4. 約束

ルピナス城に帰ると、この大地(エリア)が全てルピナスの物になると、大騒ぎ。



民達は祭り騒ぎで、はしゃぐ。



行きは、誰も見向きもしなかったオレ達に、帰って来た途端、皆がディジー王女を褒め称える。



「ディジー王女様」



「ディジー様」



「ルピナス第二王女ディジー様!」



皆、口々にディジー王女の名を呼ぶ。



それだけではない。



今まで、第一王女、第三王女についていた側近達が、突然、寝返るように、ディジー王女の傍で褒め称える。



まさかの手柄に、驚きを隠せずにいる者もいる。



「シュロ王が帰られたぞー!!!!」



戦の事を聞いてか、突然、今まで、姿も見せなかったシュロ王がオレ達の目の前に現れた。



皆、シュロ王に道を開け、花道を作る。



オレもディジー王女も、龍から下りて、地に足をつけ、頭を深く下げる。



オレの目の前で、シュロ王の足が止まった。



城に真っ直ぐ向かわないシュロ王に、皆、騒ぎ出し、オレも頭を上げれずに、変な冷や汗をかいている。



「お前がシンバか?」



その声に、オレはより一層、頭を下げ、



「は!」



と、頷いて見せた。



「顔を上げろ」



仰せの通り、オレは顔を上げ、シュロ王を見て、いや、シュロ王の後ろにいるレオン王子に驚いた。



そして、更に、シュロ王の風格漂う偉大さに、辺りの空気が変わるのを感じて、恐れおののいていた。そんなオレに、



「でかくなったな」



と、気さくに声をかけるシュロ王。



「え?」



「お前の名は俺がつけたんだぞ、シンバ」



「シュロ王が!?」



「お前の父は、元ルピナスの民だったんだ」



「元?」



「ルピナスは一度、ビーストにやられて堕ちた。民達も皆、殺されたと思っていたが、俺同様、生き延びていた奴がいた。それがお前の親父」



「そ、そうだったんですか? 父はそんな話、一度も——」



「したら、お前を城に呼べんだろう、俺と親父が知り合いだから呼ばれたと思うだろう?」



「・・・・・・はぁ」



内容が掴めなくて、失礼な返事をしてしまうオレ。



「さぁて、今日は祭りだ、騒げ騒げ!」



シュロ王はそう言うと、城へ向かって歩き出し、民達は踊れ歌えの馬鹿騒ぎを始めた。



ルピナスの騎士団も、ダンガンの兵士達も、祭り騒ぎで、酒やら肉やらを口に入れた。



それは夜中まで続いた。



オレは騒げる気分ではなく、一人、夜の風にあたっていると、



「酒は嫌いか?」



と、シュロ王が現れた。



「いえ! あ、ディジー王女様を呼んで参ります!」



「いや、ディジーは、今、レオン王子と話をしている」



「え?」



「何から話そうか、話す事がありすぎて、うまく言葉が出て来ない」



シュロ王は、そう言うと、オレを見て、



「何が聞きたい?」



と、尋ねて来た。



「・・・・・・」



「俺を王だなんて気にするな。聞きたい事があるなら、遠慮なく聞け」



「・・・・・・私はどうして城へ呼ばれたんですか」



「俺の妻ランは第一王女を生み、名をアザミと名付けた。そして二人目が身篭った時、腹の中の子はまた女だと聞いた。俺は男がほしかったから、それは残念に思っていたよ。次こそは男で、シトロと名付けたかった」



「シトロ?」



「俺の双子の兄弟だったんだ、死んだけどな」



「・・・・・・」



「お前の親父のとこはな、お前が生まれた時、俺に、是非、名をつけてくれと頼んできた。俺は迷わず、シンバと名付けた。英雄の名だ」



英雄?



英雄って、この世界が狂暴になった動物達が変異してビーストとなった時、そのビースト達を倒したと言う、言い伝えのような人物の、あの英雄の事だろうか?



「だから、息子ではなかった二番目の娘の名はディジーにした。その名も俺がつけた。英雄の最愛の人の名だ」



英雄の最愛の人?



