第17話 剣豪二人の二
一、
村外れの荒れ野で大勢の侍達が斬り合いをしている。
役人と浪人達のようで、役人の方が三倍近くの数が居たのだが、立ち合いに慣れてない者や若い者もおり苦戦していた。
その差がだんだんと現れてくる。七人居た浪人は三人しかやられていないのに役人達は五人に減っていた。
その内一人は斬られて腕を押さえている。
「ぎぇっ、」
また一人、役人が斬られた。
「かたは付いたな」
凄腕の浪人達で二十人近い役人に囲まれても臆する事も無く、円陣を組み淡々と斬り合いを始めた。
特に頭らしいらしい浪人の腕前は凄く、一人で五人は斬っている。
「ぐぇっ、」
二人掛かりでまた一人斬られて残りは三人になった。指揮を取っていた与力はとうに斬られている。
数の上でも優位に立った浪人達は役人達の周りを囲み、仕上げに取り掛かろうとしている。
「覚悟を決めろ!」
頭の浪人がそう叫んだ時だった。
「痛っ、」
刀を振り上げて斬り掛かろうとした浪人にの肩にくないが当たった。
「何奴!」
振り返った浪人達の前に
「随分と殺られたな」
「なんとか、間に合いましたね」
着流しの侍と旅人姿の男が二人、現れた。
「何だ。貴様は」
浪人の頭の言葉に現れた侍は刀を抜きながら
「侍ってのは残酷だな。どんなに極悪人だろうと腕さえあれば。肩を振って生きていられる。逆に世の中の為に悪人を斬ろうとしても腕が無ければ死んじまう」
「ほざくな」
くないを当てられた浪人が怒りながら、現れた侍に上段から斬り掛かる。
それを紙一重に躱しながら素早く胴を抜いた。
「ぐえっ、」
浪人が倒れる。
「逆上しちゃいけねぇな。命のやり取りをしてるんだからよ。判断が鈍る」
「何者だ。貴様は」
頭の問いに、侍は向き直り
「直方左近。隠密の与力だ」
「隠密の与力。応援か?」
「与力様!」
「直方左近殿!」
残った役人達が喜んでいる。
「虎殺しの左近か?」
浪人の一人が声を上げる。
「成るほどな。強敵か」
頭の浪人が前へと出る。
「貴様を倒せば。江戸で一番の剣豪と呼ばれよう」
「俺より強い奴は江戸にいっぱい居るぜ」
言いながら、左近はすっと刀を下段に下ろし
「ただ貴様は斬らせて貰う」
「ふん」
左近の下段の構えに用心したのか頭の浪人は
左近が先に動いた。下段から、すっと、刀を突いた。
驚く程伸びるその切っ先を浪人は大きく躱した。
左近は伸ばした切っ先を躱されると、すれ違いざまに刀を横に振った。
浪人が大きく避けたので左近の刀を空を斬った。
「用心の為、大きく避けて良かったわ」
左近の剣撃は更に続く、二、三度は躱したが四度目は躱し切れずに刀で受けた。
「ふぬっ、」
二人は同時に合わせた刀を押し込む。そして、睨み合った後に相手を弾き飛ばした。
「貰ったぞ」
離れたと同時にに浪人は好機と見て、左近に逆袈裟で斬り掛かったが、
左近は驚く程、身体を低くしてそれを躱しながら、下から腹を斬り上げた。
「ぐうっ、」
頭の浪人が倒れる。
「竹脇殿!」
残った浪人が叫ぶが浪人達の頭である竹脇は息切れている。
竹脇が斬られたのを見て、残った二人を顔を見合わせて逃げ出そうとしたが、残った三人の役人達に行くてを阻まれ、斬り掛かって逃げ道を作ろうとしたが、一人は彦佐の痺れ薬を塗ったくないを背中に当てられ、もう一人は後ろから来た左近に
「おう、」
と声を掛けられ、振り向いた所に峰打ちをされて気絶した。
二人を縛り上げると、役人。名を芝田兵庫といったが、まだ若い兵庫が
「左近様。命拾いを致しますた。ありがとうございます」
他の残った二人も頭を下げる。
左近は沢山の死体の転がった辺りを見渡して
「間に合ったのか分からぬが、三人だけでも助かって良かった」
「そうですね」
彦佐も声を掛ける。
「これから、こいつらを近くの詰所に運び、一味の事を吐かせようと思いまする」
