第5話 命と名誉
首級を槍にさし、意気揚々と陣地に戻った
しらじらと長い夜が明けようとしている。
朝霧がたちこめた砦の門では、
「
「ご覧に入れたかったです。やつら、ほうほうの体で逃げてきました」と、部下のシャオも笑った。
「しょ、勝利だと」
「は、敵軍は四散しました。敵将は、このように」と、
「お、おまえは何てことをしてくれたんだ! この大馬鹿ものが! ワシの戦いに泥をぬりおって。わかっているのか。自分のしたことを、わかっているのか!!」
「ジェ、
「黙らんか、この大馬鹿者めが!」
「こんな、こんな卑怯な勝利がっ、勝利と思っているのか! いっそ死んだほうがよかったわ。なにも、おまえはわかっていない。やはり
裕福な商科に生まれ、貧民に転落して絶望を味わった
商人の家で成長した彼は、徹底的な実利主義に馴染んでいる。
だからこそ、彼は貴族社会を理解してなかった。ただ、真っ赤になった将軍の怒りを、唖然として見るしか術がなかった。
いったい、何を怒っているのか。まったく見当がつかないのだ。
──おいおい、妖精よ! このバカは何を怒っているんだ。
──あなたも
──ことっすって、若い娘がなんちゅう言葉使いだ。それでも妖精か。
──妖精、軽い系、お約束のボケです。
クククっと皮肉な笑い声が頭に響いた。
──それ、ボケにもならんけどな。ブツブツ……。それにしても、アホな。この男が踏ん張らねば、槍に首級を乗っけているのは、
──彼は根っからの生まれながらの誇り高い貴族です。体裁を重んじる男です。こんな勝利をするぐらいなら、死んだほうがましと思う男なんです。
──なんじゃあ、そりゃあ。命が一番だろうが。
──命の重さは、世界観に左右されます。将軍にとって自分の命も他人の命も軽いんです。しかし、名誉は大地よりも重い。
いったい、どんな世界観だ。
──だから、闇討ちという卑怯な手で勝ったことが大問題でしょうね。騎士道精神が尊ばれる世界において、闇討ち等という手段は山賊と変わらない。だから、逆に発想の転換で勝てたとも言えるけど、むっちゃ苦い勝利なわけ。いっそ勝利でもない。負けたようなもんです。
──命がなくなりゃ、それで終わりだ。
──いえいえいえ、教育、環境、社会による思い込みでは、命の軽い世界があります。だから、戦いに勝って、世間に負けた。それが
──いや、そりゃ、違うでしょ。
──それは、同根です。
結局、
王都に戻った
王都から遠く、国境の地に追いやられた彼らは、隣国の兵と小競り合いしながら生きていくしかなくなった。
「オレは、このままでは終わらん」
「大将。オレたちだってさ、ついてきますぜ!」
日焼けで真っ黒な顔をした自分と同じように傷だらけの仲間たち。
「ああ、俺たちだけで、どこまで行けるか、やってみようぜ」
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