06

 自転車をこいで家に帰る間、いろんなことを考えてたけど全然まとまらなかった。

 悪いけど志朗さんはあんまりあてにできなさそうだし、環さんは入院中で会えてもいない。まりちゃんはまだあの箱を持っていて――というか持たされたままで、まだ色んなことが解決していない。私だけが呪いから解放されてしまった。それって喜んだ方がいいことなのかもしれないけど、素直には喜べなかった。

 家に着いてすぐ、まりちゃんに電話をかけてみた。でもつながらなかった。そういえばつかれたから寝るって言ってたっけ。時間がたったらまたかけてみようと決めた。

 自分の部屋にもどって、時計を見るとまだ十二時前だ。「やることなくなっちゃったな」とつぶやいて、ベッドに寝転んだ。

(私にできることって、本当に何もないな)

 私の呪いを引き受けたせいで、今まりちゃんが大変なことになってるって言ってもいいのに、私がまりちゃんのためにできることってなると何も思いつかない。せいぜい何か欲しいものがないか聞いて、次にお見舞いに行くときに持っていくくらいしかできなさそうだ。

(あの箱、どうしたらいいんだろう)

 たぶん、環さんが事故に遭ったのは、偶然じゃなくてあの箱のせいだと思う。そうじゃないならタイミングが良すぎる。

 あのまま環さんが箱を無事に持ち帰ったら、中にあるものは、そのうち消されてしまうことになる。それがいやだから、環さんをケガさせたんじゃないだろうか。

 看護師さんに大人の女の人の声がしたって言われてから、私はずっとおねえさんのことを考えていた。

 おねえさんはきっと、消されたくないんだろう。

「あれ、私が持ってたらだめなのかな……」

 なんとなく声に出してつぶやいて、自分でもぎょっとして、ベッドの上に起き上がった。

 そんなことできるかな。いや、できなくはないんじゃないかな?

 たとえば箱にお札を貼り続けるくらいだったら、まりちゃんじゃなくて、私にもできると思う。お札だったらおばあちゃんがたくさん持ってるはずだし、呪いを消すことができなくたって、環さんが元気になるまで持ちこたえられればいいはずだ。おねえさんだって、私のところに戻ってくるのは嫌じゃないと思う。環さんみたいに事故に遭わせるなんてこと、しないと思う。

 でも、まりちゃんが箱を渡してくれるだろうか。

 私はまりちゃんがひざにのせていた箱の形と大きさを思い浮かべてみる。きっとまりちゃんは、私には渡してくれないと思う。でも。

(とにかくもう一度、まりちゃんのところに行こう)

 その前に、用意しなきゃいけないものがある。


 買い物をすませて家に帰ると、おばあちゃんが怒っていた。

「お昼ごはんには帰ってきてって、いつも言ってるでしょ?」

 でも、私の顔を見ると心配そうになって、「まりちゃんのことは気になるだろうけど、きっと大丈夫よ」とはげましてくれた。

 いつもどおり昼食をとったけど、あんまり食欲が出なかった。心配なことがあるといつもこうだ。ピアノの発表会の朝とか、緊張しているときには何も食べられない。

 ご飯のあとでもう一度まりちゃんに電話をかけた。今度はまりちゃんが出てくれた。

「なにか欲しいものとか、ある?」

『ううん、大丈夫。パパがプレイヤーに色々入れてきてくれたから、それ聞いてる』

「食べたいものとかは?」

『うーん、寝てるだけだからあんまりお腹すかなくって』

「今日、また行っても大丈夫?」

 まりちゃんは少し黙って、何か考えているみたいだったけど、『うん、いいよ』と答えた。

「じゃあ、また行くね」

『うん、またね』

 受話器を置いて一呼吸した。まりちゃんのところに行こう。

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