二人は舌を噛みきらぬように竹筒を咥えさせられている。
左近はそれを見ながら
「押込強盗の一味だ。強盗先でも随分斬ったらしいからな。死んだ者の為にも何としても吐かせねばならぬ」
「はい」
兵庫は決意するようにしっかりと返事をした。
二、
左近達は近くの宿場で宿を取り逗留する事となった。左近達の目的は役人達の手助けの他にもう一つあった。
押し込み強盗達を裏で操っている元締めを突き止めて殲滅する事である。
押し込み強盗達の手口はこうだ。短い間に数件の押し込みを行い、少し休んで又、数件の押し込みを働く、浪人達だけでは無く多くの仲間が居ないと出来ない所業である。
「兄貴、奴ら吐きますかね」
左近は宿の二階の戸を開けて、人が往来している宿場の通りを見ながら
干したいか焼きをつまみに酒を呑んでいる。
「何としても吐かせんと不味いな、手掛かりが無くなるからな」
「奴ら、強さもそうですけど、戦い方を見ると、仲間と組んで戦うのが上手いというか、役割がちゃんと分けてありますよね」
「そうだな。組織化されているな。ただの浪人の集まりでは無い」
「大丈夫ですかね」
左近はぐいっと酒を飲み干すと
「一応、手を打ってはおいたが心配だな。行って見るか」
左近達が詰所に着くと案の定。捕らえられた浪人達二人は仕置きや脅しにも口を固く閉ざして白状をしなかった。
「白状しないつもりか?」
左近の問いにも唾を吐き
「黒幕は誰なのか本当に分からぬのだ」
とのたまわっている。
「兄貴、」
彦佐の心配顔に
「まあ、吐きたくなるさ」
左近が余裕を見せる。
言った物の左近は呑気に酒を飲み始めた。周りの役人達にも進めている。
「兄貴、」
彦佐の情けない掛け声に
「大丈夫だ。彦佐、お前も飲め」
半時が過ぎた頃、黒装束の男が詰所に訪れ左近に耳打ちをした。
「やはり、動いたか」
左近は立ち上がり、眠りに落ちていた浪人達を起こした。
浪人達は扱きがまた始まるのかと顔をひきつらせたが
「貴様ら、見捨てられたな。忍びの集団が襲ってきたぞ」
驚く浪人の前に黒装束の男を立たせ、襲撃の報告をさせた。
「賊どもは十数人の忍びの集団でこの詰所を襲おうとしましたが、我らは倍以上の数でそれを防ぎまして。賊は逃げ帰りました」
黒装束の報告に浪人達も目を丸くした。
「やっぱりな」
「口封じですか」
左近と彦佐が言葉を交わす。
「役人を取り逃がして、残りも二人となれば。口を封じるしかあるまい」
左近を持った木刀を浪人の一人の鼻先に当てる。
「お主らも金で雇われたのだろう。それほどまでして庇う価値があるのか」
浪人達が考え込む
「素直に話せば。島送りで勘弁してやろう。俺は隠密与力だ。約束は守る」
「分かった」
浪人達が重い口を開いた。
上野、武蔵、下総の国境辺りに松平五万石の大名家がある。そこの藩主の隆典がまだ若いのに重病で死にそうになっている。
そこでその後継に兄と弟、二人の名前が上がっている。
一人は隆典よりも三つ上で兄の義直。これは歳も二十八で利発で藩主として申し分無いのだが、母親の身分が低く、名門松平家の跡取りに相応しく無いと、弟の敬二郎。十六歳を押す者も多く、二人で家督争いになっている。
敬二郎の方はまだ歳は若いが隆典と同じ正室の子で血筋に申し分無いと優勢であったが、最近になって優れた主君を望む義直派が盛り返している。
実は義直が金をばらまき工作を行っていて、金造りの為に浪人達を使い強盗をやらせていると、義直が藩主になった暁には反義直派を追い出し、浪人達を正式に召し抱えると云う寸法である。
「なるほどな。それなら浪人達も命を掛ける価値もあろう」
「上手い話しですね」
黒幕の正体が分かったので左近達は義直の所に乗り込む事になったのだが、もう一人助っ人を付けようと指示が有り、柳生慶之助を江戸から呼び寄せる事になった。
