第5話 帰省

 学園のある中央から遠く離れた場所にある集落。

 突然のヴェリエルの帰省に村のなかではちょとした騒ぎになっていた。

「ヴェリエル、お前どうしたんだ?まだ休暇じゃないだろ?」

「そんなことよりその子は誰だ?」

「さっきの竜は何なんじゃ!?」

 矢継ぎ早に質問してくる人たちに、やや狼狽えながらもヴェリエルが質問に答えようとしたとき、大声でヴェリエルを呼ぶ声が聞こえた。

「ヴェリエル!!}

「!父さん、もう歩いて大丈夫なの?}

「そんなことより、どうしたんだ?まさか学園で何かあったのか?}

「……まぁ、ちょっと」

「ちょっとではなかろう。おい、お主がこやつの父親か。まぁ誰だろうといい。どこか休める場所はないのか?話はそこからじゃ」

 突然、ティーが前に出てきて、皆驚いたようだったが、すぐに思いついたように道を開ける。

「とりあえず、村長に挨拶しよう。それにあそこなら人がたくさん入れるからそこで説明できるよ」

「うむ」

 二人がそう言って歩き出すと、ぞろぞろと集まってきた人たちがそれについて行く。

「……この村は人が多いな。集落の規模もそれなりに大きかった」

「うん。昔はもっと大きかったらしいけどね」

「そうなのか」

「おいヴェリエル。このお嬢さんは誰なんだ?」

「それも、村長のところで言うよ」

 大きく円を作るようにできた集落。その中心にある一際大きな建物。それが村長の家だ。そこは集会所も兼ねていて、村中の人間が入ることができた。いくら人口が少ないといっても村の全員が入るというのは稀に見る大きさである。

「村長!彼が帰ってきましたよ!ヴェリエルが!」

 そこの入り口の前に立っていた衛兵が中に向かってそう叫ぶとややあって扉が開いた。中から出てきたのは小柄なおじいさんだった。

「……ヴェリエルか?本当に」

「おじいちゃん」

「お?」

「うん、僕だよおじいちゃん。ちょっと訳あって帰ってきたんだ」

 ヴェリエルがおじいちゃんと呼んだその老人はしわだらけの顔をにっこりと笑みの形にすると一歩下がった。

「ほれ、入るがよい。いろいろ話したいこともあるじゃろ」

「うん」

 そして入っていく老人とヴェリエル達。ティーは少し不可解なものを見るような顔をしていた。

「……して、何があった。あれだけ張り切っておったお主が帰ってくるとは並々ならぬことじゃろう?」

「うん。どこから話したらいいのかな。うーん……」

「おっと、そうじゃ。リュウエル、忘れんうちに茶を出してくれんか」

 老人が部屋の奥にある扉に向かってそういうと、すぐさま扉が開き中から青い髪をした女性が出てきたのだが、明らかに様子がおかしかった。

 手にはお茶を乗せた木の板を持っているのだが、その手が震えているため、コップがガチャガチャと騒がしく音を立てているし、顔色もやや悪いようだった。

「ん?どうしたリュウエル。具合でも悪いのか?」

「い、いえ……その……」

 リュウエルはなおも震えており皆がどうしたのかと思っていると、ふとティーが「そうか」

 と声を発すると、リュウエルの震えが一層増し、ついにコップを取り落としてしまった。

「す、すいませっ」

「だ、大丈夫だよ。俺が拾うから」

 皆が震えるリュウエルを心配そうに見る中、ティーがおもむろに立ち上がった。

「さて、少々状況説明のためにも自己紹介しよう。祖奴はワシに怯えとるでな」

「君に?」

「うむ。さて、ワシの名前はティー。今は人間の姿じゃが、実際は竜じゃ。加えて言えば創世竜じゃな。そこらの雑魚竜と一緒にするでないぞ。して、そいつはフェアリー。祖奴からすればワシは遥か高位の存在。そんな者が突然家に来れば驚くのも無理なかろう」

 ティーはやや胸を張ってそう述べた。

 どうやらティーは創世竜であることをかなり誇りに思っているようだ。

「ま、待ってくれ。嬢ちゃんが竜だっていうのか?んなバカな」

「事実じゃ。次ワシの存在を疑ったら焼き殺すぞ」

「ティー」

「おっと、冗談じゃ。怒らんでくれ。入口の衛兵は見たはずじゃ。まぁ見せてもいいがわしの体はデカい故な。この集落の中ではなれぬ」

 そう言うティーの隣でヴェリエルはドラゴンのティーを思い出していた。

(確かにおっきかったな。この家ぐらいはあったかも。じゃぁティーにとってはこの村はちょっと窮屈かな)

 ちなみにこの建物の高さは高さ約三十メートルという異様な大きさである。

「うむ、どうやら嘘はないようじゃの。して、竜を召喚しながら何故帰ってきた?」

「む、簡単に言えばこうじゃ。第一にこやつには魔力がない。あまり事例のないことじゃ。ゆえに、他の人間からは迫害されるのも仕方がなかろう。理解できぬものを人間は恐れる。そして先程、あの学園にて召喚儀式があったが、教師は奴に魔力がないから無駄と言ってやらせなかったのじゃ。しかし、まぁ気の利くやつもおってそいつのおかげでわしはこやつの召喚に応じることができたわけじゃ」

「なんと……」

「分かってはいたが、ひどいな」

 周囲の人々が騒ぎ始めるのを、老人が手を挙げて静める。

「それで、ここにいるべきじゃないってことでこうして帰ってきたんだ。これからどうするかは……まだ考えてないけど」

 老人は真面目な顔ですべて聞き終えると、一つ大きく咳払いをした。

「なるほどな。まぁ、お主が学園に行くといってきかなかったときにも心配していたが、やはり想像していた通りじゃな。あの学園は実力主義が深く根付いておるから致し方ないといえばそうか……まぁよい。やりたいことが見つかるまではここにいるといい。わしらは大歓迎じゃ」

「ありがとうおじいちゃん」

 皆が喜んでヴェリエルを歓迎する中、やはりティーだけは少し不思議そうな顔をしていた。

「ヴェリエル、ちょっと来るのじゃ。確認したいことがある」

「……?どうしたの、ティー」

 ティーについて行くままヴェリエルが外に出て、建物から少し離れたところに立つと、ティーは振り向きざまに口を開いた。


「――お主、王族の人間か?」



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