第34話【集う狙撃手たち】

「ねえ、あと1人は見つかったの?」

「いや、まだ見つかってない。そもそも転校してまだ半年しか経ってない俺の人脈に頼ろうっていう魂胆が間違っているんだけどな」

「言い訳?みっともないわね。アタシだって1年間ほとんど不登校してたんだから人脈なんてある訳ないの。分かる?」

「開き直られてもだな……」


橘高校Eスポーツ部主催の『SR3on3』に参加するべくあと1人のチームメイトを探す総一郎と蓮花だったが、それがなかなか捕まらない。各々で得意分野の会場に赴いている為、クラスメイトが散り散りになっていて声をかけられないのだ。


「俺とお前で3人倒せばいい話だから、最悪俺たちの横で棒立ちしてもらうだけでもいいんだけどな」


そうは言うものの、内気なコミュ障の2人が見ず知らずの生徒を誘うことなどできるハズもない。ヤキモキしたまま時間だけが過ぎていく中、総一郎たちのもとに救世主が現れた。



「やあやあ、これは財津くんに涌井さん。どうやら人が集まらなくて悩んでいるようだね。そこで待望のパーフェクトヒューマン前田光が参上したというわけさ!」



ドヤ顔で現れた前田だったが、依然として総一郎と蓮花の表情は曇ったまま。

2人は顔を見合わせて、前田の処遇について囁き声で相談を始めた。



「おい、どうする?3人目のチームメイト、お前は前田でいいのか?」

「良いか悪いかで言ったら、そりゃもうちょっと精査したいけど。時間的にも贅沢言ってられないし。……仕方ないけど、アイツを迎え入れるしかないわね」



相談が終わると総一郎は渋々、前田に手を差し出した。

彼らの胸中などいざ知らず、チームとして認められたことが嬉しくなった前田は力強く手を握り返して熱い握手を交わす。



「流石は僕の大親友だ!必ずや役に立って見せよう!それで、どこのブースに挑戦しにいくんだい?」

「コレだ。前田はゲームとかやったことあるか?」



総一郎が文化祭のしおりを開いて見せると、前田は任せろと言わんばかりに首を縦に振った。



「なるほどFPSかい。確かに経験はないけど、大丈夫。銃を撃つイメージはできてる。脳内の映像をそのまま体現すればいいだけだろう?」

「……まあなんというか、とりあえず頼む」



根拠のない謎の自信に満ち溢れている前田を引き連れて、3人はEスポーツ部の部室に向かった。



校舎の中、パソコンが大量に設置されたEスポーツ部の部室。

仄暗い部屋にモニターの光だけが強烈に白く光る。そして虹色に光が移ろうマウスとキーボードが、なんとも幻想的な雰囲気を醸し出していた。


暗闇の中から何者かが歓迎しているのが分かった。近づいてみると、銀縁の丸メガネをかけた痩せ型の男。どうやらこの男が、ブースを取り仕切っているようだ。



「挑戦に来た人たちだよね? へぇ~、男女で仲良くねえ。悪いけど、僕たち全く手を抜くつもりはないからね?そこんところよろしく」



男は蓮花を顔を一瞥すると、一気に態度を悪くして挑発的な言葉遣いになった。


当然気の強い蓮花がそれを見過ごすハズもなく、男の嫌味に対して突っかかる。



「この勝負、アタシ達の勝ちね。見た目で判断するような奴らが強い訳ないから」


「あぁ~いるんだよ、君みたいな勘違い女が。男にキャリーされてランクが上がっているだけなのに、さも自分に実力があると勘違いしちゃうんだ。僕たちが完膚なきまでに叩きのめしてやるから、ナイトくん達は今のうちにこの女を慰める言葉でも考えておくんだな!」



啖呵を切った蓮花に対抗して早口で捲し立てる丸メガネ。

お互いに火花を散らして一触即発の空気が漂う。

緊張感が走る中、総一郎たちは挑戦者席に通された。


用意されていたのは、有名ブランドのゲーミングチェア。

マウスやキーボードもプロが扱うような一流品。


総一郎と蓮花は早速それぞれ設定を触ってマウス感度などを調整し始めた。


見たところ機材に小細工などは見られない。あくまで実力勝負のフェアな戦いだ。



そして初心者の前田はというと、なぜか有頂天な様子で張り切りまくっていた。



「ほうほう、ありがとうございます財津くん。右クリックで照準を合わせて、左クリックで射撃。WASDで移動にRでリロード……なるほど簡単だな。この程度の操作なら、すぐに実践レベルまで昇華できる」