「数が多ければ良いという物でも無いからな。慶之助殿なら丁度良い」
「慶之助様が来れば。千人力ですね」
しかし、数日経って左近達の前に現れたのは口伝会の会頭。柳沢半兵衛であった。
「何だ!お前」
無礼な左近の口聞きに
「こほん」
と咳払いしながら柳沢半兵衛が答える。
「慶之助殿がな風邪をこじらせてしまい、大事なお勤めだからと私が頼まれました」
「それで、口伝会の会頭が御一人で来たんですか」
彦佐も驚いている。江戸でも有名な口伝会の会頭が供も連れていないのだ。
「慶之助殿から個人的に頼まれたので」
「だからって、おめぇが来る事ねぇだろ。腕の達つ手下を寄こせよ。藤井とか」
「藤井は色々と忙しくて。ん、何か文句があるのですか」
度重なる左近の失礼の物言いに半兵衛も少し向きになる。
「まあ、まあ、左近様」
たまらず彦佐が割って入る。
「確かに助っ人として、これ以上の御方はおりませんよ」
「ちっ、」
左近は舌打ちをしたが、確かに彦佐の言う通りだ。今、江戸で一番立ち合いをしたく無い相手を聞かれたら、間違いなく柳沢半兵衛だ。まともにやり合って勝つ自信が無い
「まあ、まあ、とりあえずは鳥鍋でもつついて酒でも飲みますか」
「おっ、それは良いですね」
彦佐の言葉に半兵衛が答える。
「貴様。前に酒は呑まんと言っていたな」
左近の言葉に半兵衛は
「全然呑まない訳では無い、たまには飲みます」
「飲むんかい」
飄々と答える半兵衛に左近が突っ込んだ。
三、
新緑の萌える田園の中を彦佐を先頭に少し遅れて左近と半兵衛が並んで歩いている。
昨晩飲み過ぎたのか左近は頭を押さえている。
「若葉がまぶしいわ、あー、気持ち悪い」
「鳥鍋が旨くて、ついつい飲み過ぎちゃましたね」
「お前は元気だね」
「酒に飲まれないのも忍びの修行ですから」
「良かったよ。彦佐が居て。今、忍びの集団とかに襲われたら、殺られるかもしれん」
彦佐は振り替える。
「大丈夫ですよ。半兵衛様も居ますから」
半兵衛は二人の会話を無言で聞いている。
ただ、表情は左近と違って明るい
「酒、強いんだな」
左近の問いに半兵衛は
「いや、実は余り飲んではいなかったのです」
「そうなのか?」
「強くは無いので、少しづつ飲む」
「楽しくない酒だな」
「酔った所を襲われたら堪りませんからね」
その言葉を聞いて
「なら、飲むなよ」
左近が嫌みを言う
「飲みたい時もあります」
「面倒くせぇ奴だな」
左近は一度、そっぽを向いてから
「何で助っ人に来た。慶之助殿に頼まれたからか?」
そう言われて半兵衛は少し思い込んで
「それもあるが」
「それもあるが?」
彦佐が興味深く尋ねた。
「もう少し、直方左近と云う男の剣を見たくなった」
「何じゃ、そりゃ」
左近はずっこけたが、彦佐は理解できるのかうんうんと頷いている。
「天才の考えている事は分からねぇな」
左近はまだ残雪の残る遠くの連峰を見た。
暫く歩いていると杉林の入口の所に茶屋を見つけた。
「半兵衛様。あの茶屋ですよ」
何でも草餅の有名な茶屋で、宿で彦佐が聞きつけていたのだ。
「おお、あれですか」
甘い物の好きな半兵衛が答える。
「左近様。大丈夫ですか?」
二日酔いの左近に気を使う
「ああ、だんだんと落ち着いて来た。とりあえず、茶が飲みてぇ」
彦佐と半兵衛が並んで座り、少し離れて左近が座った。
二人は楽しそうに会話をしながら草餅を頬張っている。その様子を茶を啜りながら左近が
「随分と楽しそうだな」
隣に居る彦佐に声を掛ける。
「楽しいですよ。草餅おいしいし」
「お勤めだからな。遊びじゃねぇぞ」
「ああ、それなら大丈夫ですよ。何てたって江戸で一番の剣豪が二人も居るんですよ。鬼に金棒ってこの事でしょう」
左近は仏頂面で草餅を噛りながら
「話しの辻褄が合ってねぇぞ。江戸で一番の剣豪が二人ってどういう事だ」
