第10話:好みはそれぞれ
「これが一番良いだろ!」
「いや、これが可愛いよ!」
「何言ってるんですか!これでしょう!」
「……」
ただいま服選びの真っ最中である。外に出られないアンジェルに代わり三人が洋服を調達してくれた。
皆が嬉々として選んできてくれたのは嬉しいが…ティトが選んだのはワインレッドで胸元が大きく開きスカート丈が短い、やたらと露出度の高いワンピース。
ルシアナが選んだのはベビーピンクでリボンやフリルがふんだんに使われたロリータ風ワンピース。
アドルフィトが選んだのはデザインはとっても良いのだがアンモナイトの化石のような謎の模様が入り色の組み合わせが壊滅的なワンピース…正直選ぶに選べないワンピースばかりであった。
「どれが良い!?」
「え!?えーっと…じゃあルーシー様が選んで下さったワンピースを」
「やったぁ♪」
「くっ!」
ルシアナ以外の二人は選ばれなかった事を悔しがっているがこの中から選べというならルシアナが選んでくれたものが一番マシだろう。こんな乙女チックな服は絶対に似合わないがあの黒いドレス一枚でこの先過ごすわけにはいかない。アンジェルは思い切ってロリータ風ワンピースに袖を通すことにしたのだった。
(うわ…やっぱり私には似合わないな…)
ルシアナが選んだワンピースを着て鏡を覗き込む。襟、袖、裾…至るところにフリルをあしらいウエストには大きなリボン。幼少の時に着ていたようなデザインをまさか十八才になって着るとは思わなかった。
(こういうワンピースもヴィオレットだったら着こなすのかしらね…)
ふとそんなことを考える。
あれからセルトン侯爵家はいったいどうなったのだろうか。アンジェルを生け贄に捧げたことで臆面もなく暮らしているのだろうか。王都にあるこのお屋敷の決して遠くはない場所にセルトン侯爵家別邸もあり王城だってある。
アンジェルはグッと拳を握りしめた。セルトン侯爵一家やクレールに対する怨みの心は少なからずアンジェルの心の中にある。時が経てばわからないがすぐに消すのは無理なことだ。
「アンジェル~着替えた~?」
「っ…はい、今行きます!」
外からルシアナの声が掛かりハッとする。
(こんなこと考えては助けてくださったティト様達に失礼だわ)
助かって嬉しい。優しい人たちに囲まれて毎日楽しく過ごし、愛してくれる素敵な婚約者もいる。この上ないことだと汚い気持ちは心の奥底に無理やり押し込んでアンジェルは部屋を出た。
「……」
「とーってもカワイイ!」
「うん、まぁ悪くないな」
「私は好みではありませんが」
ロリータ風ワンピースに着替えたアンジェルは部屋を出た瞬間になぜか猫耳がついたヘッドドレスを着けられ、猫のぬいぐるみバッグを持たされた。…これは何かの罰ゲームなのだろうか。
「まぁあれだ…俺が選んだのもアノ時に使えそうだし取っとくか。アドが選んだのは捨てよう」
「何故ですか!?」
「選んだアドも変だけど店も何であんな服売ってたんだろうね」
(それよりアノ時って何!?)
ティトのアノ時発言が非常に気になるが聞いたらまたドツボに嵌まりそうなのでやめておく。
「素敵なお洋服をありがとうございます」
「いや、そんなのは当然だしまだまだ買い揃えるぞ。他は何が要るかな」
「下着に夜着に化粧品あたりでしょうか?あとは…部屋の調度品なども女性らしい物にするのが良いかと」
「え!そんな、部屋は今のままで十分ですし、他も必要最低限で…」
どっさり買い与えてくれそうなティトにアンジェルはギョッとした。セルトン家にいた時だって贅沢三昧する家族に対して、アンジェルは必要最低限の物しか買うことを許されなかった。それで過ごしてきただけにお金をたくさん使わせてしまうことに抵抗がある。
しかしティトはダメだと首を横に振った。
「俺の懐に入ったからには不自由な生活をさせるつもりはない。金の心配もしなくていい」
「…はい」
「別に見返り…いや、見返りはアンジェルの…いや、見返りが欲しくてやってるわけでもない」
「見返りにアンジェルが欲しいんですね」
「!?」
はっきり言ったアドルフィトの言葉に驚いて思わず赤面するとティトがごまかすように咳払いをした。
「まぁとにかく遠慮は無用ってことだ」
「…はい。ありがとうございます」
そう笑顔で言ったティトの心遣いに、嬉しい気持ちと…こんなに幸せで良いのかと、ホンの少しだけ不安がよぎったのだった。
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