シュロ王は英雄と何か関わりがあるのだろうか。



「そして三人目、リリが生まれ、俺の最愛の妻ランは亡くなった。アザミも、ディジーも、リリも、メイド達が育てた。俺は娘相手に、どう接していいかもわからぬ駄目な父親だ。聞けば、お前は神童で有名だったらしいな?」



「いえ! 滅相も御座いません!」



「謙遜するな。俺はお前が10歳になったら、一番、出来の悪い娘の側近として、仕えるよう、お前の親父に命じたんだ」



「そうだったんですか」



「俺は娘に愛情を注いでいる暇はなかった」



「どうしてですか?」



シュロ王は、ルピナス城にさえ、余りいかなった。



何故だろう?



「俺はダンガンの王と約束したからだ」



「ダンガンの王と?」



「俺はダンガンの王のクビなどとっていない」



「え!?」



「英雄が平和へと導いた世界で、戦など、俺が起こす訳がない。俺は英雄と、英雄の最愛の人が守ったこの世界を、王として守る義務がある」



「でも! じゃあ、どうしてダンガンの王は!?」






その頃、ディジー王女とレオン王子もバルコニーで夜風にあたり、話しをしていた。



「父は病に動けない体でした。シュロ王が、この領土に城を建てたいという話を持ってきた時、既に、虫の息だったと聞きます」



「・・・・・・そうでしたか」



「母は父と同じ病で、既に亡くなっていました。父は残された幼いおれをシュロ王に任せたのです。ダンガンごとくれてやる、その代わり、王子を立派に育ててくれと」



レオン王子は空を見上げる。



「シュロ王は、その約束を守り、おれを立派に育ててくれた。剣の稽古もシュロ王直々に相手をしてくれた。本当の父親のように、いつも、おれの傍にいてくれた。そして、おれに、ルピナスを堕とすよう、言いつけた」



「え!?」



「お前の国、ダンガンだ。ルピナスを堕とさなければ、ダンガンがなくなるぞ。そう言われた。おれを強く育ててくれただけでなく、ダンガンも守ろうとしてくれた。それだけじゃない、おれに優しく笑い、なぁに、ルピナスはまた創り上げればいいんだからって」



「・・・・・・ふふふ」



「おかしいですか?」



「いえ、シュロ王らしいなと思って」



「だが、厳しい条件も出された。決して民を傷つけるな、ルピナスの兵士達も姫達にも傷を与えるな。だけど、勝て! そんなの無理だと思ったけど、相手を疲れさせる為に、無駄に動きを大きく振らせろと、おれはその為に、ずっと厳しい訓練をしてきた」



「あなたは強かったです、アタシとシンバとでかかっても、無理でした」



「そして、戦を仕掛ける日、おれはシュロ王に、おれの気持ちを伝えた。ルピナスをなくしたくないと。今の今まで、ダンガンを残してくれて感謝していると。だが、もう既に、ダンガンの民達はシュロ王に惹かれ、シュロ王に敬意を示している。もうとっくに、この領土、全てがルピナスだったんだと言う事を——」



「だから、白旗を?」



「わざわざ白旗を用意し、戦をする必要はあったのか? そう思われますか?」



「・・・・・・はい」



「試したかったのです、シュロ王の血を引く、本当の王の継承者がどんな者か」



「・・・・・・がっかりしたでしょう、アタシがシュロ王の娘だなんて」



「いえ、アナタが空から降ってきた時から、おれはアナタに夢中でしたから」



「空から?」



「覚えていませんか? 空の散歩中だと言って、アナタは現れた」



「・・・・・・あぁ! あの時!」



「そして、戦で勇ましく強く現れたのが、アナタで良かった。シュロ王の血族の者が、アナタで良かった」



「・・・・・・」



暫し、無言の時を過ごし、レオン王子は、袖を捲り上げ、腕を見せた。



そこには黒い斑点が幾つもある。



「父と母と同じ病気です」



「え!?」



「感染はしません、遺伝です」



「病の体で、戦に出ていたんですか!?」



「おれは、もう長くはありません」



「そんな!」



「でも幸せです、ダンガンの民達も、行く宛をなくす事もなく、安住の地ができた。今日から全てをルピナスの領土とする事で、父であり、師匠であるシュロ王への感謝の気持ちも渡せた。悔いはありません」



