第2話 虎退治
一、
特命を受けた隠密与力。直方左近と、その弟分で忍びの彦佐が、ある屋敷に忍び込もうとしていた。
屋敷の塀は、十尺はあろうという高い塀で、その中で一ヶ所だけ、八尺位の少し低い所が有り。二人は、
「以外に簡単に忍び込めたな」
「しかし、何で、ここだけ、低いんでしょうね」
「途中で、金が足りなくなったんじゃねぇのか、これだけ塀が高いと、金もかかるぞ」
屋敷の中に入ると、何千坪もあるような広い庭園に出た。
「すごいな」
満月の夜で。夜目に
すると、暗闇の中にぎらりと二つの光が見えた。
「なんだ」
「どうしたんですか?」
その光が、もの
「おい、おい、」
嫌な予感がした左近が彦佐を突き飛ばし、自身も横に逃げる。
そして、それは正解だった。
「何をするんですか!」
突き飛ばされた彦佐が怒るが、突き進んで来た物の姿に驚く
「ぐぉーっ」
生き物らしく
ただ、その図体は恐ろしくでかい
「ずいぶんとでっかい、犬だな」
目を凝らした彦佐は
「いや、いや、犬じゃあ、ありませんよ」
「じゃあ、狼か?」
「狼とも、違うような」
言ってる側から、大きな生き物が唸り声を上げて、左近に飛び掛かってきた。
「くそっ」
左近は刀を横にして、生き物の噛み付きを受けていたが、もの凄く力強い
「たまらんぞ、」
堪えきれずに後ろに倒れ、倒れながら、巴投げで、生き物を投げ飛ばした。
二、
その様子を、遠くで眺めている二人が居た。
ここの主人である薄屋。弥平と、用心棒の刺野惣衛門だ。
弥平は南蛮渡来の遠眼鏡を手に
「また、馬鹿が引っ掛かりおったな」
腕を組む刺野惣衛門は
「本当に悪趣味ですな、化け物に人を襲わせるとは」
「何をおっしゃる。秘密を守る為ですよ」
「それなら、儂らに任せれば良いだろうに」
「それではつまらん。あれには大金が掛かっているのですよ」
「やはり、悪趣味だ」
その頃、左近はその化け物と乱闘を繰り広げていた。
「この野郎、」
襲い掛かってくる化け物に、刀で立ち向かっている。
彦佐も左近を助太刀して、必死にくないを投げて左近を手助けはしてはいるが、上手くは当たらない
「あーあ、俺の胴田貫が」
化け物のよだれやら、歯形の付いた鞘を見て左近が嘆いた。
「畜生、怒ったぞ」
疲れを見せて、離れた化け物を見て左近が言った。
「斬ってやる」
刀を抜くと正眼に構えた。
「ん、虎か?」
やっと化け物の正体に気が付いた。体長が八尺を超えそうな大きな虎だ。
虎は左近のぎらりとした刀を見て、一瞬、ひるんだが。
左近に向かい、飛び掛かった。
「せい、」
左近はそれに調子を合わせて、下に潜り込み逆袈裟で虎の腹を斬った。
「ぎゃん、」
虎は腹を大きく腹を斬られて、どくどくと血を流し、ぴくぴくとしている。
「兄貴、やりましたね」
安堵して、彦佐が左近に近付く
しかし、左近も結構やられたようで、服も所々破れて、頭からも血を流している。
「兄貴、大丈夫ですか」
左近は彦佐を見て
「大丈夫な訳ねぇだろ。死ぬかと思ったぞ!」
そんな、ぼろぼろの左近を、彦佐は抱きしめて
「生きててよかった。大好きですよ、兄貴」
「何だよ。気持ち悪いな、離れろ」
三、
しかし、そんな二人を冷ややかに見ている二人が居た。
「大事な虎を殺しやがって、許さねぇぞ」
弥平と惣衛門だ。
「誰だ。おめぇは」
ぼろぼろの左近を見ながら
「こちらは、ここの主人の薄屋、弥平様だ」
惣衛門が言った。
「おお、おめぇが薄屋、弥平か!」
左近は弥平に向き直り
「おめぇに密貿易の容疑が掛かっている。一緒に来てもらうぞ」
その言葉に、弥平は目を吊り上げて
「馬鹿が、よく見てから、物を言え」
懐から
それと同時に、惣衛門も刀を抜いた。
だが、それも無駄な動きになった。
取り出した短包は、彦佐の投げたくないに弾き飛ばされ
惣衛門も刀を抜いたと同時に、左近に逆袈裟で斬られた。
瞬時の出来事に弥平は声も出なくなった。
「虎に比べれば、おめぇらはただの雑魚だ」
「確かに」
彦佐が相づちを打った。
それから、虎殺しの左近の名が江戸中に広まった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます