第2話 異世界ガチャ、妖精の呼吸(いやいや、ケース1001)




 ま、とりあえず、いろんなモロモロ事情は、はぶいとく。


 年を取ると、せっかちになるから、ごめんな。

 その上、どんな姿なのかとか、どんな場所に送られたとか。

 え〜〜い、面倒きわまりない。

 かってに想像しとくれ。


 オレは神の仕事を、正確に言えば問答無用に受けさせられちまった。なんせ、否定してもぜんぶ無視されたからだ。


「では、先に話をすすめます。妖精ナンバー1です」と、ななめ横から宣言した妖精ナンバー1。


 消えてしまった死神は足を組んですわっていた。

 ところが、妖精ナンバー1は目の前に立っている。


 どっからみても18歳前後で、かわいい顔をしている。好みだと言ってもいいだろう。ちと、自分との年齢差が気になるが。

 いや、待てよ。


 ここは別世界。もしかして、このお嬢ちゃん、オレよりもずっと年上ってこともありうるかも。というか年齢という概念が間違ってるかも。


 だってな、この見た目18歳の妖精が、どうも若いとは思えんのだ。それは、彼女の男慣れした態度からオレの経験値が叫んでおる。


「そ、そうか。わ、わかった」


 可愛いから声が割れたんじゃない。妖精ナンバー1が、男女の距離感を間違えているからだ。


 今のオレの姿がどんなもんなのかは、よくわからない。


 しかし、だ。女房に去られて50年。長期にわたり、ほぼほぼ女気なしのオレに、この距離は辛い。


 辛すぎるっ! むごすぎるっ!


 声を出すたびに、甘やかな匂いがわかる距離って。

 わかるか?


 妖精!

 エロい秘書が着るような、紺色ぴちぴちのスカートで、貧乳のくせにボタン3個を開けた白いシャツ。ついでに、こう付け加えておく。


『ウエストは力を入れて抱きしめたら折れるくらい細く、小さなお尻ときゅっとしまった足首、白くてすっと伸びたうなじ』という容姿だ。


 清楚な容姿なのに男になれている。小悪魔か。


 だ、だから。おい!

 や、やめてくれ!


 右手が壁について、壁ドンしてるぞ。いいか、これは逆壁ドンだ。

 昭和2年生まれだ。

 おい、近すぎるってば。


 いや、もっとちこう。

 いやいやいや。

 もっと、側に寄れ!!!

 うけて立ちたい。いろんな意味で、立ちたい。立ってほしい。立てるか。立つぞ。きっと、勃つ!(深く考えるなッ)





 顔をそらしたつもりだが、目があってしまった。その間15センチ。

 なあ、近すぎるだろ?

 キスへの至近距離だと思う。嬉しすぎる。このまま唇を重ねてもいいか。いいよな。なあ、いいだろう?


 いつだったか。結婚前のことだ。ちょっとばかり、女房といい雰囲気になって。「キスしていいか?」と聞いた。


 女房のやろう、あの時も逃げやがった。


「そんなこと、聞かないで、バカ!」って、顔を真っ赤にして逃げた。


 後になって知ったことだが、こういう場合、聞いちゃアカンのだ。

 至近距離に相手の顔が近づいていたら、問答無用で男らしくキスしろ。そこは、どんなに心で怯えても、そうしろ。結果としてビンタをくらってもだ。たぶん、その近さを許したら大丈夫だ。


 なぁ、だがな、男どもよ。

 女って、そういうとこがバカだと思わないか?

 そんな女慣れした男に、いい奴なんているか? 大抵、そういう男は他にも女がいるって、いい加減、気づいてくれよ。


 気弱なオレたちはつい聞いてしまう。そして、ムードをぶち壊すってんで、ふられるんだ。

 しかし、そういう男のほうが誠実だぞ。おまえたちを必死で守ろうって思う、そんな可愛げのある男たちだぞ。たぶんだけど、オレ調べ。


 と、まあ、バカなことを考えているオレに、容赦ない妖精が耳もとで甘くささやく。吐息がかかる。と、吐息が……。ピンクの吐息が。


 こりゃあ、理性、飛ばしていいか?


 ──これから向かう世界は奴婢ぬひがいる身分制度の厳格な封建社会です。ケース1。さあ、神のお仕事です。雲嵐ユンランを評価してください。


 どうか、あなたに神の御恵みめぐみを。


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