「・・・・・・」



「いえ、後ひとつ、まだ遣り残した事がありました」



「なんですか?」



「ディジー王女、おれと結婚をして下さい」



「え!?」



「長くは生きれませんが、生きている限り、王としてのアナタを支えたい」






シンバはシュロ王から、ダンガンの王との約束の話を聞き、そして、今、レオン王子がディジー王女にプロポーズをしている事を聞いた。



「無論、ディジーが断れば、結婚はなしだ」



「断りませんよ」



「何故、言い切れる?」



「わかります、私はディジー王女様だけを見てきましたから」



「・・・・・・いいのか?」



「レオン王子なら、相手として、悪くないでしょう」



「・・・・・・お前はそれでいいのか?」



「かまいませんよ、なにより、ディジー王女様の幸せを一番に願い、考えていますから」



「お前はディジーと結婚しようとは思わないのか?」



「私は一生、ディジー王女に仕える身です、無位無冠の男など、ディジー王女様に相応しくありません」



「嫌になるくらい、できた側近だな、流石、神童と言われただけある」



と、シュロ王は飽きれた口調で言った。そして、



「ディジーは王には向いてないと言われていた。育ての親であったメイドも、傍にいたくないと言う程、王族として見放されていた。それをよくここまで育てたものだ。あの子は、内気で大人しく、人の前にも出られない子だった。それにイロイロと物覚えも悪かっただろう?」



「私も最初は嫌でした。ディジー王女の無能姫と言う噂を鵜呑みにし、側近など断ろうと思っていました。ですが、逢えば、とても心の優しい姫だと知りました。そしてディジー王女は、私の為に、頑張って下さった。本当は嫌だった戦も、私の・・・・・・いえ、ディジー王女に付いている私達の為に、そしてルピナスの民達の為に、勝ちましょうと言って下さった。本来の姫は、強く、勇ましく、賢明で、私の全てを吸収しました。ですが、私はひとつだけ、教えてない事があります。それは教える必要などなく、姫が最初から持っていたもの、愛です」



「愛?」



「私は、愛情ある家庭で育ちました。私の父も、それから龍使いの皆も、とても愛情ある人達です。父は、孤児を育て、孤児達は捨てられた事を恨まず、龍達を育て、私はそんな中で生きてきた。しかし、姫は、孤独で、誰にも愛されず生きていました。なのに、姫は優しい。とても愛情の溢れる人で、誰かの為に懸命になれる人です。そんなディジー王女こそ、王に相応しい! 直ぐにそう思いました。内気であろうが、物覚えが悪かろうが、臆病だろうが、ちょっとばかり頑固だろうが、私は、姫の、お傍にいられた事を、苦楽を共にできた事を、本当に心から、光栄に思っております。ディジー王女でなければ、私自身も成長はしなかったでしょう、多くを学ばせて頂けました。感謝しかありません」



「そうか。そんな風に言ってもらえるとは、ディジーも嬉しいだろうな。聞かせてやりたいよ」



「いえ、そんな・・・・・・私の本心を話しただけです」



「そうだ、お前、俺と旅に出ないか?」



「え?」



「英雄を一緒に探してくれないか? お前なら、役に立ちそうだ」



また英雄か。



「英雄を探すと言いますが、英雄は誰も見た事がないと聞いています、確かに英雄に助けられた人と言うのは存在するようですが、実際、英雄を見る人はいないとか。風のように消えていなくなる、そう聞きました。それに、英雄は悪だと言う人もいます、呪われた剣を持っているとか。そんな言い伝えのような人、いるか、どうかもわからないのに、何故、探すんですか?」



「俺は英雄と共に旅をしたんだ」



「英雄と!?」



「英雄がいたから、俺は王になれた。そして、俺が築き上げたもの、一番に見てもらいたい」



「・・・・・・英雄と共に旅をした?」



今更、シュロ王の凄さに、震えが来る。



「どうだ、俺と旅に出ないか?」



「光栄です。ですが、私はディジー王女様に一生お傍にいると約束しましたから」



「育てた娘が、余りよく知らぬ男と共にいるのを見続けるのは辛いぞ?」



そう言ったシュロ王に、



「それは覚悟の上でございます」



と、オレは、笑った。






シュロ王は王の座をディジー王女に譲り、旅に出た。



第一王女は違う国へ嫁ぎ、第三王女は平和を願う民達により、また新たな国からの王子との婚儀を済まし、子をたくさん儲けた。



ディジー王女は新国王として、ルピナスを背負った。



もう日陰で隠れている姿はない。



陽の当たる場所で、皆に愛されている。



レオンが亡くなり、ディジーが独りとなっても、次なる相手を見つける事はなく、只、いつも、その傍らには、シンバがいた。



それから、凡そ、30年近く、嘗ては無能と言われていた姫は、ルピナスを立派に治めたと言う——。

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I Promise ~The second princess story~ ソメイヨシノ @my_story_collection

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