第5話 初めての事だらけ
嵐の様な昨日の事も朝になると何も無かったかの様に静かだ。だいぶ良い季節になった。
机の上に置いてある目覚ましを見ると、まだ六時。もう少し寝ていられる。
目を閉じてもう一度寝ようとすると、昨日の事が思い出された。つい頬に手をやると
嬉しさより恥ずかしさの方が大きくなって顔が熱くなるのが分かった。
参ったなあ。俺が女子と付き合うのか。この俺が!
中学時代から言い掛かりをつけられては、喧嘩を売られて相手にしていたこの俺が!
それも随分無くなった思ったら…。
今度は未知の領域に住む女の子という全く相手をした事のない生命体が攻めて来た。俺が歯の立たない状況になっている。今日から一緒に登校かよ。
それもクラスで人気のある本宮涼子と。またなんかありそうだな。男相手なら何とかなるんだが。
そんな事を考えて眠らずにいると目覚ましが鳴ってしまった。
俺が家を出ると、げっ、不味い。なんでこの時間に。玄関で立ち止まって、あいつが行くのを待っていると、うわぁこっちを見た。直ぐに隠れたが
スタスタスタ。
「おはよう。達也。なに隠れているの?」
「あ、ああ。早苗か。ちょっとお腹痛くなってな。あっ痛たた。俺家に戻る」
「待ちなさい」
制服の裾を掴まれた。
「達也、駅まで一緒に行こうか♡」
「あっ、俺。急いでいるんで」
「駄目!」
「分かったよ早苗」
桐谷早苗(きりたにさなえ)。俺と同い年の幼馴染。髪の毛は肩まであり、大きなクリっとした目で可愛い。隣の家に住んでいて小さい頃はお風呂も一緒に入った仲だ。
だが、俺はこいつが苦手だ。いわゆる陽キャという奴だ。圧倒的なボリューム感で俺を責め立てる様に話をしてくる。
避けるほどではないが、なるべく会わない様にしている。同じ長尾高校に通っているがクラスが違うので顔を合せる事は無い。
しかしよりによって今日に限って。最寄りの駅まで一緒に歩くが喋りっぱなしだ。
何処からそんなに言葉が出て来るのかと思う。
学校のある駅に着くと
「達也」
あちゃー。涼子が声を掛けて来た。
「おはよう、涼子」
「えっ、なになに。達也この人、中学の時一緒だった本宮涼子さんだよね」
「そうだよ」
「なんであなたを名前呼びなの?」
「桐谷さんお久しぶりです。達也とは昨日からお付き合いする事になりました」
「そ、そうなの達也?」
「ああ、本当だ」
「ではこれで桐谷さん。達也行こう」
ど、どういう事?あの強面達也に彼女?????
早苗が追いかけてくることは無かった。
「達也、何で桐谷さんと一緒に電車に乗って来たの?」
「朝捕まった。あいつとは登校時間がずれているはずなんだが、今日に限って一緒になった」
「ふうん、そうなんだ。ねえ手を繋がない?」
「それはまだ勘弁してくれ。流石に昨日からの事が、まだ頭の中で処理しきれないでいる」
「ふふっ、いいわ」
ちょっとだけわざと彼の手を掴むとサッと引かれてしまった。
「涼子、頼むからやめてくれ」
本当に女子に免疫無いんだ。私が初めての彼女か。嬉しいな。
下駄箱で上履きに履き替えて一緒に教室に入ると、凄い視線だ。
「達也、また後でね」
「え、ええーっ、ねえ聞いた聞いた」
「うん、うん」
「本宮さん、立石君の事名前呼びしたよね」
「もしかして二人付き合い始めた」
「そうかも」
「「きゃー!!」」
俺が自分の席に着くと涼子はもうクラスの女子に囲まれていた。
「なあ、達也。おまえ本宮さんと付き合っているのか?」
「ああ、昨日からだけど」
「そ、そうか。良かったな」
「ああ、ありがとうな」
涼子の周りはまだ騒いでいる。クラスの男子の視線が痛いが、俺に口を開く奴はいない様だ。
お昼休みになり、
「達也、学食行こうか?」
「えっ、…ああ、そうするか。健司お前は…」
もう席にいなかった。
学食で俺はB定食、ボリューム感満載の定食だ。涼子はサンドイッチだ。二人で空いているテーブルに座ると
「涼子、それで足りるのか?」
「女の子は気にするのよ。色々と」
「そんなものなのか」
なんか変に視線を感じる。
「達也、明日から私お弁当作ってこようか」
「いやでも悪いよ」
「でもここ食べ辛い」
「そ、そうだな。お弁当大変だから購買で買う事にするよ」
「別に作るの構わないんだけど」
「まだ、頭の中が処理しきれない。女の子に作って貰ったお弁当でお昼一緒になんて」
「達也は私の手作り弁当食べたくないの?」
「そんな事ある訳ないだろう」
「じゃあ、作って来るね。嫌いなものある?」
「ない」
俺達は視線が厳しい学食を早々に退散すると校舎裏にある花壇に来ていた。
「ねえ、もうすぐ学期末考査だね。一緒に勉強しない」
「いいよ」
「本当、嬉しいな。じゃあ今度の土曜からする?」
「でも土曜は涼子は部活があるし、俺も図書室担当だ」
「そうか、じゃあ日曜日?」
「良いけど、どこでする?」
「うーん、どうしようか。うちに来る?」
「えっ、い、いやいや、女の子の部屋入れない」
「私の部屋じゃない。リビングですればいい」
「そっか。そうするか」
土曜日は達也と一緒に帰ったが、せっかくだからとファミレスで勉強会をした。初めてのデートかな?
