11
私はあわてて階段を下りた。駐車場に停めてあった車の影に隠れながら、まりちゃんを目で追いかける。
まりちゃんはまだお札を持っているみたいだ。どこに行くんだろう? と考えて、すぐにあの小屋が頭に浮かんだ。別に事件事件があったとか、怖いうわさなんかひとつもないあのぼろぼろのプレハブ小屋に行ったとき、なんでかわからないけどすごく怖かったことを思い出した。
「あおいちゃん」
うしろでおねえさんが私を呼ぶ。環さんに言われたとおり、聞こえていないふりをしてまりちゃんをおいかけた。見つからないように離れながら後をつけていく。こんな本に出てくる探偵みたいなことをしたのは初めてだけど、まりちゃんはなんだかすごく思いつめているみたいで、私には全然気づかないみたいだった。
いやな匂いがする。
「あおいちゃん、あおいちゃんあおいちゃんあおいちゃんあおいちゃん」
おねえさんが私の耳のすぐうしろでささやく。泣きそうになったけど、前を向いて歩いた。まりちゃんに対してすごく悪いことをしている気がしたけど、気にしないことに決めた。先に悪いことをしたのはまりちゃんだし、そしたら追いかけるのは全然ふつうだし――
まりちゃんは道路からそれ、山道をのぼっていく。この道の先はあのプレハブ小屋があるところだ。やっぱりまりちゃんはあそこにいるんだ、と確信した。おでこに浮かんできた汗をぬぐいながら、私も山道に入った。前をむいて進んでいくまりちゃんのふらふらと動く背中をなるべく遠くで見ながら、そっと後をついていく。
「あおいちゃん、だめだよ。まりちゃんの飼ってる子、大きくなったからね。大きくなって、強くなったからね」
おねえさんはずっとしゃべっている。きっと、私が返事をしないけど、話はちゃんと聞いてるとわかっているのかもしれない。環さんが言ってたみたいに無視するなんて無理だ。声がどんどん耳に入ってくる。
「強くなったからあぶないよ。おともだちも大変なことになるよ。あおいちゃん」
大変なことになるんだったら、なおさらまりちゃんに会わなきゃ。歯を食いしばって進むと、ようやくプレハブ小屋が見えてきた。まりちゃんはその中に入っていく。
せっかくここまで来たのに、私の足はまた止まってしまった。いやな匂いが急に強くなった。おねえさんはさっきから「だめだよ、だめ」とくり返しているし、私も急に気持ちがなえそうになって、足が動かない。まりちゃんがここにいるってことがわかったんだし、ほっといて帰って別の人に相談すればいいんじゃない? でも、やっぱりそれだといけない気がする。やっぱりまりちゃんに会わなくちゃ。
一歩ずつ小屋に近づいた。息を深く吸って、ゆっくり吐いた。心臓がどきどきはねている。ピアノの発表会の舞台袖みたいだ。プレハブ小屋のドアらしき板に手をかける。
すぐそこにまりちゃんがいる。
もう一度吸って、吐く。
「あおいちゃん」というおねえさんの声も無視する。
手をのばして、私はプレハブ小屋の戸を開けた。
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