第19話 三学期にはバレンタインデーがある


 冬休みもあっという間に終わり三学期が始まった。


 席替えで廊下側一番後ろになった。ついていないが仕方ない。涼子が俺の前に来た。健司は斜め前で良かった。


 涼子とは、関係を戻した訳ではないが、学校内では友達として普通に話したり昼食を摂ったりしている。部活も再開したようだ。


 彼女の様子を見ている限り白河との関係は全くない様だ。毎日の登下校、土日のいづれかは会っている。会っていない日もスマホで連絡をする。もう大丈夫だろう。


 俺が狭量なのかもしれないが、体を合せるとか手を繋ぐとかは、まだとても出来る心情ではない。

 



 一月もあっという間に終わった。妹の瞳は推薦でこの高校に決まったらしい流石だ。



 そして世の中バレンタインデーなるものがあるらしい。俺は去年まで全く縁も無かったので興味が無かったが。


 教室に入る前、廊下を歩いていてもあちこちで女子が男子にチョコを渡している。中々良い事だ。

 教室に入っても何故か男の方が浮足立ってした。


 涼子とは手は繋がないが一緒に登校している。教室に着くと


「はい達也、バレンタインチョコ。あなたの為に一生懸命手作りしたから食べて」

「ああ、ありがとう」



 ちらりと健司を見るともう机の上がチョコで一杯だ。流石イケメン。でも羨ましいなんて感情は俺には湧かない。面倒なだけだ。


 今も健司は女の子からチョコを貰っている。あれどうするんだろう。昼食時に聞いてみるか。



 一時限目が終わり、次の授業の準備をしていると後ろから肩を叩かれた。振り向くと

三頭先輩が立っている。

「三頭先輩」

「立石君、これ、手作りだから食べてね」


 うっ、周りから視線を集めている。



「わっ、三頭先輩だ。学校一の美女と呼ばれ成績トップ憧れるなあ」

「私も。今日も美しいわね」

「お、俺挨拶しに行こうかな」

「やめときなさい。相手にされないわよ。あの人に告白して涙流した人何人いると思っているの」

「そ、そうなの?」


 なんか凄い事言っている。この人そんなに凄いの?


「立石君、今日は図書室一緒にやろうね。じゃあ放課後に」


 ウィンクしていきやがった。



「ね、ね、ねえ。見た」

「見た、見た。見たー」

「も、もしかして三頭先輩の噂の彼って」

「えーっ、そんなー!」

「どしたの?」

「私今から立石君にチョコ渡そうと…。勝負にならないよー」



 おい、神様。待ち人ってこれか。俺待ってないぞ。それより祈った学校の平穏はどこ行った。


 体を元に戻すと涼子が真っ赤な顔して凄い形相で俺を睨んでいた。そして

「達也の馬鹿。ふん」


 前を見てしまった。


 確かに三頭先輩には、あれ以来先輩に告白がある都度ボディガードをさせられている。その都合で一緒に帰ったりもしていたのだが。


 結局昼休みまでに俺の所には涼子、三頭先輩、知らないクラスの女の子二人からチョコを貰った。

 神社の神様、待ち人ってこれじゃないよね。俺待ってないし。


 昼休み、俺は健司と涼子と一緒に学食で昼食を摂っている。なぜか健司の目が俺を見て笑っている様に見えるのは気の所為か。反対に涼子は機嫌が悪い様だが。



 いつものB定食を食べていると

「達也、モテるじゃないか」

「はっ、健司から言われてもな。それに俺にとってはチョコなんていい迷惑だ」

「達也、私のチョコも?」

 涼子が悲しそうな目で俺に言って来た。


「い、いやいや涼子のチョコは思い切り嬉しいぞ。うん」

「じゃあ、三頭先輩のチョコ捨てて」

「えっ、それは失礼だろう」

「じゃあ、私のとどっちが大切?」

「…………」



「本宮さん!それは言い過ぎ。達也が困っている」

「でもう」

「気持は分かるけど仕方ないよ」

「…………」




 放課後、俺は職員室で鍵を借り、図書室に行く。何故か涼子が一緒だ。

「涼子、部活は?」

「今日はいい。もっと重要な問題が発生している」

「重要な問題?」



 そのまま図書室に行くと三頭先輩が入り口で待っていた。

「達也」

「先輩、学校内じゃ…」

「待って、達也って呼んだよね。どういう意味?」

「えっ、どういう意味って?」


「本宮さん、あなたには関係ない事よ。私と達也の関係よ」

 先輩、なんで油に火を注ごうとするの?


「達也、どういう事?三頭先輩とどういう関係なの?」

「い、いや。どういう関係と言われても」


「本宮さん、こういう関係よ」


いきなり三頭先輩が俺に抱き着こうとして


スパッと涼子が俺と先輩の間に入って三頭先輩を押しのけた。


 一瞬、先輩がよろめいたが、立ち直り

「本宮さん、いい加減にして。私と達也は図書委員よ。これから図書室を開けなくてはいけないの。邪魔しないで。達也開けて」

「は、はい」

 俺、女子間闘争弱いです。


 図書室の開室処理を終わり通常運用に入ると何故か先輩は受付の予備椅子に座り、涼子は受付のすぐ前にあるテーブルの椅子に座った。


 入室してくる常連さん達が何か恐る恐る二人を見ている。アニメなら○○光線でも出し合っているのだろうか。



 何とか平穏?な内に予鈴が鳴った。室内に居た生徒達が退室を始めたので本の返却処理を行い、本棚へ本を戻して締め処理をした。図書室内を一通り見回って落とし物や汚れが無いか確認すると

「あの、二人共もう閉めます。退室して下さい」

「「分かった」」


 二人が退室したのを見計らって俺もスクールバッグを持って図書室を出ると…ほっ、二人共いなかった。


 職員室に鍵を返して下駄箱に向かうと…二人が待っていた。何も話していない。だから怖い。


 二人を無視してローファーに履き替えると


「「達也、一緒に帰ろ」」

「…………」


 無視して勝手に帰ろうとすると



ガシッっと先輩は腕を涼子は制服の袖を思い切り掴んだ。


 そのまま駅に向かう訳にもいかず


「なあ頼むから離して。でないと帰れない」

「「帰らなくてもいい」」


「もう分ったよ」


 仕方なくそのまま駅へ。周りの生徒が、何だあれという顔で痛い視線を送って来る。




 何とか家に帰る事が出来た俺は、玄関を開けるなり


「お兄ちゃん、今年はチョコあるんでしょ。頂戴」

 なんなんだ。仕方なく


「駄目だ。お兄ちゃんが全部開けてから」

「全部、えっ、ええー。一つじゃないの?」


タタタッ。


「お母さーん。お兄ちゃんがチョコ一杯貰って来たー」


 はあ、おかしいな。俺のメンタルが削られて行く。



―――――


 はて?


次回をお楽しみに


面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。


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