2-9 二刻前、森にて
しかし、どういうわけか同じ場所をぐるぐると回っているかのように、近づくどころか遠のいている気すらした。
「迷いの陣が敷かれているようだ」
「渓谷の妖鬼はそんなこともできるんですか?」
「特級の鬼は美しい姿をしていて、長く生きているため人より賢い。むやみに人を殺す必要もない。特級は数も少ないので、術士たちがその動向を常に監視している。ここに移り住んだのは十数年前のようだが、彼は我々の間では特に有名でね」
「······残虐非道、とか?」
恐る恐る
「彼は時に目の見えない少女を助けて、麓の村まで連れて行ったり、道を塞ぐ岩を砕いて商人たちを通してやったりと、人助けをしたと思えば、同胞であるはずの妖鬼や妖獣を、大量に惨殺してひとつの死骸の山を作り上げたりする。とにかく変わった鬼なんだ。時に黒い狼の姿で現れ、煙のように消えることから、いつからか彼を
宗主や
ただ、気まぐれな鬼なので、何をするか解らないという意味では、
(あんな女人のような格好をしていたから、興味をもたれたとか?)
それはそれで本当は男だと解ったら、とても危険なのでは········。
ぶんぶんと首を振って
「迷いの陣なら、俺が消してみせます。陣の力になっている媒介が解れば········」
「必要ない」
すっと前に出たのは、ひと言も言葉を発していなかった
表情もいつも通り無としか言いようがないが、
(うーん。ものすごく苛立っているな)
「森の木をすべて切り倒す」
「はいはいはいはい。それはダメ。絶対ダメ」
今にも霊剣を出して実行しかねない
森の木は
そんなことをすれば
「
「············伯父上に、従います」
はあ、と
「よし。じゃあ
「は、はい、」
ほどなくして媒介の動物の骸骨をいくつか見つけ、それを
その力を利用して、
渓谷は二つあって、手前が岩ばかりの谷で
「私が行きます」
「俺も行きます!」
それを肯定として、暗くて底の見えない谷に視線を移す。森を抜けるとその先の地は枯れ地で、草の一つも生えていなかった。
固い土と岩だけの地は、夕焼け空に暗闇が混ざると不気味としか言いようがない。
「では、失礼」
「え? ————ひぃいっ!?」
腕を掴まれたかと思った矢先、身体がふわりと浮き、そしてものすごい速度で落ちた。
心の準備をしていなかった
一瞬のような、数秒のような、もっと長かったような。とにかく、地面に立った時は衝撃はなく、それは
そしてぐらぐらする頭をなんとか平静に保ち始めた頃、視界に入った光景に言葉を失うこととなる。
そこには、衣を剥がれているというのに、大人しくされるがままになっている
隣にいる
(いや、あいつもあいつだ! 一体こんなところで鬼となにをっ!?)
心配していたこととは真逆で、その行為はどう見ても······。
(鬼と仲良くなるだなんて、どうかしてるぞ! だれとでも仲良くなるその体質をなんとかしろっ!)
まさか鬼と仲良くじゃれ合っているなどと誰が想像したか!
しかし隣の公子は攻撃態勢だ。
そして、現在に至る。
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