その話しに興味があるのか、半兵衛も草餅を食っている手を止めて彦佐を見た。
「それが、あっしにはまだ決められねぇんですわ」
「決められねぇ?」
「見た感じや雰囲気からすると半兵衛様なんですが、ただ兄貴は土壇場に強いっていうか、追い込まれてからの力が凄いんですよ。場数を踏んでいるからですかね。どんなに不利になっても臆する事も無く、そして、勝っちまう」
「なんだよ。ただの変な奴じゃねぇかよ」
左近はぼやいているが
「ははっ、なるほど」
半兵衛は妙に納得して笑っている。
四、
茶屋を出て杉林の中を三人が暫く歩いているとほー、ほー、と鳥の鳴き声が聞こえてきた。
二人の少し前を歩いていた彦佐が下がって二人に小声で耳打ちをして、二人の後ろに下がって行く、左近が半兵衛と目を合わせると半兵衛は頷いて、左近から少し離れる。
刹那、高い杉の上から黒装束の忍びが飛んで二人を襲った。次々と刀を振りかざし二人に向かい斬り掛かって来る。
二人は刀で弾いたり、身を躱して刀撃を避けていく、刀を避けられた黒装束の忍び達は地面に着地すると右回りに次々と二人を囲んだ。
自然と二人は背中を合わせた。取り囲んだ忍びは全部で八人。
「四人づつだな」
左近の言葉に
「他愛も無い数です」
半兵衛が返事した。
二人。同時に斬り込んで来る忍びを左近は素早く進んで剣撃を躱して、振り向きざまに後ろから斬り掛かって来た刀を弾いて、もう一人が切り込んで来た刀を受け、そのまま刃先を滑らせて忍びの喉元を突いた。
「ぐぇっ、」
それを見ていた残りの二人の忍びが飛んで、同時に左近を上から狙う。
すかさず、左近は飛んで一人の忍びの胴を抜いた。
着地して同じく着地したもう一人の忍びに駆け寄り袈裟懸けに斬った。
残った忍びが中段に構える。左近も正眼に構えて
「きぇーい」
掛け声を出して、斬り込んで来た忍びの刀を弾いて脳天を割った。
「ぐぅ、」
断末魔を出して倒れる忍びを確認しながら半兵衛の方を見た。
「こっちは終わったぞ」
その時、半兵衛は忍びの突きを刀で受けながら、脇差しで忍びを斬った所だった。
「こっちも終わりましたよ」
忍び四人を斬った半兵衛が答える。
その頃、彦佐は左近達を離れた所から援護しようとしていたが、二人の忍びに手裏剣で襲われ、それを躱して対峙していた。
「二人掛かりなら勝てると思ってんのかね」
左右から距離を詰めてくる二人の忍びに彦佐は後ろに飛んで二方向に同時にくないを投げる。
忍び達はそれぞれに飛んで躱したが左肩と右太ももに当たった。彦佐は二方向に少し角度を変えて二本づつ投げたのだ。忍びの刀や手裏剣には毒が塗ってある。当たればほぼ終わりだ。
毒で痺れだした忍びが最後の力を振り絞って斬り掛かったが、短い二刀流の彦佐に刀を受けられて胴を抜かれ、もう一人は逆袈裟で下から斬られた。
忍び二人を始末して彦佐が左近達の所へやって来た。
「終わったか」
左近の言葉に
「はい、多分」
辺りを見回しながら彦佐が答える。
その日の夕方、村外れにある義直の屋敷に片わな髷の侍の乗った早馬が着いた。
屋敷に着くと急いで馬を降り義直の部屋のある中庭へと走る。
気配に気づいて義直が障子戸を開けた。
侍はひざまづいて
「左近達の襲撃に失敗致しました」
「手練れの者、十名で襲ったと聞いたが」
義直は守役の小野隼人と将棋を指している。
「十名全員。左近と供の侍、忍びの三人に殺られました」
義直は手を止め
「そんなに強いのか?」
「もう一人の侍も江戸で有名な剣豪です」
「左近達だけでも面倒なのに」
隼人が口を挟む
「こちらに向かっているのか」
「はい、おそらく、詰所の襲撃も失敗致しましたので浪人達から此処も殿の事もばれていると」
「竹脇達もやられ、手練れの忍び達も殺られた。此処もばれている。となると詰んだか?」
