第3話 眠れない男 in 戦場
夜、天をうずをまく雲が支配して、星ひとつ見えなかった。
湿気が多く、むっとする暑さだ。その上、これは死臭だろうか。ひどい臭いに鼻がひん曲がりそうで、ぼろ布で鼻と口をおおってはいるが、ほとんど役に立っていない。
その日、勝負はつかなかったが、味方の敗北はあきらかだった。雌雄は決していたのだ。
終わったのか……。
故国が無謀な戦争に向かったのには理由があった、
かつては宗主国として輝きに満ちていた大国イルレン王国。
過去の栄光は見る影もなく、
国が弱われば飢えた民衆を抑えるのは困難だ。反乱の兆しを他に向けるため、朝廷のしたことは、なんと他国への宣戦布告だった。
「ずるい敵国を討て! 勝てば、この苦難は終わる」と、檄を飛ばした。
無謀な戦いに巻き込まれ、
数日の戦いの後、残った兵は、敵軍五百人以上に対して百人にも満たない。
戦いが終わった戦場に、
死者への弔いのためだ。
ここに転がる兵士たちは命を落とし、自分はまだ生きている。その差はなんだ。答えはない。
彼は片手を上げ、静かに祈ると、宿営地に戻った。味方の兵たちは絶望的な状況に
宿営地に設営した、ひときわ大きいテントの幕をあげ、中に入った。
「
この老将軍が、数々の、ありえない作戦を展開したために、あるいは勝てたかもしれない戦いを最悪の事態にまでした。
「
「おまえか。……それで、百人隊長は何人残っている」
「わたしだけになりました」
「そうか」
老将の顔は泥と血に汚れたままだ。顔も洗わず、ただ呆然と腰を下ろしていたのだろう。白目は血走り、思い詰めたような表情をしている。
明日、自分の首級が槍の上に飾られ、敗戦の将として恥を晒す。その絶望的な未来に体を震わせている。
「ここで引いては、王に顔向けができん。それに、敵も逃してはくれんだろうな。この老骨の首を取らんことにはな」
「無駄に命を削るのですか」
いや、これは撤退しなければ、明日には全滅しかないだろう。男の絶望的な声が聞こえてくる。
──オイ! 妖精よ。妖精よ。この匂いはなんだ。鼻がひん曲がりそうに臭いぞ。戦場ってのは、こんなに
──第二次世界対戦の頃、出兵なさったのでは?
──それがな、赤紙がきて船に乗せられて、さあ出兵という前日に、戦争が終わった。
──ああ、でしたね。運良く命びろいしたんでした。
──そういやあ、オレの田舎も子どもの頃は
──あ、あの。
ふん、こんな牢獄のような状態で、好みって。
妖精のやつ、なんとかオレを手なずけて、仕事させようってんだな。郵便局時代の、あの上司を思いだすわ。なんか騙されてる気がする。
──さささ、お仕事、お仕事。あなた様は評価するのがお仕事です。彼は歴戦の兵士になっています。若い頃に没落して山賊まで身を落とし、自堕落な生活をしたのち、女に出会った。彼女のために兵士になったのです。そして、やり直そうと最下層の兵士から必死の努力をして、百人兵の将にまで登りつめ、今まさに生死の境にいます。今日が彼のターニングポイント。
──ここは、いったいどういう世界だ。
──この世界は、御使いさまが生きていた地球の未来です。およそ60万年後。
──えっ! 未来? なんでこんなにテクノロジーが発展していない。まるで、中華の戦国時代ようだが、なぜ未来なんだ。
──地球規模の災害から、一周回って、こういう時代になったんです。
──つまり、こういう事か? ここは未来で。そして、俺の
──お見事な要約。天晴れな解説。おっしゃる通りの状況です。
──同じ意味を、違う表現で3回繰り返したな。
──ま、そこは、お気になさらず。で、彼は、この世界の一般人に比べれば、金に余裕のある家で育ったため、体格もよく運動神経も良い。必死の努力で武術を会得して、なかなかの腕前。その努力してきた姿、今後の評価のために見たいですか?
オレは別の誘惑に心が動いた。
──いや、いい。あの肉食女は、どうしてる。
──そ、そっちですか? 拒否!
──この無骨な男なら、騙されてるんじゃないか?
──この際、女に騙されているかどうかは、大きな問題じゃありません。
──そこは間違っとる。大きな問題だ。
──お仕事、やる気が出てきましたね。妖精、うれしい♡
──♡マークで喜ぶな。それで、今は36歳だよな。しかし、明日には命がつきそうだぞ。
──まあ、見ていてください。彼の生き様です。
──こっから挽回できるのか? 疑わしい。そうか、逃げるんだな。
──テッテレテテテー。
──妖精よ、自由に壊れるな!
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