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「わたしたち『よみご』は、巻物を持っています。巻物と言って最近の子に通じるかわかりませんけど、忍者が変身するとき口にくわえるようなものですね」

「あっ、わかります」

 本当に忍者がそうやってたとは思わないけど、そう言われるとわかりやすい。

 ごそごそと音がし始めた。どうやら環さんがバッグか何かから、その巻物を取り出しているようだ。

「この巻物には文字も絵も書かれていないし、点字のような突起もありません。中身は真っ白です。これを使って、わたしたちは通常目に見えないものを探ることができます。これは感覚の問題なので、ちょっと説明が難しいのですが……とにかくこのときに白紙の部分を指でなぞるのですが、それが巻物を読んでいるように見えるので、よみごという名前がついたと言われています」

 へぇ、と言いながら環さんの話を聞いた。なんだか先生に知らないことを説明してもらっている気分だ。環さんが「よむ」ところを目で見てみたかったな、と思った。

「これからよむのは、まりあさん。あなたについていたもののことです。あなたのことは、葵さんのご家族から少しだけお話を聞いています。それに、あなたが倒れていたところに痕跡がありました。あなた、なにか目に見えない生き物のようなものを育てていましたね?」

 あいちゃんのことだ。葵ちゃんの家族ってだれのことだろう? あいちゃんのことを知ってるならお母さんかな? ――なんて考えながら「はい」と答えた。そんなことを聞くより、今はもっと大事なことがあると思った。

「それが今どうなっているのか、これから探してみます。まりあさんにも色々とお話を聞くと思いますが、それは後で。あまり手がかりを頭に入れてしまうと、わたしの場合はまちがいの元になってしまいます。では、ベッドサイドのテーブルをお借りしますね」

 しゅるしゅると音が聞こえた。たぶん、環さんが巻物を広げている音だ。でも、今更あいちゃんのことを探ってどうなるんだろう。あいちゃんは「うしろのこわいの」に食べられちゃったんだと思うけど――。

「では、やります。しばらくだまりますが、ちゃんとここにいるので安心してくださいね」

 環さんがそう言って、すっと静かになった。

 たぶん今「よんで」いるのだろう。なんだかドキドキする。あいちゃん、もしかして食べられちゃったわけじゃないのかな? でも、それだったらおなかが空いてるんじゃないかな。とにかく環さんが見つけてくれるんだったらいいな、と思った。

 どれくらい時間がたったのかわからないけど、すごく長く待っていたような気がする。環さんがふーっと息をはいて、「一旦終わりました」と言った。するすると音がする。巻物を巻いて片付けているんだろうな、と考えた。

「ちょっと……その、めずらしいことになっているので」と言う環さんの声は、すごくつかれて聞こえた。

「ちょっと待ってください。妹尾せのおに――その、わたしの大先輩に相談してみようと思います。ええと、どうしよ落ち着け……ちょっと飴なめていいですか?」

「ど、どうぞ」

「すみません」またごそごそと音がした。「ふーっ。ええと、ちょっと電話かけてきますね。すみません」

 環さんは急にばたばたしながら部屋を出て行った。

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