持っていた駒を置いた。
「支援する者と浪人達を急いでかき集めれば。五十にはなるかと」
隼人の言葉に義直は思案を巡らせ
「金で支援に回った者も多い、再び不利となったら裏切る者も多かろう。それに」
「それに?」
「我の存在が公儀にばれたならば、その三人を殺ったとしても何も変わるまい。
我ならばこの地を良く治めて、幕府内でも成功出来ると思っていたが、やり過ぎたか」
その言葉を聞いて、隼人は身を下げて義直に頭を下げると
「まだ。金は充分に残っております。ここは、飛丸と逃げ延びて再起を計られては」
義直は腕を組み
「いや、松平の家を失った我になんの価値があろう」
「なれば!」
五、
左近達三人は二百間はありそうな川向いを見つめている。
「この川の向こうが舘林です」
「義直公が手ぐすね引いて待ってるか?」
「恐らく」
「どうする百人で来られたら」
そう言いながら左近が半兵衛を見る。
「ならば、斬るまで」
冷静に半兵衛が答える。
それを聞いて左近は口笛を吹いた。
「ただ、百人は辛いぞ」
「まあ、お庭番達も領内に入っているでしょうから、その時は助けてくれますよ」
「そりゃあ、助かるわ」
三人が船着き場に進もうとすると、目の前に片わな髷の武士、飛丸が立っている。
左近達と目を合わせると頭を下げて三人を導いた。
後を付いて行くと、人気の無い川原に義直と隼人が立って居る。その姿を見て左近は
「大将のお出ましか」
左近と半兵衛が二人の目の前に立つ、飛丸と彦佐は離れた所に立っている。
「貴様が直方左近か?」
「義直公。浪人達の元締めですな」
「そうだ」
「やり過ぎましたな。もう逃げられませんぞ」
「覚悟はしている」
「なれば」
左近が刀を抜くのを見て義直も刀を抜く
「江戸で一番の剣豪そうだな。我も剣にはちと自信があるぞ」
左近はちらりと半兵衛を見てから義直を見直して
「試して見られよ」
二人はじりじりと間合いを詰める。
「二人で来たのですか」
「そうだ」
「その気量があるなら、別のやり方で藩主の座を目指すべきでしたな。人が死に過ぎました。あの世で皆に詫びた方が良い」
「もう、勝ったつもりか? 貴様に我の辛さの何が分かる。ただ、身分の低い母から生まれたと云うだけでこのざまだ。貴様を倒してもう一度這い上がってやるわ!」
「いざ、勝負!」
正眼に構えた義直は少し刀を落として様子を伺っていたが
「きぇーい、」
奇声と共に正面から左近を突いた。
それを刀で受け、右足を引いて左近は義直の体ごと受け流した。
進んで、後ろに回った義直が振り向いた所を左近は脳天斬りで斬った。
額を割られた義直が額から血を流し、白目を剥いて倒れた。即死であった。
それを確認して隼人が
「殿の敵、」
と左近に斬り込んで来たが
「あなたの相手は私です」
脇から割り込んで来た半兵衛に刀を弾かれた。
「貴様、」
二人は正面に対峙した。
隼人はすっと刀を上段に構え
「きぇーい、」
義直と同じように奇声を上げて半兵衛に斬り込んだ。
半兵衛は素早く進んで隼人の胴を抜いた。
「ぐぉっ、」
悶え苦しみながら隼人が倒れた。皆が倒れた二人をじっと見ている。
それから彦佐は飛び丸を見た。飛丸は彦佐を見て
「雇い主は死んだ。これ以上関わるつもりは無い」
「敵は取らないのか?」
「我らは雇われ忍び。舘林の殿と心中するつもりは無い。過分なる給金は頂いたが、後は死んだ者を弔い、里の存続を謀るのみ」
そう言うと飛丸は去って行く
「殿様の弔いもしないのか」
「それは藩にお任せする」
振り向きもせずに飛び丸は歩いて行く
「さっぱりしてるな」
「仲間も随分と殺されたと云うのに」
左近と半兵衛も飛丸の背中をずっと見ていた。
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