第4話 私と付き合ってみようか


 俺はいつもの様に教室に入ると本宮さんが女子と男子に囲まれていた。一瞬だけこっちを見たが、直ぐに目の前の人に視線を戻した。


 何となくいつもと違う視線を感じながら自分の席に着くと

「おはよ達也」

「健司おはよ」

「達也ちょっと良いか」

 自分の体の前で右手人差し指で廊下を指している。


二人で廊下に出ると

「達也お前本宮さんと付き合っているのか?」

「いや別に」

「そうか、お前と本宮さんが放課後毎日の様に仲良く一緒に下校している姿を何人かが見たらしくてな。それでお前と本宮さんが付き合っているんじゃないかという噂が立った」

「…………」


「否定しないのか」

「本宮さんと一緒に下校しているのは本当だ。でも付き合っているとかじゃない。同中で帰る方向が同じだというだけだ」

「でもその理由じゃあ、一緒に帰る理由にならないだろう」

「まあ、そうかもしれないが」

 やっぱりこうなったか。どうしたものか。



 月曜日という事も有って、三頭先輩と最後まで一緒に図書室の担当した後、鍵を職員室に返して下駄箱に向かうと


「立石君、一緒に帰ろ」

「ああ」


校門に行きながら

「何か変な噂立っちゃったね」

「うん?どんな?」

 一応聞いてみた。健司が言っていた事と違う場合もある。


「知らないの?私と立石君が付き合っているっていう噂」

「ああ、それなら知っている。言いたい奴には言わせとけばいい」

「はあ、メンタル強いな。初めて一緒に帰った時と全然違うじゃない」

 最初は話をするのも大変だったのに。


二人で駅まで彼女の歩く速度に合わせて歩いていると

「どうしようか?否定するそれとも…肯定する?」

「…どういう意味で言っているんだ?」

「そのままよ。私はいいわ立石君と付き合っても」

「…俺なんかと付き合っても本宮が嫌な思いするだけじゃないか?」


 彼女は俺の歩く前にいきなり出て来て

「前にも言ったけど、私の意思で一緒に帰っているの。人の事なんて関係ない。だから…」

「本宮、俺のどこが良くてこんなに一緒に居てくれるんだ?」

「…好きだからに決まっているじゃない」

 下を向いて固まってしまった。耳まで真っ赤にしている。こういう時はどうすればいいんだ。マニュアルとか無いのか?


「ねえ、何とか言ってよ」

「あ、ああ。そうだな。どうするか」

 俺は本宮の事、友達としかみてないしなあ。好きだと言われてもなあ。


顔を起こして俺の顔を見上げると

「どうするかなの?私と付き合ってくれないの?」

「そう言われても」

「そうか…、私が勝手に思い込んでいただけなのね」

 じっと俺の顔を見ると本宮はそのまま駅まで走って行ってしまった。


 立石君が一緒に帰ってくれる様になって色々話も出来る様になって、初めて声を掛けた時からすれば一杯心開いてくれるから、私の事少しでも好きになってくれていると思ったのに。私の片思いだったんだ。


 駅の改札を通るとそのままいつものホームで電車を待った。涙が止まらないから前を向けない。


 電車、何で中々来ないの。


「本宮」


涙顔を少し上げると

「少し話さないか」


私達は人の少ないホーム先頭の方のベンチに座った。少しいるけど構わない。


「…………」

「…………」


「本宮、さっき俺の事好きだって言ってくれたけど…俺のどこが好きなんだ。自分でこんな事言うのもおかしいが、顔は怖いし、素っ気無いし、お前ともうまく話せないし」


「違う、違うよ。立石君は、心が優しくて自然を大切にする人だよ。私にだってとても優しい。

 君が中学校の頃、迷子になって大泣きしていた子供の手を引いて交番まで一緒に行ってあげたり、

 道端のタンポポの花を見て微笑む君の眼はとても柔らかくて優しさに溢れていた。

 私にだって、一方的に下校一緒にしよっていても、断らずに一緒に帰ってくれた。 色んな事も話してくれた。

 武術習っているんでしょ。私を守ってくれそうだし。こんな人が私の彼になったら嬉しいって思っていた。

 そしたら今回の噂が流れて…、私には丁度良いきっかけだと思ったんだ」


 本宮はそんな風に俺を思っていてくれたのか。やはり俺は……。


「…そうか。素っ気無くして悪かったな。でも俺で本当に良いんだな?」

「うん」


「じゃあ、付き合うか。でも俺何も知らないぞ。全く初めての事だから」

「ふふっ、いいよ。一緒に考えよ。私も知らないから…。ねえ付き合ったなら明日から一緒に登校して」

「え、ええ、えええーっ!」


「付き合う事にしたんだよね」

「ハイ」

 うっ、なんか。おかしいけどまあいいか。


 ふふふっ、やったぁー。立石君と付き合える。頑張って告白して良かった。


「ねえ、もう一つ良い?」

「何?」


「名前呼びしよ。達也」

「え、ええ、ええーっ。な、名前呼び!」

「付き合う事にしたんだよね。なら名前呼びだよ。ハイ練習。涼子って呼んで」


「りょ、りょ、涼子しゃん」

 ふふっ、可愛い噛んでる。


「駄目、涼子」

「りょ、涼子」

「良く出来ました」


 チュ。


「ひっ!」

頬に柔らかい物が触れた。


 ふふっ、彼の顔が真っ赤になっている。可愛い。




 俺はりょ、涼子と彼女が降りる駅で別れると下を向いてしまった。気の所為か周りの人がニコニコしている。


「ただいま」


タタタッ。


「お兄ちゃんおかえ…ぷっ、ぷっ、ぷー。お兄ちゃんそのままの顔で帰って来たの。洗面所の鏡で自分の顔見たら」


 タタタッ、


「おかあさーん。お兄ちゃんがー」


 どうしたというんだ。俺は妹に言われた通りに洗面所に行って鏡をみた。


 そして俺の顔は茹でタコになった。頬に口紅が付いている。


 こ、この顔で帰って来たのかあぁぁぁぁーーー!


 俺はその後、妹と母さんから散々の追求、いや執拗な追及を受けて全て吐いてしまった。


 母さんが、

「達也、早く会わせてね」

「…………」


―――――


 恋愛初心者、立石達也の春の訪れです。


次回をお楽しみに


面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。

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