12
砂場あそびで作った山みたい、と思った。本当はそこは砂場なんかじゃない。でもそれはちょうど子どもが作った砂の山くらいの大きさだったし、何よりまりちゃんが一生懸命周りをぺたぺた叩いて固めていたから、すごくそれっぽいと思った。
まりちゃんはしばらく私に気づかなかった。見たことがないくらい真面目な顔で、小さな山をぺたぺた叩いていた。
壊れたトタンから外の光がさしこんでいたけど、それでも小屋の中はうす暗い。ずっと使われていなかったせいでボロボロになっていて、小屋の真ん中には塗装のはがれたトタン板が一枚敷かれている。
まりちゃんがぺたぺた叩きながらそっと体の向きを変えて、そして初めて私に気づいた。
「あっ、あっ」
顔が真っ白になって、唇が「あおいちゃん」の形に動く。私は私で、まりちゃんに見つかってしまってかなりどきどきしていたけれど、でも悪いことは何もしてないんだから、と思い直してぐっと足を踏ん張った。
「どろぼう」はまりちゃんの方で、私は追いかけてきた方。だから、私が逃げたらだめだ。
でも、なんでまりちゃんはあんなこと、したんだろう。
なんであんなものをとって逃げたんだろう。
「あおいちゃん」
まりちゃんの口が「ごめんね」と動く。
「ごめんね、お札はがしてごめんね、どうしたらいいかわかんなかったの。ごめんね。でもあおいちゃん、ひっ」
悲鳴をあげて、まりちゃんが小さな山から手を離す。
白と黒の固まりみたいな山が、生き物みたいにぶるぶると震えていた。まりちゃんが慌てて両手で押さえる。「だめ、だめだめだめだめ」
私にはだまって見守っていることしかできない。まりちゃんが押さえているものがぶるぶる震える。
「あいちゃんやめて! あいちゃん!」
まりちゃんが叩いていたものをぎゅっと押さえる。白と黒のまざった、いびつな形の山は、紙を何枚も重ねて貼ったものみたいだった。まりちゃんの足元に、たぶんさっきうちからはがして持ってきたばかりのお札が落ちている。お札をあんなふうに貼って、まるで何かを閉じ込めていたみたいに――
「ちょうだい」
声がした。
まりちゃんに似ているけど違う。この声を聞いたことがある。前にうちの留守電に入ってた声と同じ声だ。
「ちょうだい」
もう一度声がしたあと、どこからかバチン、とすごい音がした。
「あっ!」
まりちゃんが悲鳴をあげて思わず手を放す。お札の塊ががたがたっと震えて、何か見えないものが、でも確かにそこから飛び出したのがわかった。
こっちに来る。
「だめだって言ったのに」
私の後ろでおねえさんが言った。なんだかうれしそうに聞こえた。
いやな匂いがする。それが突然強くなって、そのとき私は、その匂いがまりちゃんじゃなく、おねえさんからすることに気づいた。
「よかったねぇあおいちゃん。あの子あおいちゃんじゃなくて、わたしの方に来るよ」
わたしの顔のすぐ横を、何かが通りすぎた。
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