翌日は、午前十時に彼女の家の最寄り駅の改札で待合せた。十分位前に着くともう彼女が待っていた。ピンクのTシャツに少しクリーム色の膝上スカートに白のスニーカーだ。
俺は黒のTシャツとジーンズに黒のスニーカー。
「待ったか?」
「ううん、私も今来た所。行こうか」
「ああ」
涼子の家は駅から五分程の所の住宅街の一角だ。彼女が玄関を開けて
「ただいま。来て貰ったよ」
スタスタスタ。
「いらっしゃい」
じっと俺を見ている。彼女のお母さんだろうか。驚いた顔をしている。
「こちら、私とお付き合いしている立石達也君。お母さん宜しくね」
「初めまして。立石達也です」
しっかりとお辞儀をすると
「あ、上がって下さい。涼子リビングは用意してあるから」
「ありがとうお母さん」
彼女のお母さんが奥に消えると
「達也上がって」
「うん、ありがとう」
しかし、この俺が女の子の家に上がるなんて。
「どうしたの達也?」
「いや、恥ずかしいなと思って」
「ふふっ、少しずつ慣れよ♡」
リビングには既にお茶菓子と冷たい飲み物が用意されていた。
「さっ、始めようか。中間と違ってしっかりと出題されるはずだからがんばろう。まずは復習からね」
「そうだな」
昼過ぎまでしっかりと勉強した。お昼は彼女のお母さんが作ってくれた。そして午後四時まで休憩を挟んで勉強すると
「うわーっ、流石に疲れた。達也もう終わりにしよう。せっかくだから散歩しようか」
「そうだな。俺も流石にもう集中出来ない」
彼女のお母さんにお礼を言って家を出ると
「ねえ、こっちに行くと河川敷の公園があるんだ。十分位歩くけど行かない?」
「いいよ」
涼子と一緒に河川敷の公園を歩いていると彼女の目がキラキラしている。並んで歩く横顔を見ると本当に可愛いと思う。俺の初彼女って涼子で良かったな。
「私の顔に何か付いているの?」
「いや、可愛いなあと思って」
「ばか」
下を向いて耳まで赤くしている。
「ずるいよいきなりそんな事言うなんて」
「でも、本当の事だから」
彼女が顔を上げると俺の顔をじーと見た。夕焼けに栄えてとても可愛い。ちょっと背伸びした。何しているんだろう?
「ねえ」
再度思い切り背伸びして目を閉じた。えっ、これって、え、ええー。あっ、また目を開けた。そしてもう一度目を閉じると
「達也…」
うー、これってあれだよな。ゆっくりと顔を近づける。近づける、後もう少し。
チュ。
柔らかい唇が触れただけだった。
彼女が下を向いて耳まで赤くしている。俺は多分茹でタコだろう。
「達也が初めて」
涼子がしがみついて来た。
「俺も始めただ」
うーっ、しがみつかれているよ。どうすりゃいいんだ。手をぶら下げたままにしていると俺の胸に涼子が顔を埋めたまま、
「ねえ、私の背中に手を回して」
「こっ、こうか」
「うん、優しくね」
少しだけそうにしていると
だめだ。だめだ。だめだーぁ。これ以上してたら心臓があぁぁぁーー。
「りょ、涼子。ごめんこれ位で勘弁してくれ」
しがみついたまま
「ふふっ、いいよ始めてだものね」
―――――
あらら、まあ、そうなるか。
次回をお楽しみに
面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。
感想や、誤字脱字のご指摘待っています。
宜しくお願いします。
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