ、た・つ・や」


 俺の顔が赤くなるのが分かる。周りの行きかう人が、不思議そうな顔で俺達を見ている。どうせ俺と三頭先輩じゃ合わないと思っているんだろう。


「達也、行こう。今日は正面のデパートよ」

 前に涼子と入ったデパートだ。



「三頭さん、今日は何買うんですか?」

「ふふっ、付いて来て」

 ぐっと手を強く握って来た。何かあるのか?


 デパートの入口を入ってエスカレータで三階へ。そしてフロアを少し歩くと

「っ!…」

「入ろうか達也」

 俺はぐっと立ち止まって


「三頭さん、俺をいじめているんでしょ。ここに入らないなら一つ約束してとか」

「あらっ、そんな事言わないわ。だって達也と出かける事は決まっているから」

「あっ!」

 そう言えばそんな約束してたな。


「だから入ろ」

「い、いやいや。待って下さい。無理ですよ。俺みたいな男がこんな所に入るなんて」

「こんな所という表現は良くないわね。ここは有名なお店よ。ほら店員さんが不満顔しているわ」

 俺は店員を見るとどう見ても違う。明らかに笑っている。


「さっ、入ろうか」

「せんぱ…いや加奈子さん。お願いします。勘弁して下さい」

「ふふっ、名前呼んでくれたのね。じゃあ、待っていて」


 やられた。俺が女性の水着売り場に入れない事十分知っていた上での策か。全く三頭先輩は…。



 俺は店の通路の反対にあるベンチで店側に顔を向けない様にして座った。しかし、どうしてこうなった。

何か最近アリ地獄にはまった虫みたいだな。段々穴に落ちていく感じだ。何とか止められないものか。


「達也、ねえどうしても決められないの。どっちがいい?」

「…………」

 三頭先輩が俺の目の前にいきなり二つの水着を出した。黒のビキニと水色のビキニだ。


思い切り目を瞑って右手で適当に指さした。

「あら、達也こっちが良かったの?ふーん。今度見せてあげるね」


足音が遠のいたので目を開けると三頭先輩がお店のレジの方へ歩いて行った。


「達也買って来たわよ。でも君が黒の水着を選ぶとはね」

「えっ?!」

「楽しみにしておいてね」

「…………」



「さて、買い物も終わったし…。達也これからどうする?」

「帰りますか?」

「駄目。スイーツを食べるか。私を食べるか。選んで」

「…あのそういう冗談は今度で」

「あら、今度会ったら私を食べてくれるのね。約束よ」

「いや、俺はそんな約束は…」


 三頭先輩は、俺の口にいきなり人差し指持って来て話すのを止めさせた。


「達也、私本気だから」

 三頭先輩が、顔を赤くして下を向いている。


「みかし…加奈子さん、ここ店の前だから移動しましょう」

「うん」

 まだ下を向いている。周りの人が何だという目で痛い視線を送っているのが分かる。



 俺達はその後、駅から少し離れた公園の付近まで歩いて来た。三頭先輩は、いつもの調子じゃない。さっき言った事がよっぽど恥ずかしかったのか。でも手はしっかりと握っている。


 カップルが立ち上がって目の前のベンチが開いた。

「達也あそこに座ろ」

「はい」


 先輩はまだ黙っている。手は握ったままだ。




「達也、あなたは私の事どう思っている?」

「…優しくて、とても綺麗で…容姿もですけど心も優しい方と思っています。とても素敵な方だと思っています」

「ふふっ、ありがとう。そこまで言われると恥ずかしいな。でもそこまで思ってくれるなら、私を恋人にしてくれてもいいわよね。私の気持ちは変わらない。ずっとあなたが好きだから」


 困ったなあ。言った事は本当だけど、それは恋愛感情ではない。誤解のない内に…。と思ったら先に言われた。


「ねえ、達也。あなたは私に素敵な事を言ってくれたけどそれは恋愛感情じゃないんでしょ。

 でもね…。私はそれでもいい。ずっとあなたの側にいれるなら必ず私はあなたの心を私に向かせて見せる。だから私と付き合って。お願い」

 じっと俺の顔を見ている。周りにも人はいる。でも三頭先輩の顔が近づいてくる。


 後数センチで止まった。


「ふふっ、こんな所ではキスしないわ。もっと素敵な所でしましょう。さあ行くわよ」

「へっ、いや今日は止めましょうよ」

「達也。忘れないでその言葉、さっきお店でも言ったわよね。次は必ず、ねっ!」

「…………」

 俺なんか約束させられたらしい。


 それからさっき入りそびれた三頭先輩の好きなスイーツのお店に行った…俺には向かないお店だけど。


 お店を出たのは午後五時を過ぎていた。まだこの季節は明るい。駅の方に手を繋ぎながら一緒に歩いて行くと


「達也、家まで送って」

「分かりました」

 何となく断れる雰囲気じゃなかった。


 三頭先輩の家のある駅はデパートのある駅から三つ。プールや遊園地のある駅と同じだった。だけど降りる方向は反対。少し歩くと静かな住宅街になった。


「私の家はここ」

二階建ての大きな家だ。


「達也」


 俺の方を向くと思い切り抱き着いて来た。そして少し背伸びしている。

「いいでしょ?」

「…………」

 人は歩いていないけど明るいし、それに……。


「達也お願い」


 仕方ないかな。でも…。


 三頭先輩が背伸びして目を瞑っている。顔を近づけてちょっとだけ唇を合わせた。そしたら彼女が目を開けて

「もう少しだけ」


 今度は少しだけ長く唇を合わせた。


「達也、嬉しい。必ずあなたの心を私に向かせるから。今日はありがとう。プール行く日は後で連絡するね」

「はい」


 先輩が嬉しそうな顔をして玄関の中に入って行った。



 俺は家に帰りながら

 みかし…いやもう加奈子さんと呼ぶか。彼女だけだったら。俺の前に居る人(女性)が彼女だけだったら喜んで彼女の気持ちを受け入れただろう。


 でも今は立花玲子さんという人がいる。親は俺達を一緒にしたいらしい。彼女も俺に好意を寄せているのがはっきり分かる。でも彼女にはやっと友達になった位の気持ちしかない。

 無下には絶対に出来ない。断るならしっかりとした理由がいる。一緒になるなら皆喜びしかないが断るなら玲子さん、父さん、立花さんにも納得して貰う理由が必要だ。

 他の女の子が何となく好きだからでは理由にならない。


 早苗はどういうつもりなのか分からない。単にからかわれているとは思えないし…。

 

 涼子があんな事にならなければ、こんな事悩む必要無かったのに。


――――――


 達也青春真っ只中です。


次回をお楽しみに


面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。

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