第15話 幼馴染への頼み事


 私本宮涼子。学校のある駅の改札で達也を待った。彼が改札から出て来た。

「達也、おはよう」

「…………」


 周りの人が私達をジロジロと見ている。仕方なく達也の後ろを歩いた。

少しだけ人が少なくなった所で

「達也お願い。聞いて」

「…………」


「ねえ、お願いだから。あれは私じゃないの」

「…………」


 振り向きもしないで彼は歩く、全然歩幅が違う。私は早足で歩いた。彼が普段歩く速度を私に合せてくれていたのが良く分かった。


 学校が近くなってきて生徒も多くなって来たので、もう達也には声を掛けなかった。


 お昼休みも一緒に食べない。高頭さんと二人で学食で食べていても私が近づくと食事中でも去って行ってしまう。

 彼が図書室の当番を終えて下駄箱来るのを待った。彼が来たので

「達也一緒帰ろう」

「…………」


「ねえ、聞いて。あれは私じゃない」

「…………」


 全く口を利いてくれない。どうすればいいんだろう。



 俺は本宮涼子という女を信用する事が出来なくなっていた。テニスの練習と言って白河と会っていたのも、俺が連絡しても出ない理由を親戚の用事と言った事も。


 最初から話してくれればまだ聞く耳は持っていたかもしれない。それなのに…。挙句白河という男とラブホにまで入っておいて、あれは私じゃないと言っている。どう聞く耳を持てばいいんだ。

 俺は二度と話したくなかった。




 そんな日が何日か続いたある日、登校時間に珍しく早苗と会った。

「達也、おはよ」

「ああ、おはよ早苗」

「噂何となく聞いているわよ。本宮さんに振られたんだって」

 俺が振られた事になっているのか。裏切られたと思っていたのだが。一番頼みたくない相手だが仕方ない。


「なあ、早苗。当分俺と一緒に登下校してくれないか?」

「はっ、私が達也と登下校しろと。まあしても良いけど理由次第ね」

「言わない訳にはいかないか?」

「あのねえ。私があなたと登下校するという事はよ。私があなたと付き合っている様に見られるかもしれないのよ。それを理由も聞かずに従えと言う訳」

 やっぱり頼む相手を間違えたか。


「いや、従ってくれとは言っていない。頼むと言っている。理由は…」

 仕方なく本宮涼子の事を話した。


「なにそれ、達也が振られたには変わらないけど本宮さんを他の男に寝取られたって事?」

「そんな事になるのか?」

「はあ、それも分かっていないのか。まあ達也らしいけど。まあいいわ。いつまですればいいの。後この代償は?」

「いつまでか分からない。代償は幼馴染のよしみという事で」

「何言っているの。依頼交渉決裂ね。じゃあね」


「おい、ちょっと待て。何が望みだ?」


 先を歩き始めた早苗がこっちを振り向いて

「ふふふっ、どうしようかな。まあ貸一つにしといてあげる。但し永久に期限無しよ」

「…………」

 どういう意味で言っているんだ。



 俺と早苗が学校ある駅の改札を出ると涼子が待っていた。


「達也おはよ、一緒に…」

「本宮さん、今日から達也は私と一緒に登下校するの。じゃまだからどいて」

「な、何を言っているんですか。達也の彼女は私です」

「本宮さん、自分の胸に手を当ててよく考えなさいよ。浮気女!達也行こう」

 女の子ってこえー。


「そんな…」


 下駄箱まで来ると

「達也、下校は午後三時半ね。今日はちょっと無理。用事がある。明日からにしてくれない?」

「仕方ねえな。明日から頼む」

「じゃあねえ」

 手をひらひらさせながら歩いて行った。


 俺は教室に入って自分の席に着くと


「健司おはよ」

「おはよ達也。どうだ本宮さん」

「しつこく付きまとわれている。だから登下校は早苗に頼むことにした」

「早苗?」

「ああ、俺の幼馴染だ。桐谷早苗。1Bだ」


「えっ、桐谷さんって、あの桐谷さん?」

「なんだ健司、早苗の事知っているのか?」

「何言っているんだ。学年じゃ可愛さで相当の人気者だぞ」

「あれがか?世の中分からないものだな」

「俺、達也の基準が分からない」




 その日の放課後、俺が図書室に行って開室処理をしていると涼子がやって来た。


「達也」

「…………」


 逃げ出す訳にもいかず、そのまま無視していると他の生徒がやって来た。涼子は

「お願い、説明させて」

「ここは図書室だ。静かにしてくれ」

「…………」


 涼子が図書室を出て行った。まったく今更どういうつもりだ。


 予鈴が鳴って閉室の時間になると室内に居た生徒が帰り始めた。


「立石君。もう終わるでしょ。一緒に帰ろうか」

「三頭先輩どういう意味ですか?」

「えっ、その通りよ。それとも私と一緒に帰れない理由でもあるの?」

「…ないです」

 全く、何で俺は断れないんだ。腕立て百回で女子の免疫が向上しないものかな?


 いつもの締め処理をして入口に鍵を掛けた後、職員室に鍵を返しに行った。三頭先輩は下駄箱で待っていてくれるらしい。


 下駄箱に行くと三頭先輩と涼子が睨み合っていた。

「あっ、達也。一緒に帰ろう」

「何言っているの。立石君は私と一緒に帰るのよ。ねえ立石君」

「そんな…」


 俺はローファーに履き替えると

「三頭先輩、帰りましょうか」

「ええ」

 俺と三頭先輩は、涼子を無視して下駄箱を出た。涼子が追って来る様子はない。


「どうしたんですか先輩。俺と一緒に帰ろうなんて?」

「ねえ、お願いが有るんだけど」

「何ですか?」

「学校の外では先輩は止めてくれないかな。私加奈子って名前があるの。名前で呼んで」

 何を言っているんだ。女子をいきなり名前呼びなんか出来る訳無いじゃないか。


「名前呼びなんか出来ないと思っているんでしょ。彼女じゃないから。別に良いじゃない彼女じゃなくっても。幼馴染さんも名前呼びでしょ。私も友達と言う事で名前呼びして」

「幼馴染って…なんで三頭先輩が早苗の事を」

「ほら早苗って言っているじゃない。加奈子って呼んで。そしたら理由を教えてあげる」


 何という理不尽な。一緒に帰ってくれたのは嬉しいが、先輩を名前呼びは出来ない。

「すみません。名前呼びは出来ないです。せめて三頭さんでは駄目ですか?」

「ふふっ、いいわよ達也」

「…………」


「あっ、もう駅ね。私こっちだから。じゃあねえ達也」

「あっ、理由は?」

「まあいいじゃないそんな事」


 行ってしまった。 


―――――


 達也モテ期到来?


次回をお楽しみに


面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。

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