あとがき
ここまで読んでくださり、ありがとうございました。
『雨に恋う』は、わたしにしては珍しく短めの作品です。A4用紙で98枚。「長いじゃないか!」と思われる方もいらっしゃるかもしれません。ですが、長編大好きで長ければ長いほど燃えるわたしにしては、100枚以内で完結させられた稀有な物語です。そのため、短編小説という位置付けにしておりますことを、あしからずご了承ください。
この物語の構想を思いついたのは2008年、大学生の頃でした。
正確に言うと、ぼんやりとしたモチーフは、それより随分前からずっと温めていました。にわか物書き活動を始めた小学校高学年の頃から、雨をテーマにした物語と、亡くなった恋人を思い出の場所で待ち続ける女性の物語を書きたいと思っていたのです。
理由は訊かないでください。きっかけはわたしも覚えていません。でも、そのモチーフを基に物語を描くには決定的な何かが足りないと、いつも人知れず悩んでいました。
書きたい思いだけを延々温め続けていた大学時代、物語が生まれるきっかけが唐突に降ってきました。それは、平原綾香さんのアルバム『Path of Independence』のうちの一曲である『雨のささやき』を聴いていた時のこと。歌詞に引きずられるように、脳内でまだ見ぬ物語が映像となって、ばあっと展開していったのです。
夜。降りしきる雨。綺麗な庭。小さな噴水。東屋で雨を眺める美しい女性。聴こえてくる澄んだ歌声。それらのイメージが、たちまち散らばったパズルのピースのように繋がっていって、ずっと書きたかったモチーフが一つの物語に姿を変えました。
当時は別作品の執筆に集中していたので、プロットだけ作っておいて寝かせていました。実際に書き始めたのは2010年の夏です。社会人なりたてだったわたしは、新米駅員としててんてこ舞いな日々を送る傍ら、合間を縫って『雨に恋う』を書いていきました。
2012年に完成した後は、当時運営していたmixiページに掲載し、フォロワーなら誰でも読める形で公開していました。短編と言っておいて、この長さは詐欺なんじゃないかと突っ込まれてもおかしくない物語でしたが、イイネやコメントをいくつか頂戴できてほっとしたのを覚えています。(当時読んでくださった方、ありがとうございました!)
そんな感じで、わたしの長年の思いが結実してから数年後、新海誠監督の『言の葉の庭』を観て衝撃を受けました。わたしが『雨に恋う』で書きたかったものや、書こうとしていたイメージが、見事なまでに結構似通っていたからです。
わたしが『雨に恋う』を執筆していた当時、当然ながら『言の葉の庭』のことは一切知りません。なのでこれは全くの偶然なのですが、あまりの被り具合に「どうしよう。これ、読んだ人から『パクリじゃね?』と言われるんじゃ……!?」と恐ろしくなりました。
そして同時に、「『言の葉の庭』を観る前に『雨に恋う』を完成させておいてよかった」とも思いました。もし先に『言の葉の庭』を観ていたら、作品自体の完成度の高さと、雨の描写の美しさや繊細さに、にわか物書き心をボッキボキにへし折られ、わたしが思う雨の物語を描こうなどとは、とても思えなかった気がするからです。
そんな予期せぬ偶然があったため、mixiページを閉鎖して以降は、この小説はお蔵入りにしていました。インターネット上に掲載して、「『言の葉の庭』のパクリじゃね?」と言われるのが怖かったからです。「名も知れないにわか物書きの分際で何を生意気な」と思われるかもしれません。ですが、リスクはどこに潜んでいるか分からないというのが、少し前までのわたしの気持ちでした。
でも、長編小説の更新が続々と最終回を迎え、次に公開する作品は何にしようか……と考えていた時に、「『雨に恋う』をお蔵入りにしておくのってどうなんだろう」とふと思ったのです。せっかく書きたくて書いたのに、それって物語に対して失礼なんじゃないかと。
パクリじゃないなら、その旨をきちんと書いた上で堂々と公開すればいい。何も恥じたり悪く思う理由などないのだから、わたしの作品としてちゃんと日の目を見させてあげるべきだ。そう思い直し、改めて公開することにしました。
そういった経緯があるので、読んでくださった方の中には、「これ、『言の葉の庭』とめっちゃ似てるとこあるけど……」と思われた方もいるかもしれません。いないかもしれません。
ですが、似ているのはあくまで偶然です。恣意的なものでは決してありません。あれはあれ、それはそれという感じで、咲原かなみが書いた一つの物語として、どうか受け止めてやってください。
にわか物書きをしていると、こういう不思議な偶然にはちょくちょく出会います。その度、既存作品にも自作小説にも誠実であるためのやり方を模索しています。ご理解いただけましたら幸いです。
付け加えて言うと、『言の葉の庭』は素晴らしい作品です。ぜひ映像で一度はご覧になってみてください。雨の見方ががらりと変わること間違いなし!
最後に謝辞を。『雨に恋う』もやはり、たくさんの人に支えられつつ完成した物語でした。
にわか物書きの趣味をさりげない温かさで見守ってくれる家族や、いつも読んで応援してくれる友人たちに心から感謝を。
そして、最後まで読んでくれたあなたへ。この作品を通じて、あなたと出会えてよかったです。これからも頑張り続けるので、どうぞよろしくお願いいたします。
それではまた、次回作でお会いできますように。
咲原かなみ
2022年8月20日
雨に恋う 咲原かなみ @peachan0414
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