第二章 邂逅
2-1 旅立ちの朝
翌日。
「いい? なにかあったら必ず知らせを飛ばすこと。無謀なことはしないこと」
「
そもそも普段の
さすがに他の一族の前でいつもの
「兄様、気を付けてね、」
「
最後の方は耳打ちするように小声で伝える。べ、別に! 心配なんてしていないわっ! と
「
あの一件で少しやつれたように見える
ありがとう、と
それに比べて血が繋がっている方の兄の姿はない。自分のことなど眼中にないのだろう。
「戻ってきたら、
母に聞かれないように小声で伝えると、
「こちらのことは気にしなくていい。君は君のために頑張って」
「
「はい、父上。では、行ってきます」
前で腕を囲って丁寧に
顔を上げ、地面に置いていた荷物を持ち、そのまま見送りに来てくれた者たちに背を向けると、
「······あ、あのぅ、
「どうした? なにか忘れ物か?」
「い、いえ! あの、わ、私がどうしてお二人の付き人になったのか······なにか聞いていますか?」
若い従者は正直、昨夜から何かの間違いであれと思っていた。同じく邸で従者をしている親には、年甲斐もなく今生の別れとばかりに泣きついた。
夢であれと願ったが、朝になり、現実だと思い知らされる。
幼い頃から仕えてきて、なんなら
「俺もよくは知らないが、あいつが指名したとかなんとか?」
「······え? あいつとは、その、
従者は露骨に顔を歪めた。確かに、奉納舞を舞った姿に心を奪われた。
だがその後の彼は、いつもの彼だった。美しくても、間違いなく彼だった。朝餉を届けに行った時も、夕餉の時も、いつもの彼だった。
あれが常に繰り広げられるとしたら、いつ我慢の限界が来て発狂してもおかしくない。
「お前は確か
(そんなはず、ないです······だって、いつもなるべく顔を合わせないように、関わらないようにしていたというのに、)
前を歩く
「そういえば、名前を聞いていなかったな」
「は、はい。私は、
腰を深く折り、頭を下げる。
日頃の従者としての習慣で、
「これから迷惑をかけるかもしれないが、よろしく頼む」
「はい! あ、いえ! お気になさらず」
あわあわと
(はあ······これからどうなってしまうことやら)
不安しかないこの旅路。そんなことなど露知らず、聞き馴染みのある声が響いた。
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