第20話 ケジメは付ける必要がある



 俺は全く知らなかったが、世の中にはホワイトデーというものがあるらしい。それを入知恵したのは妹の瞳、朝ご飯を食べている時だった。


「お兄ちゃん、チョコのお礼考えている?」

「何だそれは?」


「えっ、もしかして知らないの?バレンタインデーに貰ったチョコのお礼だよ」

「そうか、じゃあ今度お礼言っておく」


「違う違う、もうお兄ちゃん。仕方ないかあ。バレンタインチョコ貰ったの初めてだしね」


 思い切り妹から馬鹿にされたような気がした。

「瞳、なんか有るのか?」


 お母さんが笑いを堪えている。俺なんか変な事言ったのか?


「お兄ちゃん、ホワイトデーというのがあるの。バレンタインチョコを貰った女性に僕も貴方が好きですとか、あなたと一緒に居たいとか、結婚したいとかいう気持ちを込めてお礼するんだよ」

「お、おい。俺は四人と結婚しないといけないのか?」


 とうとう、母さんが笑い始めた。


「もう、本命の女性に一番のお礼をするの。その他はチョコありがとう程度でいいの」

「…………」

 俺はどうすればいいんだ。涼子も三頭先輩もクラスの名前も知らなかった二人もそんな感情無いぞ。


「まあ、お兄ちゃんの場合は、まだお礼のチョコだけで良い気もするけどね」

「そ、そうか」


 良かった。大学を出てから四人の嫁を持つのは大変だからな。もっともこの国はそれを許されていないだろうし。この国の法律とバレンタインデーは合っているのか?


「お兄ちゃん、また変な事考えているでしょう。四人をお嫁さんにしようとか」

 やばい、何で瞳は俺の考えている事が分かるんだ。


「分かるよお兄ちゃん。瞳お兄ちゃん大好きだから」

 ますます分からなくなって来た。



 学校に行きながら答えの出ないホワイトデー(ラビリンス)を考えていると

「達也おはよう」


 げっ、なんで早苗がいるんだ。こいつもっと早い時間に登校するだろう。

「達也、私だってこの時間に登校することだってあるわ」

 だめだ、俺の頭駄々洩れだ。おかしい。


「ふふっ、生まれた時から達也と一緒に居たんだもの。あなたの考えている事位分かるわよ」

 いや分からなくていいのだが。


「達也、チョコいくつ貰ったの。ゼロじゃないよね」

「四つだ」

「よ、四つーーー!」

 そんな、達也がそんなにもらえるはずがない。中学の時だっていつも貰った経験は無い筈なのに。


「だ、誰から貰ったの?」

 こいつどういう意味で聞いているんだ?


「別にいいだろう。早苗には関係ない」

「…あるわよ。幼馴染だもの。言いなさい」

 そう言っていきなり俺の腕を拳でぐりぐりして来た。痛くはないが


「おい、痛いじゃないか。何するんだ」

「達也が貰った人の名前言わないからよ」

 どういう理屈だ? 女という未知の領域に住む生き物は俺の知らない理論を持っているのか?仕方ない


「涼子と三頭先輩、それにクラスの子二人からだ」

「三、三頭加奈子!な、なんであの人があんたにチョコ渡すのよ」

「俺に言われても困る。俺も分からない」


 ま、不味い。本宮涼子が達也の彼女になった時は驚いたけど、他校の男と浮気した事で関係なくなったと思ったら、まさかあの学校一の美少女と言われ、成績学年トップの才女がこいつに目を付けるなんて。不味い、不味い、不味い。


「そ、そっかあ。まあ良かったじゃない。じゃあね。私先行くわ」

 早苗が早足で駅に向かった。ここからだと大して変わらないだろうに。


 取敢えず見栄を切ったけど何とかしないと。絶対こいつに近寄る女子なんていないと思って安心していたのに。考えないと。



学校の最寄り駅の改札を出ると涼子が待っていた。

「おはよ達也」

「ああ、おはよ涼子」


 まだ吹っ切れた訳じゃないが、こうして俺を待っていてくれるのに無下にする訳にはいかない。手は繋がないが一緒に登校する事にはしている。


「達也、お願いがあるの」

「なんだ?」


「春休み、部活があるの。それでね。毎日とは言わないけど、見に来て欲しいの。何か嫌な思いが残っているから」

 あいつの事か。


「ああ、毎日行けるか分からないが、練習日を教えておいてくれ」

「うん」


 パッと笑顔になった。笑うと本当に可愛い。それだけに茂実の白河という男に怒りが湧いた。



 ホワイトデーのチョコは妹の瞳と買いに行った。俺が分かる世界でない事は妹は十分知っていたので快く引き受けてくれた。こいつの誕生日の時は素敵な物でも贈ってあげないとな。


 ホワイトデー当日は、涼子、三頭先輩、クラスの子二人にお礼を言ってチョコを渡した。クラスの子がチョコを見て驚いていたけど、妹が選んだなんて言えないから適当に流した。


 三頭先輩には図書室で渡した。二年の教室はまだ俺にはハードルが高い。チョコを見てとても喜んでいたけど瞳は何を買ったんだろうか。家に帰ったら聞いてみよう。


 涼子もとても喜んでくれた。彼女曰く外国の有名な〇〇バとか言うチョコらしい。俺には分からん。



 三年が卒業して俺達も終業式を迎えた。これで来月四月からは二年生だ。入学して一年色々あり過ぎた。二年になったら平穏な高校生活を送りたいものだ。


 でもその前に涼子との約束がある。守らないといけない。


―――――


まあ、知らないものは知らないですよね。


次回をお楽しみに


面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。


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