第14話 それからというもの


 俺は翌月曜日一人で登校した。教室に入ると涼子はまだ来ていなかった。


「おはよう達也。どうしたまるでこの世の終りみたいな顔しているぞ」

「おはよ健司。ああ、この世の終わりだよ」

「はは、まるで本宮さんと振られたみた……。えっ、お前まさか?!」

「その通りだよ。ちょっといいか」


 俺は健司を廊下の端に連れて来ると昨日のビデオを見せた。

「信じられねえ。あの本宮さんが」

「だが、事実だ」

「達也、昼話そう」

「ああ」


 教室に戻ると涼子が席に居た。俺が席に戻ると


「達也、どうしたの休みかと思って心配したよ。おはよ」

「…………」


「ねえ、どうしたの。あっ、一昨日、昨日って連絡くれてたけどごめん、親戚で用事が出来ちゃって、返信できなかったんだ」

顔の前で手を合わせて謝っている。


「SHR始めるよ。席について」

 桃坂先生が教室に入って来た。




昼休み、涼子が俺の所に来る前に健司と席を立った。

「あっ、達也待って。一緒に行こう」


 この女どれだけ俺を馬鹿にするんだ。真面目に怒った顔をして

「涼子、俺に近寄るな。他にいるだろう」

「えっ、何言って…」


 達也が高頭君と一緒に行っちゃった。どうしたんだろう。周りの人が驚いた顔して見ている。




 俺は健司と一緒に購買でパンとジュースを買うと体育館裏に行く事にした。食べる場所はないがここなら聞かれることはないだろう。


「達也、最初から話してくれないか」

「ああ、実は…」


 俺は、テニス部の交流戦の話、涼子と一か月間会えなくなった事、交流戦が終わっても土日の練習があると言いながら実際は無かったこと。

 そしてデパートのある街で見たことまでを話した。


「……。信じられないが、その交流戦の時に何か有ったんだろうな。テニス部に知合いがいる。何気なく聞いてみるよ」

「悪いな健司」


「達也これからどうするんだ。本宮さんの事。今日見る限りではしらを切っているけど」


「このビデオがある。後健司からの情報でこれが裏付け出来たら、俺が振られた事が確定だ。元々こんな顔だ彼女が数か月居ただけでも良かったと思うしかない。涼子には、これを証拠に別れるって話をして…てかもう振られているか。はははっ」


 少しだけ涙が出て来た。振られるってこんなものなのか。



 

 その日の放課後、下駄箱で履き替えていると珍しく涼子が居た。

「達也一緒に帰ろう」

「…………」


「ねえ、どうしたの。私達付き合っているんでしょ。一緒に帰ろうよ」


 俺の手を捕まえようとしたので振り払った。

「痛っ!」


「悪いな、手加減したんだけどな」


 俺はそのまま一人で家に帰った。


 どうしたの達也。



 翌日の昼食時には健司からの情報が入った。交流戦を行った相手先の高校の白河修二という奴が涼子に目を付けてちょっかいを出したらしいという事だった。イケメンで女癖が悪いという事も。

 これで十分だった。



 その日も放課後下駄箱で涼子が待っていた。


「達也、一緒に帰ろう」

「お前はレギュラー維持で練習が忙しいと言っていたじゃないか。あれは嘘だったのか」

「私はテニスより達也のが大事」


「…。テニスより俺のが大事か。なるほど。だが俺より白河修二の方が大事なんだろう。もう俺に近寄るなよ。そいつと付き合えばいい」


「白河なんて人知らない」


 流石に頭に来た。


「じゃあ、これは何だ」

 俺は涼子と白河がラブホに入っていく姿をスマホのビデオで見せた。


「っ!……。知らない。知らない。これは私じゃない!」

「いい加減にしろ、いつからお前そっくりな人間がテニス部にいる事になった。どうせ今度の日曜もこいつと会うんだろう。もう俺に近付くな」


 怒鳴りつける様に言ってやった。流石に怖かったのか。驚いていたが。そんな事はもう知らない。




 本宮涼子視点


 どういう事、何で達也が白河の事知っているの?なんであの姿を達也がビデオにとっているの。


 あいつとはあの時としつこいからもう一度だけ付き合った。誰も分からないと思った。後は会ってもいない。連絡もしていない。

 メッセージもブロックして通話はすべて消去している。達也には分からないはずだったのに。


 テニスだってやっぱり達也と会っている方が良いと思って、練習も元に戻したのに。

 達也とは別れたくない。別れたくない。何とかしないと。


…………。


 俺は、涼子と下駄箱で別れた後、急いでそのまま爺ちゃんの道場に行った。まだ門下生も残っていた。


「珍しいな。達也がこんな時間に来るとは」

「爺ちゃん。俺に稽古を付けてくれ」

「そうか」


 思い切り爺ちゃんにぶつかって行った。何回も負けた。何回もぶつかった。でも空手も棒も一本も取れなかった。


「はあ、はあ、はあ。もう一回」

「止めとけ達也。今のお前では一本も取れないどころか怪我をする事にもなる。心が乱れすぎじゃ。振られたか?」

「爺ちゃんには敵わねえよ」

「ははは、達也、心を落ち着かせろ。今のお前では点しか見えていない。面で見ろ。立体で見ろ。空間で見ろ。おのずと力を入れる場所が見えてくる」

「……分かったよ」

「達也、武術も恋愛も鍛錬あるのみだ」

 まだ、恋愛に鍛錬の意味が分からない?



 家に戻った。


「ただいま」


タタタッ。


「お帰りなさい。お兄ちゃん。お爺ちゃんの道場に寄って来たの?」

「ああ」

「何で……。あっ!そういう事か。瞳いつでもお兄ちゃん慰めてあげるからね」

背伸びして俺の頭をなでて来た。


「止めろ瞳」


「えへへ」


タタタッ。


「お母さん、お兄ちゃんが彼女さんに振られたよー」


 もう好きにしてくれ。


 俺は先に風呂に入ってからダイニング行くと、夕食後また、母さんと瞳から執拗に質問攻めに有った。


そして母さんが

「うーん、あの子がねえ。にわかに信じられないけど。そんな子には見えなかったから」

「私も。でも証拠があるんじゃなあ」


「二人ともありがとう。でももういいよ。こんな顔で何か月か涼子が俺の彼女になってくれただけでも嬉しいし。教室では静かにしとくよ」

「お兄ちゃんらしいな。そういうのはラノベとかでは修羅場とかになるんでしょ」

「瞳、読む小説変えろ。それに騒ぎたくない」

「達也がそれで良いというなら私は何も言わないわ」



 俺は自室に入った後もう涼子の事は考えない様にしようと思ったが、教室でしつこくされるのも困る。はっきり言うしかないのかな。


 …しかし、俺は家族には恵まれているな。爺ちゃんも母さんもそして妹にも。みんな俺の事を考えてくれる。

 父さんは立場が立場だからあまり話す機会もないが今度相談して見るか。

いや待て待て。高一の男子が父親に恋愛の話はないか。この案は却下だ。


―――――


 達也は優しいのかな。どうなんだろう?


次回をお楽しみに


面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。


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