「基本は俺とコイツの2人で敵を倒すから心配するな。前田はなるべく死なないように動き回ってヘイトを買ってくれたらいい」


「コイツねぇ……。そろそろ名前で呼んだらどうなの?財津総一郎くん?」



SR3on3のルールは、6名とも同じスナイパーライフルを担ぎ武器のカスタムも固定のものを扱う。

両チーム攻撃と防衛に分かれて行い、1ラウンド終了すると攻撃と防衛を交代。以降は3本先取するまではこれを繰り返す。

攻撃側はマップに2拠点存在する場所どちらかにボムを設置できれば勝ち。

防衛側は、時間内にボムの設置をさせなければ勝ちだ。

加えて、死ぬとそのラウンドは復活できないため、相手チームを3人とも倒してしまえばボムの設置に関わらず勝利となる。


参加費は1プレイ1000円。

勝った場合は5000円になって返ってくるという。



「スナイパーは頭を撃ち抜かれたら1発で即死だ。首から下ならギリギリ耐えられる。つまり無闇に頭を出して覗くのは危険だということだ」


「敵の位置を把握するのが最優先よ。まあ、やっていれば分かるわ」



総一郎と蓮花の助言を受けて、武器を担いで戦場に降り立った前田。


まずは攻撃のラウンド。



――歴戦の猛者たちに囲まれたエリート新兵前田の戦いが、いま幕を開ける!



「おっ、早速敵を発見!ここは僕がプロ顔負けの狙撃の技術で、涌井さんに格好イイところを……」



――ドォオンッ!



早くも戦場に射撃音が轟く。誰かの銃口が火を噴いたのだ。


暗転する前田の画面。画面一面に表示された赤字の『DEAD』の文字。


情けなく地に臥した前田のキャラクターが上空から映され、開始からわずか10秒足らずで観戦モードに突入した。



「おぅうぇええ!?」



前田は素っ頓狂な声を上げて、自分が撃ち抜かれたことに心底驚いていた。


総一郎と蓮花は特に彼を責めることもせず、銃弾の軌道から相手の位置を予測する。


前田は相手陣営にある建物の2階の窓から撃ち抜かれていた。マップ全体を見渡せる強いポジションだ。


蓮花がすかさず、脇から回り込んで石壁に身を隠した。

この場所からなら、相手の建物の窓も狙える。相手は窓から偵察の為にチラチラと顔を出す。


頭を長時間晒し続けることは自殺行為に等しい為、撃ち抜くタイミングを合わせるのは非常に難しい。


だが、蓮花は並のFPSプレイヤーではない。

学校に行く間も惜しんで銃を撃ち続けてきた、生粋の戦闘狂だ。


相手が一瞬窓から顔を出した瞬間、自分も石壁から少し頭をズラす。


スコープを覗くと同時にマウスをスライドさせて、クロスヘアをぴったりと合わせながら左クリック。身体に長年染み付いた一連の動作だ。



放たれた銃弾は真っ直ぐ相手プレイヤーを射抜き、蓮花が見事に1キル。


しかし数的有利を活かした相手の連携によって、すぐ後ろに既に別の相手が銃を構えていた。蓮花のキャラが振り向くと同時に頭を抜かれ、蓮花もここで退場。


続く総一郎も、意表をついて攻撃しようとしていたところを逆に挟まれて1デス。

2年1組チームは、成す術なく1ラウンド目を落としてしまうこととなった。



「開幕から何も考えずにド真ん中に走ってきた奴がいてウケんだけど!マジでカモだわコイツ等!キャハハハハ!」

「テメェらみてえな勘違いリア充の雑魚をボコってる時が、いっちばんゲームやってて楽しいんだワ!」

「オケケ!せっかくの楽しい文化祭が台無しだなあ!オケケケケ!」


1ラウンド先取して大盛り上がりのEスポーツ部。

スポーツマンシップの欠片も感じられない態度に憤慨する蓮花だが、ここで挑発に乗ると相手の思うツボだと諫める総一郎。


「だいたい相手の実力も分かった。こういうタイプの相手と戦うときは、俺に策がある。ちょっと耳を貸してくれないか?」
















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